あの日 10


「いいから、失せろ。 今後一切、オレの目の前に現れるな。 外でのびてる奴も忘れるなよ。」



しばらくの沈黙の後、安堂の舌打ち。


そして


扉の閉まる音…



終わったんだ…



「愛ちゃん。」



階段を上がってくる音



「来るな!」



気づいたら、そう叫んでた。


こんな姿見られたくない。


でもオレの言葉を無視して、今度は足早に上がってくる。



来るな。来るな。



「来るな!」 



再び叫んだ時、オレの瞳は、葵さんの姿を捕らえていた。



「見るな……見るなよ…。」


「愛ちゃん…。」



そう呟いた後、まだそこに立っていた。


呆れてるんだろ。


顔は、涙でぐちゃぐちゃ。


下半身は裸で、Tシャツで隠れているアソコは、反応したまんま。


軽蔑してるかもな。


あんな奴に犯されて、感じてるんだもんな。

 


葵さんは、黙ってオレの背後に回り、手首のロープを解いた。


かなり暴れたオレの手首は、皮がめくれて血が滲んでいた。


そんなオレの両手首を葵さんは、包み込むように握って、「ごめん。」と、呟いた。



「あいつが、オレに対して歪んだ愛情を抱いていたのは知っていた。 オレが拒否し続ければいい。…そんな風に思ってた。……ごめん。オレが甘かった。」



オレは、何も言葉が出てこなかった。


声が出なくて……ただ…葵さんを見つめてた。 

 


「…これ…苦しそうだな。」


と、葵さんの手が少しだけ、オレのものに触れた。


少しだけで、オレの身体は、ピクリと跳ねた。


誰彼かまわず、感じる身体ということが、葵さんにもバレてしまった。 



「今…楽にしてあげるね。」


と、当たり前のようにTシャツを捲り、オレ自身に顔を近づけてきた。


今から得られるであろう快楽を想像するだけで、さらに敏感になり、葵さんの吐息がかかっただけで、イキそうだ。



でも…


でも……!



僅かに残っている理性で、オレは拒否した。



「止めてくれ。……これ以上オレに恥かかせんな。」



葵さんは、切なそうにオレを見ている。



「人違いで犯されて……なのに、勝手に感じて……その上、葵さんに処理させて……葵さんだって、本当は……こんな事したくないんだろ? オレなんか放っておいて、好きな奴に会いに行きたいんだろ?」



違う……本当は、こんな事が言いたいんじゃない。


これじゃ…ただ、葵さんに当たってるだけだ。

 

カッコ悪…


でも…どうしようも無いんだ。この空虚感。



「愛ちゃんは、悪くない。 こうなる前に防げなかったオレの責任だ。だから、何も恥じることはないんだよ。」


  

オレを包み込むような優しい瞳で、オレを見つめてる。

  

葵さんは、こういう人だ。


今日初めて会ったけど、そう思った。


だからなおさら、虚しさを感じる。



「それに…これは、別の生き物だから。」


と、オレのものを指した。



「男って、そういうもんでしょ?」



葵さんは、舌をチョロッと出して、笑ってみせた。


オレも、それに応えたくて笑おうとしたが、表情筋が固まってて上手く笑えない。


そんなオレを見て、わかってくれたのか、頭をポンポンとしてくれた。



そして何も言わず、オレのものを口に含んだ。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る