第7話 決意 1



「やべっ、遅くなった。」



エレベーターを降りて、オレは通路を走っていた。


今日、また来るって、約束したのに…

がっかりしてねぇかな。


部屋の前に着いたと同時に、インターフォンを押す。



顔を出すまでの間に、息を整えておくか。


ふぅ…。



ん? いねぇのか?


んなわけねぇよな。


もう一回、押してみっか。 


再び、押してみる。 が、反応無し……。


マジかよ。


ドアノブに手を触れてみる。


開いた…。



前にも、このパターンあったな。


不用心だっつーの。

   


「如月?」



オレは、廊下を抜けリビングの扉を開けた。


居ない…。



鼓動が速くなる。

 

ジリジリと腹の中から、こみ上げてくる。


嫌な予感 

 


オレは、ゆっくり寝室の扉の前まで行くと、今の気持ちを払拭するように、勢いよく扉を開けた。



「如月?いる…の……か…?」



嘘…だろ?



「ごめん…なさい……。動けないから…好きに…して…いいよ。」



如月は全身裸のまま、うつ伏せでベッドに横たわっていた。



「きさ…ら…ぎ」



自分の気持ちが、どっかに持って行かれそうになるのを必死にこらえた。


オレが冷静じゃなくなって、どうする。


傍に居てやるんだろ?



オレは、駆け寄ってベッドサイドでひざまずき、如月の顔を覗き込んだ。



「如月?大丈夫か?」   


「ぁ…紫津木…だったの?…また…見られちゃったね…ヘヘッ」

 


直後なのか、頬は紅潮し、目も赤い…。


こんな顔…誰にも見せたくねぇよ。



「もう…無理して笑うな。」


「オレにだって、カッコつけさせてよ…。そうとう恥ずいぜ?…この状況…。」


「ばーか…。」



おでこに貼りついてる髪を整えてやると


 

ん?


 

オイ…


 

「熱あるじゃん。」


「うん…今朝起きて、オレもビックリ…。」


「ビックリじゃねぇよ。とにかく、服着ろよ。」

   


ベッドと如月の間に手を滑り込ませ、抱き上げようとした時、腕を掴まれ、拒否されてしまった。

    

  

「オレの身体…汚いから…。」


「汚かねぇよ。」

 


そう言って、再び抱き上げようとすると、


 

「いや…本当に…」


と、自力で上半身を起こし、背中を向けてしまった。


小刻みに震えてる背中に、傍にあったブランケットをかけてやると、今にも消え入りそうな声で話し始めた。



「オ…レ…の…中に…まだ…入ってる…から。」



何が?と、訊きかけて、言葉をのんだ。


んな事……


オレは、背後からおもいっきり抱きしめた。



「紫津木?…ダメだよ!汚れてるから…」


「汚れてねぇよ。」


「汚れてるよ…。」



ったく。……それじゃ、


少しだけ身体を離した。


途端に、不安そうに振り返る如月。


なんだよそれ。めっちゃ萌えるんですけど。



「風呂入るか?」



耳元で囁いてやると、顔を真っ赤にして前を向いてしまった。



「一緒にじゃねぇよ。」


「わっ…わかってるよ!」



ますます赤くなった。


首まで赤ぇぞ。


可愛いヤツ…。



こんな事されてても、オレにそんな顔見せてくれんだな。


その顔、誰にも見せんじゃねぇぞ。


……見せたくない。


誰にも


渡したくない。



『好きだ』と言えねぇくせに、独占欲だけは強くなる。



どうしようもねぇな……オレ。





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