第18話 僕と友達のデート本番戦(2)

僕と朱希は話しながら、目的地となる遊園地に向かっていた。すごくウキウキして楽しみな反面、少し不安と恐怖もある……。


でも、バレたらどうしようってずっと考えいてもどうしようもないから、雪華になりきれれば、いつも通り楽しめるんだって考えるようにした。


そう考えても、まだ不安は残ってしまう。それを朱希にもバレてしまい……

「ほら、桜花。そんな下向かないの!! 大丈夫だから、今の桜花10人いたら10人全員が可愛いっていうぐらい可愛くなれてるんだから、ほら笑顔笑顔!!。」

そう言って僕の両方のほっぺをつまみニコッとする朱希。


そうだよね……。せっかくのデートなんだから笑顔でいなくっちゃ!!


「うん!! ありがとう。今不安に思っても、しょうがないよね。よーし、楽しむぞ~!」


「そうそう!! いつもみたいに楽しんでいこうね!」


今日は特別な日なんだから、いつもよりテンションが下がってたらもったいないよね!


そうして持ち直すとだんだん目的地との距離が近づく。やっぱりドキドキはする……。でも今のドキドキは悠雨に会うための緊張からくるドキドキ……。


ちゃんと練習したんだから、大丈夫!!


そう思って、僕は心のスイッチを入れ始める。雪華ちゃんになれるように心を整えておかないと。


僕は雪華……、僕は雪華……、ぼ……私は雪華……。


私は、夜夕月雪華やゆづきゆき……。


それに加えて僕は自分の中にある女の子スイッチをマックスにした。普段しない理由は、これを入れると本当に危なくなってしまう時があるから……。でも、今日ならせっかくなんだし!! 


それに、やっぱり可愛い私でいたいから……。


そう思いながら、私たちは目的地に向かって歩き続ける。

そしてそろそろ入口が見えてきたところで、朱希が私の肩をたたいて

「桜花、ファイトだよ!!」と背中を押してくれた。


「うん!! よし、いくぞ~!!」

そうして、二人で入口に向かってかけて行くと、入口近くで待ってくれている、悠雨と己丞君が見えてきた。己丞君がこっちに気づいて、「二人とも~、こっちだよ~。」と手を振ってくれていた。


そこ目掛けて、さっきよりも急いでかけて行く。二人の元に着いたときちょっと勢いよく走りすぎたせいで、私と朱希は息切れをしてしまった。


その様子を見たせいか悠雨は「だ、大丈夫……?」といつもより端切れが悪そうに、声をかけてきた。


私は息切れを起こしながらも「はい、大丈夫……です!!」と答えた。朱希の方は己丞君がサポートしてくれているようだった。この二人のやり取りはいつみてもほっこりする。肝心の悠雨の方は自分が年下という設定のせいなのか、話しかけるのに戸惑っていた。


話しかけてくれないのかな……? ならしょうがない、自分からっ……


「あの……、この前髪留めひろってくれてありがとうございました。夏本さん。あのときはろくに顔も会わせようとせず、すみませんでした。」


「えっ……、あぁ、全然。あの、雪華さん……? 直接聞いちゃうけど、俺嫌われてないよね……?」


「そんな、嫌いになるなんてそんなことないですよ!! 」


「そっかー、よかった~!! 最初あんな感じだったから、俺なにか気に障るようなことでもしちゃったんじゃないかと思って。」

悠雨は僕の言葉でとても安心を得ていたようだった。嫌いになるはずなんかないのに……。


「髪留めをひろってもらったのは私なのに嫌いになるなんてありえないですよ~。あと、さん付けじゃなくて普通に雪華って呼んでください。年下ですし。」


「えっ……、あぁ、うん、わかった。雪華でいいの……?」


「はい!! よろしくお願いします、夏本さん!!」


「なんか、夏本さんって呼ばれるの慣れないな~。普段そう呼んでくれる人が、いないからかもだけど。」

たしかに、悠雨のことを苗字で呼ぶ人は聞いたことがなかった。呼ぶときは大体みんな下の名前、前に悠雨の従妹に会わせてもらったことがあったけど、その子も悠雨くんって呼んでたし。


「苗字で呼ばれるの、あまり好きじゃないですか……?」


「いや、別に苦手という訳では無いよ。ただ少し距離を感じるかなって……。」


「えっと……、じゃあ、なんてお呼びすればいいですか……?」


「うーん、そうだな。気軽に名前で呼びすてでいいよっていっても、雪華も年上にそれは気が引けそうだしな……。」

こういうところがいかにも悠雨らしい。いつも人が関わるとなかなか決められないんだよね。


そんなことを思っていると、だんだんと表情が緩んでいき私の顔はニッコリと笑っていた。


「……? 雪華、なにか嬉しいことでもあった?」


「いえいえ、別になにも!! そうだ、悠雨さんって呼んでいいですか? お互いに名前で呼ぶ方がいいかなって、思うんですけど……どうですか……?」


「そうだね、それなら距離はさっきより近くなった感じがするし、それでいこう!!」


「はい!! じゃあ……、よろしくお願いします。悠雨さん。」

今のところは上手くいっている。でも、少し意識させるためにも攻めた方がいいのかな……。攻めるといっても、自分にできるかどうかわからない……。でも、やれるところまでやってみる!!


そうこうしていると、朱希と己丞君がそろそろ中へ入るよ~!!と声をかけてきてくれた。

悠雨はそれに対して、返事を返す。

「はーい!! 行くよ~!! じゃあ、雪華……、行こ。」


いつものように声をかけてくれたけど、前みたいに手を差し出してはくれない……。悠雨からしたら、ここにいるのは雪華なんだから当然なんだろうけど……。


「はい!! 楽しみですね!!」


そして、二人の元にかけ戻っていくと朱希から「どう……? 距離感縮まった?」と耳元で聞いてくる。

だから自分も朱希耳元に小声で答える。

「一応、名前呼びにはなれたよ……!! ここからもっと距離を詰めていきたいと思ってるから……。」


「うん、応援してるよ……!!」


こうして始まった、僕らのデート大作戦は悠雨だけが知らずに開始のテープを切った。








~続く~

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