第2話 男の子 1


翌日……


出窓に座って、紫津木くんが通っている、向川高校むかいかわこうこうを眺めながら、

昨日の出来事を思い出していた。


多分……ていうか絶対、女の子だと思ってるよね……。

 

紫津木くん。

  

オレは、男ですよ!


なんて……、心の中で叫んでも、聞こえるはずないよね。


女の子に間違われることは、よくあるから、慣れてはいるけど……

オレに対する話し方や、気遣い……。

それがなぜか心地よくて、結局言い出せなかった。



『あお……。』



1年前のあの日……。


葵さんが呟いた言葉。


気になったけど、何を意味するかわからなかった……。


それが一週間前、

 

思わぬ板垣さんからの電話で、その意味がわかってしまった。



『如月くん。あれ以来、連絡もしなくて、すまなかったね。』


『いえ……。』


『どうしたら、君に元気を出してもらえるか、ずっと考えていたんだがね…、』


『その話は、もう……。 安堂あんどうをクビにして頂いた時点で、そちらのみそぎは終わってるはずですが……。』


『それだけでは……。 それに、安堂あんどうが、君にストーカー紛いの行為をしているという噂を聞いてね。』



っ?!


板垣さんは、どこまで知ってるのだろうか……。



『その事もあってね、君に会わせたい人がいるんだが。』



あの日以来、外界との接触を避けてきた。


大学にも、行っていない。


葵さんにも会っていない。


そんなオレが、新しい人間と知り合うなんて考えられなかった。



『うちの所属のモデルでね、

 紫津木藍くんだ。  』

   


……えっ? 今……なんて言った……?


 

オレの鼓動は、早鐘を打った。


板垣さんは、話を続けた。 



『モデルと言っても、安堂あんどうとは違って、とても誠実なコだから、安心してくれてかまわないよ。 ある意味、モデルらしくないモデルだよ。』


『あの……、もう一度名前……、』


『紫津木藍くんだよ。』

 


あお……。


名前だったんだ……。

  

そして恐らく、  


葵さんの想い人……。



こんな事されるとわかってて、教える訳ねぇだろ!



今でも耳の奥に残ってる、オレがトラウマになった葵さんの言葉……。



『わかりました。会います。』



その事を想い人は、知らない…。




 

 

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