女の子……? 9

「あ……ごめんね‥…さっきから変な話になってるよね。」


「ごめんなさい……調子に乗り過ぎました……もっと、紫津木しづきくんの事、知りたくなって……つい……。」


「そっか……。今の話は、これ以上広げたくないから……ごめんね。 その代わり、こんなのは、どう?」


 

オレは、「おいで」と、手招きして隣に呼んだ。



「あの建物、オレが通ってる高校。」



と、丘の上に建っている建物を指差した。

 


「えっ?……あそこって、公立の進学校ですよね?」


「ん?……まぁそうみたいだね。」


「お仕事と両立って、大変じゃないですか?」


「いや……テストさえ受けてれば、なんとかなるよ。……それより、如月きさらぎさんは?どこの大学?」


青葉教育大学あおばきょういくだいがくです。」


「学校の先生になるの?」


「いえ……心理カウンセラーになりたくて……。」



心理カウンセラー……。



「さっきは………オレが被験者になってたのかな……?」


「えっ……違っ……!」


「ああ!ごめん!」



さっきから、何イラついてる?


ダメだ。

  


「もう帰るわ。」


「あ……ごめんなさ…」


「違うよ。如月きさらぎさんが悪いんじゃない。オレの調子が悪いだけ。」 



オレは、リュックを肩にかけ玄関に向かった。

 


「仕切り直して、また遊びに来るから……。今日は、嫌な想いさせてごめんね。」



オレは、彼女の顔を見ずに靴を履き、玄関の外に出た。


何やってんだろ……オレ。


いつものように、適当にあしらえなかったのは、何故だ…?


はぁ……ダメだ。

 

とりあえず帰って、頭冷やそ……。

    


腕時計を見ると、8時を過ぎていた。     


今日が土曜日で良かった。



エレベーターで地下1階まで降りて、自分のバイクの前まで来た時に、 


気がついた……。



あれ?キーが無い…?



入れてたはずの、パンツのポケットをいくら探しても……無い……無い…!!


横になった時に、ポケットから落ちたのか?


つーことは……。


やべぇ……彼女の部屋か?


また遊びにくるとか言ったけど、

「もう来たの?はやっ!」とか、つっこまれそうだよな。

でも、彼女はそんな事言わねぇか……。

 

何やってんだ?オレ……。

かっこわりぃ……。


今通ってきた順路で戻ってみたが、彼女の部屋に着くまで、やはりキーは落ちてなかった。



ひとつ深呼吸をして、呼び鈴を押す。


~♪~


応答が無い……。


もう一度押す。


~♪~


やはり、応答無し。


オレが出た後、直ぐに外出したとか……?


何気にドアノブに触れると、まだ開いたままだ。



如月きさらぎさん……?」

 


オレは、そうっとドアを開け、中に入ってみた。


すると、リビングの方から、誰かと電話で話しているような声が聞こえてきた。



「………じゃない。明日からは、また言う通りにするから……」



如月きさらぎさん、電話中か。


オレは、靴を脱ぎ、廊下をぬけてリビングの扉を開けた_けど、オレには気づかない。



「そんな人居るわけないじゃん。だから今日は……そういう気分じゃないだけ。」



彼……とか?

    


「今日は……断ってよ……。」



もめてる……?



「わかった…。明日は、何人でも受け入れるから…。」



仕事……?


電話を切ると、携帯をクッションに落とし、1つ溜め息を漏らした。


俯いているので、表情はわからないが、彼女の肩は、小刻みに揺れていて、何かを堪えているようだった……。


その時、顔を上げた彼女と目があった。



「な……ん…で……?」



めっちゃ驚いている。そりゃそうか……。

 


「もう、遊びに来ちゃった……なんちって。」

 


と……おどけてみせた。


すると、みるみる彼女の表情が崩れてきて、今にも涙が_、


如月きさらぎさん…!!


気づくとオレは、彼女の腕を引き寄せ、抱きしめていた…。

 

彼女は固まっていたが、次第に緩み……


同時に、すすり泣く声が聞こえてきた。 

オレは、ただ黙って胸を貸した。


おそらく、今まで泣ける場所が無かったのだろう。

こんな細い身体で、今も何かに耐え続けてる。


そう思うと、抱きしめている腕に、力が入る。

彼女も、それに応えるように、オレの背中に腕を回した……。


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