あの日 6


「ごめんね。ああいうの苦手なんだ。」

 

「ああいうの…て、女の子達?」


「ファンでいてくれるのは、凄くありがたいんだけど、どう対処したらいいのか、わからなくて……。」



へぇ……何か意外。

 


オレ達は、大学の構内を並んで歩いた。


遠目にもわかるモデル体型の葵さんと、誰が見ても『彼シャツ』のオレ。


今思えば、どっかであいつらは、こんなオレ達を見ていたんだろうな。


かなりの誤解と共に……。




「どうせだから、一緒に勉強していく?」

 

と、図書室の前で誘われたけど、丁重にお断りした。

これ以上目立ちたくないし。



「今日は、ありがとう。またね。愛ちゃん。」


「愛ちゃん言うな!」



葵さんは、オレの態度を見て、可笑しそうに笑った。


絶対、バカにしてる。


さらに睨み返すと、葵さんは、オレの頬を包み込むように手を添えながら、反対側の頬にキスをした。



「な……!」



オレが、文句を叫ぼうとした瞬間、図書室のドアをピシャッと閉めて、姿を消してしまった。



全く!

   


怒りのぶつけどころが無くなってしまい、悶々とした気持ちで、元来た道を戻り始めた時……


誰かに口を塞がれ、意識を手離してしまった。



次に意識を取り戻したのは……、


 

え?……どこ?



まだぼやっとした頭で、周りを見渡すと、どっかの空いてる階段教室だということがわかった。


オレは、机の下に押し込められていて、腕は、後手で縛られている。


頭も、さっきからズキズキ痛む。



薬品でも嗅がされたのかな……。


ドラマの中だけかと思ったけど、実際にあるんだな。

 


そんな悠長な事を考えていたら、知らない男が視界に入ってきた。



「お目覚めですか?お姫様。」



だ…誰?



そう訊きたかったけど、声にならない。



「怯えんなよ。」

 


その男はニヤッと笑うと、オレの足下まで来てしゃがみ、オレを見下ろした。



「痛がることはしねぇよ。あ…でも、しちゃうかもね。」


と、ニヤニヤしている。


気持ち悪い。怖い。この男からは、危ない臭いがする。

近づいちゃいけない人間なんだ。


外見は、葵さんほどじゃないにしても、普通にしていればイケメンの部類で、少し長めの黒髪を後で一つに纏めている。



「あんた、葵の恋人なんだろ?」



「ぇ……?」



唐突な質問に、聞き返すのに間が空いてしまった。

 


「そうなんだろ?」



さっきまでのにやついた感じは無く、真剣な表情になっていた。

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