第5話

「このご時世に唐揚げ屋とか、儲からねえってのに」

 名栗は病床にて死んだように眠る祖母を見下ろしながら、ひとり悪態をつく。

 金縁めがねの思わぬ一言から祖母の病態に感づき、やにわに病院へすっ飛んだものの、いかんせん間が悪かった。今日は午後から調子を崩していたという祖母は、日暮れ前にはもう横になっていたそうだ。

 天寿を全うした祖父に代わって唐揚げ屋を継いだのはいい。だが、病気を押して店を切り盛りしていたとなれば話は別だ。そんなものより命のほうがよほど大切であろうに。

 ――もし、病気のことを聞かされていたら。

 ふと浮かんだ都合のいい善意を、名栗は自らへの悪意と舌打ちをもって一蹴する。

 散々好き勝手したあげく、嵐のように家を出たどら息子もといどら孫の言葉に、いったい誰が耳を傾けようか。そも、相談しようとすら思うまい。

『余計なお世話だ』と突き放されるのが関の山である。

(……だからオレは、これからも好き勝手に生きる。生きてやるんだ)

 名栗は人工呼吸器に生かされている育ての親へ背を向ける。病院へ駆け込んだときに持っていたバッグはもう、手もとにはない。

「ったく」名栗は小さく笑う。「馬券を買う金が欲しかった――なんて、ダサすぎんだろうが」

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