好きだなんて言えない

あの日 １７

「如月の事を身代わりにさせたオレと一緒にいるのが辛いなら、安堂をブン殴った後で、お前の前から消え＿、」

「だから、嫌だったんだよ！」

急に大きい声を出したオレに驚いて、目を丸くしてる紫津木。

だってしょうがないじゃん。

ここは、はっきり言っとかないと。

「紫津木…自分が、葵さんの好きな人なんだって気づいたら、オレの前から消えそうな気がして……だから、嫌だったんだ。　知られたくなかった。しかも、オレの事を身代わりにしたのは、紫津木じゃなくて安堂だからね。」

なんかオレ……

「一緒にいて辛いなら、最初っから、部屋に入れたりしないよ。」

ちょっと待てオレ。

「そりゃ、『何でオレが？』て、思ったこともあったけど、今は、オレで良かったって……紫津木じゃなくて良かったって思ってる。」

これじゃまるで…　　

「紫津木が傍に居ると、楽しいし…安心する……辛いわけないじゃん。」

告白…？！しちゃってるの？…オレ。

どんな反応されるか、怖くて顔が見れない。

「そっか……嫌われてなかったんだ…。」

顔を上げたら、苦笑している紫津木と目が合った。

あれ？気づかれてない。

ていうか、気づかれても困るけど…。

「もう一つ訊きたい事があるんだけど。」

「なに？」

「その……葵…さんの事…好きなのか？」

え？……何で…そうなるの？

「好き……て？」

「恋愛……的な？」

心の中で溜息をついてる自分がいた。

気づかれても困るけど…的外れな誤解をされるのも…なんか…ムカつく。

「あの日は、よくわからない感情に戸惑ったけど…今ならはっきり言えるよ。違うって。」

「そっか…変なこと訊いたな。」

あれ……ホッとしたような顔してるけど

もしかして…

え？…でも…

葵さんから、告白されたって言ってたし…

２人……つきあってるとか？

「今の話、葵さんにもしていいか？」

「え？ぇぇぇぇえ?!　今の話って？何で？」

「？…何で？って…葵さんにも協力してもらったほうが早いだろ？　安堂ブッ潰すの。」

「あ?!　ああ、いいよ。」　

その話か……ハハッ………はぁ。

頭の中で、紫津木と葵さんが並ぶ姿を想像してみた。

お似合いだよね…。　　

どの角度から見ても、非の打ち所が無い二人。

やっぱり、つきあってるのかな？

訊いてみるか？

それで、もし本当につきあってたら？

真実を知るのが怖い。

でも、はっきりさせたい自分もいる。

はっきりさせて、どうする？

このままオレ達、曖昧な関係のほうがいいのかな…

紫津木とずっと一緒にいられるなら…

でも、よく考えたら男同士なわけだし、普通にしてたらいいんじゃない？

普通…？　　

さっき…高校生の男子に、ホールドされてたよね…

うわあぁぁぁ！

冷静な頭で思い出すと、凄い恥ずかしいんですけど！

「ｸｯ…百面相。」

紫津木が、自分の膝に頬杖をついて、こっちを見ている。

うっ……！

ずっと見られてたのか？

オレは、自分の肘の内側で口元を隠した。

「すっげぇ真っ赤じゃん。何考えてた？」

言えるわけない。

意味もなく首を横に振った。

「…可愛い。」

なっ…！

「年上の男に…可愛い…とか言うなよ…。」

文句は言っても、声が小さくなってしまう情けないオレ。

「正直で、ごめん。」

それに比べて紫津木は、意地悪な笑みを浮かべて、なんか色っぽい舌をちょろっと見せてる。

絶対、バカにされてる。

可愛いとか言われても、嬉しくないし…。

きっと、自分より小さいから、小動物系のくくりで言ってるんだ…。

「んじゃ…そろそろ帰るわ。」

スクッと立ち上がる紫津木。

「え？」

急に寂しくなるオレ。

そんなオレを見て紫津木は、少し屈んでオレの顎に指で触れた。

「また来る。」

「え？ホント？」

「？…何今さら驚いてんだよ。」

紫津木は、気づいてないんだ。

オレが男だとわかってから、初めてなんだよ。

『また来る』って言ってくれたの。

初めてなんだ…。

明日を約束されたの…。