あの日 7


オレが、こんな状況になっている理由は、そこか?



「オレ、男ですけど。」


「んなの、見ればわかる。」


「葵さんの恋人って、男なのか?」

 


なんとか誤解を解いて、この場から逃げないと、何をされるかわからない。



「入ってきた情報によると、そうだな。」


「いつ入ってきた情報か知らないけど、葵さんとは、今日初めて話したんだ。 恋人なわけないだろ。」


「嘘つくんじゃねぇ!」



急に大声を出されて、肩がビクッと跳ねた。


今まで穏やかに話していたと思っていたが、ずっと抑えていたのか?


ますますこの場を早く去りたくなった。



「このTシャツとジャージ……葵のなんだろ?」



そう言って、Tシャツの裾を掴んで匂いを嗅いだ。 

  


「葵の匂いだ。間違い無い。」



いったい何なんだ。誰なんだよ、こいつ。

   


「着替えを忘れたから、貸してくれただけだろ?」



男は、一つ大きな溜め息をつくと、オレの頬に触れた。

 


「キス……されたんだろ?」


「あんなの……葵さんの冗談に決まってんだろ!」

 

「葵は、冗談でキスなんかしない。」

 


え?……何言って…



「『葵さん』に『愛ちゃん』か…。どう見ても恋人だろ。」


「その名前だって……葵さん、今日初めてオレの名前知ったはずだよ?」


「片思い?……だったのか?」 



はぁ?



「好きな相手…とは言っていたが、恋人っていう表現じゃなかった。」

 


ダメだ。完全にオレの事、葵さんの相手だと思い込んでる。

  


「とにかく、オレじゃないんだから、早く解けよ!」 

  

「イヤ…お前に間違いない。 それに、オレとどっかで会った事ねぇか?」


「初めてお会いしましたけど?」



と、わざと丁寧に答えてやった。



「そっか……じゃ……誰かに似てるのか?」



オレの態度は軽くスルーして、真剣に記憶をたどっているらしく、眉間に皺を寄せ、顎に手を添えながらオレの顔をじーっと見ている。



そこへいきなり、教室のドアが開いた。

 


「安堂さん、まだっスか?」



オレの位置からは、そいつの顔は見えないが…

仲間がいたのか…。



「おぉ…そうだったな。必ず呼ぶから、見張ってろ。」


「お願いしますよ。」



ドアの閉まる音…。


見張りに戻ったのか。



「まぁいいや……とりあえずお前を抱かせてもらう。」


「は?」


「オレに抱かれりゃ、葵に近づかねぇだろ?それに葵も、こんな事実を知ったら、これまで通りに会う訳にもいかなくなるだろうしな。」



どういう理屈なんだ。

 

安堂とかいうその男は、オレのジャージに手をかけた。


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