尊敬と嫉妬 3


あ?



「キスする必要あったのかよ……。」

 


これか?


これがずっと引っかかってて…



「紫津木…?」


「お待たせしました。」 



だから、ミクちゃんタイミング悪すぎ。



「ごゆっくり_、」


と、言いかけた彼女は、オレ達2人の顔を交互に見ている。


そりゃ見たくもなるよな。


立派な大人が涙ぐんでるし、

現役モデルが、呆けた顔してるんだもんな。

  

葵さんが「ありがとう」と言うと、


我に返った彼女は、慌ててお辞儀をして戻っていった。



「なあ紫津木…」


「オレの質問に、まだ答えてないよ。」



何が訊きたいかなんて、大体の想像はつく。


その前に訊いとかねぇと、

本当の訳を教えてくれねぇ気がする。


いい加減な気持ちで、

キスなんてする人じゃないから、なおさらだ。



「…それじゃ…軽蔑されるの覚悟で言うよ。 オレさあ…あの時の愛ちゃんが_、」


 

葵さんは顔を上げ、大きく深呼吸した後、オレの目を見つめた。



「愛ちゃんが……紫津木に見えたんだ。」



???! 



「あの時の表情が凄くそっくりで、気づいたら…キスしてた。 ごめん…。」


「はあ?」

 


んだよ、それ…。 しかも、エロい言い方しやがって…。


キスも身代わりだったのかよ…。



「人前で、キスなんて…らしくないですね…。」


「配慮が足りなかったって、反省してるよ…結局、愛ちゃんがああなったのは、これがきっかけみたいなものだから…。」



わかってんじゃねぇか。



はぁ…。



わかってる。


葵さんが悪くないのは、わかってる。

  

尊敬もしてる。


理屈じゃねぇんだ。 

  

あいつを傷つける奴は、誰であろうと許せねぇ。  

 

それが、葵さんでも…オレでも。

 


「紫津木は、もうキスしたのか?」 


「はあ?」

 

「愛ちゃんと、キスしたんだろ?」

  

「するわけねぇだろ。」 


「へえ。意外。あの『紫津木藍』がね。」


「なっ…」



一気に、形勢逆転…



「ああ。…だから、そんなに熱くなってんのか。」



ぅ…図星



「なに迷ってんだ? 好きなんだろ?」



さっきまでの意地悪な表情は消えて、いつもの兄貴的な葵さんになっていた。



「告白は?」



オレは、無言で首を横に振った。



「どうして?…何か理由があるのか? 言ってみろ。」 


「……オレだって、あいつのこと…すげぇ好きだよ。 キスもしたいし…もっと_、」


「抱きたい?」


「…けど…それって結局、安堂達がやってることと同じなんだよ。」

 

「は?…それは違うだろ?」


「こっちは違うと思ってても、される側からしてみれば、同じだよ。」



この一言で葵さんは、目を見開き何か考える様子を見せた。



「オレに心を許して部屋に入れてくれたのに、んな事してみろ。また前のように部屋に閉じこもって、心も閉ざしちまうかもしれねぇ。

ずっと傍に居れるなら…オレの気持ちなんて、どうでもいい。」


「……紫津木は、それでいいのか?」


「…ああ。」


「……そうか。自分の気持ちを殺して、相手を支える…か。 オレと一緒だな。 ま、…オレは、告白しちゃったけど。」


と、オレにウインクしてみせた。


はいはい。わかったから、アピールするのは、止めてくれ。



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