決意 3



ん……?…明るい…?



ぁ…れ?



寝ちゃったんだ…。



?!


 

おでこに、ひんやりシートが貼ってある。



あ!



一瞬で、昨日の記憶が蘇り、勢いよく起きあがる。



「紫津木?!」



辺りを見回す。


静まり返った部屋…


サイドテーブルの時計を見ると、朝の9時を回っていた。



もうこんな時間か。


紫津木は、学校だね。


て、……紫津木、来たよね…?



もう一度、額のシートに触れてみた。


夢じゃなかった。


口元が緩んでしまうけど、ひとりなんだし、いいよね。



ん?



自分の手元に目がいく


部屋着のスウェット着てる…。


ぁれ?…ちょっと待って!


肌、サラサラじゃん。


自分の肌をあちこち触ってみる。


汗とかで、ベトベトだったのに…気持ちいい。



あ!…待って、後ろ……、

 

嘘…


綺麗になってる…


大急ぎで、自分の記憶を辿ってみる。

 

紫津木が、『風呂入れたぞ』って、迎えに来てくれたのは、憶えてる。


ただ、その後が…


ダメだ。


憶えてない。


さっきから触れてるシーツも、サラッとしてる。


紫津木…凄い…。 どんな魔法使ったんだ?


ううん……魔法な訳ないよね。


眠ってるオレを抱えて、風呂に入れて、身体を洗って、


その…後ろまで


たぶん…指入れたんだよね。



嫌な事させちゃた。


と、思うんだけど


なんだろ…この感じ_。

  

そんなとこ…触られてる自分を想像するだけで…  


身体が反応してしまう…。


オレ…やっぱ、汚れてるね。



紫津木が洗ってくれた真っ白なシーツを見ていたら、切なくなってきた。



はぁ…。


 

コーヒーでも淹れて、目を覚まそ。



リビングへ入ると、ローテーブルの上に何かが置かれていた。


近づいて覗いてみる。


お粥だ。


きちんとラップがされていて、その横にメモ用紙。

 


『ちゃんと食えよ』



走り書きっぽいけど、綺麗な字。


どんだけイケメン値高いんだよ。


これで、美味かったら欠点なんて無いんじゃないの?


一口食べてみた。

 

予想は、してたけど……、美味い…。


美味いよっ……、紫津木…



どうしよう… 


どうしたらいい?


紫津木の優しさが波のように押し寄せてきて…

 

オレ…返したい。


オレに、何が出来る?


オレなんかに、こんなにいっぱいの優しさを惜しげもなくくれて、

明日がくるのが、楽しみになって、


どうしたら…


どうしたら、オレの気持ちが伝わる?



いや……違う。


オレの気持ちじゃない。


オレが、どんな事をすれば喜んでくれる?


幸せな気持ちになってくれる?


オレが今感じてるこの気持ちを同じように、紫津木にも感じて欲しい。



どうすれば…

 

オレは、答を探すように部屋中を見回した。


ここには、紫津木とのたくさんの思い出が溢れている。

 

寝室で、抱き上げられたこと。 


リビングで『近い』て、言われたことや抱きしめてくれたこと。


玄関で、あいつらを追い返してくれた、頼もしい背中。


あの日の話をした時に、オレのために泣いてくれたことや、優しく包み込んでくれたこと。


そのくせ肝心な時に忘れものをしてしまう、ちょっとぬけてるところ。


そして、出窓で見せてくれた天使のような笑顔。



紫津木…

 


会いたい…



ん? 



ぁ…



これが答かどうか、わからないけど、

たまには、オレから会いに行ってみようかな。



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