あの日 14



「しづ……き?」

 


話すことに夢中になってて気がつかなかった。



「ねぇ……紫津木?」



天井の一点を見つめていて、ピクリとも動かない。


前髪で隠れていて、表情まではわからないが…


微動だにしない姿は、明らかにおかしい。


オレは、正面に回って紫津木の瞳を見つめた。


ブルーグレーの瞳は微かに濡れていて、オレは、思わず息をのんだ。



「紫津木?」



不安になって名前を呼ぶと、ようやく目が合った。


そしてゆっくりと、紫津木の口が開いた。



「なあ……お前さ?」



紫津木の次の言葉をドキドキしながら、待った。

  

ブルーグレーの瞳は揺れていた。



「なに?」


「…イヤ……後でいいわ。続けて…。」


と、彼は右手で口を覆って、オレから視線を逸らした。


え? なに?なに?なに?

   

気になる。


気になるでしょ?こんな瞳されて…。


話した内容を思い浮かべてみる…


考えられるとしたら…イヤ…でも…


葵さんは、一生告白しないって言ってたから、『男前の彼』=自分 とは、思わないよね…。


そう思って、オレも話してた訳だし…


じゃ…何だ?


オレ何かマズいこと言ったか?



「如月?」


「あ?…あぁぁはい?」


「あんま見んな。」



ボンッ!と、爆発音が聞こえるんじゃないか?と思う位、急激に顔が熱くなった。


うわぁ…またやっちゃった。


オレが間近で見ている=紫津木も間近で見ている という事じゃん。


学習しないな…オレ。



「んな顔すんな。」



そう言うと、紫津木は、オレの肩に手を伸ばして、グイッと引き寄せた。


オレは、膝を立てて座っていた紫津木の間に、すっぽりと収まる形になった。



「罰として、続きはこのまま話せ。」



え?え?えぇぇぇ?!


何で?ていうか、



「何の罰?」


「如月は、知らなくていい。」



そんな…

   

この胸の鼓動…どうしてくれるんだよ。


こんな密着してたら、バレちゃうよ。



「いいなら、オレの首に手を回して。」



見上げて見た紫津木の瞳は、とっても優しくて、ちょっと色っぽかった。



「うん……。」



オレは、ゆっくり手を回した。

 


うわぁ…どんな図なんだよ。


ぁ…でも…紫津木の匂い…


やっぱり、ホッとする。



「話していいぞ。」



ぅ…近い……耳元…。


勘違いしちゃうぞ…。いいのかよ。


でも、これから話す内容…こんな状態で話せることじゃないんだけどな…。





*****





翌日、大学に行くため玄関を開けたら、目の前に安堂が立っていた。


驚いている隙に、中まで入ってこられて


手錠はめられて…


犯された…。

 


最中、誰の身代わりでも無く、お前を抱きにきた_て、…しきりに言ってた。



でもオレは…


怖くて…怖くて…


恐怖しかなくて


動けなくなったオレを見下ろして



「明日も来る」

 

て…



「逃げたら、この写真大学中にばらまくぞ。」


て、あの時の写真見せられて…。  



次の日、来たのは安堂だけじゃなくて、あの日、見張り役だった男も一緒だった。


 

「こいつも、お前の事抱きたいって言うから、連れてきた。もちろん、いいよな?」

 

て…

 


その日は…


2人がかりで…オレを… 


オレを…


オレの身体に、2人の手が伸びてきて…



「ぁ……」



胸の奥から、熱いものがこみ上げてくる…。



オレの身体の両側にあった紫津木の膝が、キュッとしまってきて、両腕でオレを包み込んでくれた…。



オレは、紫津木の背中のシャツを握りしめ、肩に顔をうずめた。



うわぁ…泣きそう。優しすぎ…。 



でも…最後まで…


最後まで、きちんと話さなきゃ。



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