二度寝

 その日、松一葉まつひとはは違和感に目を覚ました。

太陽は既に高く昇り、部屋の中は翳っている。一葉はを何とか動かしてスマートフォンを手繰り寄せた。

ホームボタンを押して表示された画面には午前十一時半の文字。

まだ少し寝足りないと感じたのか、スマートフォンを投げて一葉は改めて目を瞑った。



「――重い」



 そして、数秒後には目を開けた。一葉は、違和感の原因に目をやる。

気持ちよさそうに寝息を立てる、同級生の吉野仁香よしのにかがそこにはいた。

 一葉よりも頭一つ分は小柄な仁香の身体も、上に乗りかかられていては身動きがとり辛いというもの。

ましてや、仁香は一葉を抱き締めるように両の腕でガッチリと腰を掴んでいた。

 一葉の胸を枕代わりに、無防備なネグリジェ姿を晒す仁香の脳天に、一葉はゆっくりと手刀を振り下ろした。

こつん、といった効果音が似合いそうな弱い物であったが、どうやら目を覚まさせるには十分だったらしい。



「んぁ……」

「朝だよ」

「おやすみーぃ……」



 一瞬半目を開けた仁香は、一葉の言葉を聞くなりまた目を閉じた。

瞼が閉じられ、整った長いまつげの上下が触れ合う。それだけでは光を遮断しきれなかったのか、仁香は顔を一葉の胸にうずめた。



「こら、重いから降りるんだよ」

「んぇー、やーだー」



 駄々をこねる仁香を無理矢理ずり下ろすと、再び枕にされてしまわないように一葉は横向きに体勢を変えた。

ふと、一葉の視界の端に蹴られて丸まったベッドシーツが目に入った。「洗濯しておかないとな――」と一葉は頭のメモ帳に書き留める。



「抱き枕になっちゃった」

「私はそもそも、枕じゃない」

「あー、腕痺れてる。 しびしび」



 腰を抱いた腕は離さないまま、仁香は一葉の鳩尾に頭を埋める。

一葉のタンクトップが少しだけずれあがった。

 


「頭が幸せぇ」

「遊ぶな」

「ぶぇ」



 仁香は、小刻みに頭を動かすようにして一葉の乳房を揺らす。

耐え兼ねた仁香は一葉の頭をこれ以上動かないようにと左腕で抱えた。幼さの残った仁香のボブヘアが一葉の腕に触れる。



「んんぅ……まだ寝てもいい?」

「私も二度寝したい」

「じゃあ、寝ようー」



 ようやく大人しくなった仁香をそのまま腕に抱いて、一葉も目を閉じる。

 

 

「ひとはぁ」

「ん?」

「だいすき」

「私もだよ」

「ちゅっ」



 仁香の囁きに答えた瞬間、一葉は下腹部に少しの湿り気を感じた。



「こら、へそにキスするやつがあるか」

「だって、動きづらいんだもーん」



 駄々をこねる仁香に、一葉は改めて目を開ける。そして、ベッドの上で仁香の眼前まで移動する。

そこには、何かを期待した仁香の寝ぼけた顔があった。



「わかったよ、ほら」

「はっはー、よきかな……んっ……」



 唇と唇が触れ合う。起きたばかりの乾燥した唇を、互いの吐息と唾で軽く濡らし合った。



「おやすみ、仁香」

「おやすみぃ、ひとはぁ」



 陽はまだ高い。

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