街の移り変わり
ヒロシ達の『サワー』集まりは高校に進学してからも続いた。ヒロシが高校2年の時に親が家を建てた。会社の社宅を出て千葉の方に引っ越すことになった。だが、高校は都内ということもあり、何かにつけてこの駅商店街に寄り道した。中学校の時の悪ダチは高校もバラバラに進学した。だが『サワー』に行けば誰かに会える・・溜まり場は続いた。
高校3年になったばかりの時だった。寄り道したヒロシが『サワー』でゆったりしていると、ママがしんみりとこぼした。
「あのね、ミエコとここを出て目黒の方に移るの。ここを去るのは寂しいけどね。」
詳しく聞くと、お店の名前は変えず、次に入る夫婦にお店の経営を譲り、違う土地で暮らすということだった。どういう事情でママとミエコさんが移ることになったのかはわからない。
ヒロシが次にお店に行った時は・・既にお店の切り盛りは後を引き継いだご夫婦となっていた。それとともにヒロシも悪達も『サワー』に行く機会が減っていった。いつのまにかヒロシ達の溜まり場も変わり、駅前の別のカフェになり・・、『サワー』へは足が遠くなった。
ヒロシは大学に進学した。活動範囲と付き合い仲間が大きく変わった。西武池袋沿線のあの駅へ寄ることは減っていった。ヒロシだけではなく、悪ダチもそれぞれの家の都合であの地域から出て行ったりしてバラバラとなった。
ヒロシは社会人となった。数年ぐらいした時のことである。たまたま仕事であの西武池袋線の駅近くに行くことがあり、足を延ばして商店街を歩いてみた。商店街は変わっていない。だが・・なんと・・『サワー』はもうやっていなかった。錆びた小看板、ボロボロのドアがそのままあった。温もりは無くなっていて・・何か一つの時代が終わったようでヒロシの胸を締め付けた。
以降、ヒロシは数年ぐらいの間隔で思い出しついでにあのエリアに寄り道した。昭和から平成と変わるとともに、街もどんどん変わっていった。ヒロシが住んでいた企業社宅の敷地ははスーパーとマンションに代わった。ヒロシ達の新たな溜まり場となった駅前のカフェもなくなった。駅舎も立て直おされてモダンになった。マンガ界で有名なアパートが近くにあったため、モニュメントができて名所化した。
このエリアは、バブルの時代は日本に稼いぎに来る外国人の居住が都内で一番多い地域で話題となった。バブルがはじけて・・企業社宅は次々に整理され減少、それもあって少子化が一段と進み・・、ヒロシの通った小学校・中学校は併合されて無くなってしまった。今はこのエリアは居住区域としてとても人気らしい。都内で住みたい街に常にランクインしている。
さて、『サワー』はどうなったか。ヒロシが4年前にあの地域に寄り道した時は・・、商店街も様変わりしていた。昔からのお店は少なくなり、シャッターがしまっているか、大手のチェーン店の飲食店ばかりとなっていた。『サワー』のあったあたりは再開発が進みマンションだらけとなっていた。もう『サワー』のあった場所さえわからなくなってしまった。
今、ヒロシは 大手IT企業に勤めている。大学の成績が悪くてこの会社にしか就職出来なかったのだが、IT産業の成長の時流にのり、ヒロシの会社も上場まで果たした。落ちこぼれだったヒロシも営業部長の役職である。あの西武池袋線のエリアで悪ガキとして育ったヒロシであったが、サラリーマンとしてなんとかやってくることができた。営業という人付き合いが大切な仕事ができるのは・・『サワー』での社会勉強がためになっているのかもしれない。
仕事柄、ヒロシは良く飲みに行く。『サワー』の営業か、カウンターのある店が好きだ。こじんまりしたカフェやスナック入るとあの『サワー』を思い出す。
もう一度、ママ、ミエコさんとカウンター越しに美味しいコーヒーを淹れてもらいながら話したいと良く思っている。どこにいるのだろう・・。
「あの時の悪ガキはこんな風になったよ。」
と言ってやりたい。
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