第6話 尊敬と嫉妬 1


今日は仕事がねぇし、仕方なく放課後、葵さんを学校近くのカフェに呼び出した。


葵さんは、まだ来ていない。


さっきから、チラッチラッ見られてはいるが、今日は、営業スマイルをする心の余裕は皆無。


何気に、外のポプラ並木を眺めると、ガラスに写る自分の顔にドキリとした。


複雑な表情してんな。


昨日は、あんま眠れなかった。


如月の、この一年間の人生に深く関わっていたにもかかわらず、第三者のような顔で、男達を追い払っていた自分が腹立たしい。


知らなかったでは、済まされない。


そう思った。


それに…どうやって切り出すか…。


好きな人から、そいつが好きになった人の相談を受ける…て、どうなんだ?


でも…葵さんだって、如月にあんなことしたんだよな? 


ったく…オレ、どんな顔で話せばいいんだよ。


如月が関わると、調子狂うな…。



んな事を考えていたら、入り口付近が騒がしくなった。

  

葵さんだ…。

  

考えてみたら、外で待ち合わせるなんて初めてだ。

 

仕事以外の葵さんて、なんつーか…新鮮。


今日じゃなかったらな…。


今日じゃなかったら、『葵さん、まだまだイケるんじゃないですか?』なんて会話も、出来たかもしれない。


でも…今日は、ダメだ。 


さっきから、苛ついてる自分がいる。


ひとりひとり丁寧に対応している葵さんを見てるだけで、イライラする。


営業する気になれない自分と、対照的な葵さんにムカついてる。


そんな自分を客観的に見ている冷静な自分もいる。 


でも、葵さんの最初の一言で、その冷静な自分でさえも、何処かに飛んでいってしまった。



「し~づきぃ。初デートだね。」



っ!!!!


頭の中で、何かが切れる音がした。



「話を済ませて、早く行きたい所があるんで、協力して下さいよ、葵さん。」



オレは、葵さんの襟元を掴み、無理矢理、目の前の椅子に座らせていた。


ダメだ。気持ちが落ち着かねぇ。   


苛ついたまんまだ。



「おう。…遅くなって悪かったね。」



オレの態度に戸惑っているようだけど、相変わらずの笑顔。

 

わかってる。葵さんは、悪くない。


でも、気持ちがおさまらない。



「今…如月がどんな事になってるか…葵さん、知ってますか?」



葵さんの顔から、ゆっくりと笑顔が消えていくのが、わかった。



「きさ…らぎ?…て、愛ちゃんのこと…か?」



『愛ちゃん』にですら、苛つくオレ。



「ああ。」


 

敬語すら、どっかに行った。 




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