常連の客達
『サワー』には地元の様々なお客さんが来ていた。ヒロシ達がまず最初に知り合うようになったのは大学生達だ。この西武池袋線の駅商店街界隈近くには学生向けの下宿が多いこともある。大学生達とは良く麻雀をやった。麻雀は点1(点10円)で始めた。中学生だったので、ヒロシ達の小遣い的にそれぐらいから始めるのが身分相応であった。学生たちはいつも点50円でやっていたが、ヒロシ達とやるときは合わせてくれた。だが、その内にいつのまにか点3となり、結局最後は点5でやるようになった。ふんだんに小遣いをもらっていないヒロシは、毎度、熱くなり緊張して卓にむかった。それもあってか・・麻雀はそこそこ強くなった。
学生達は競馬もヒロシ達に教えた。賭け事では、麻雀、パチンコは学生達と知り合う少し前からやっていたが、競馬は学生達から教わった。教わるというより・・場外馬券場にヒロシ達が勝手に着いていったというのが正しい。ただ、ヒロシにとって、競馬は麻雀ほど確実にリターンは得られなかった。さらに、駅前のパチンコ屋も不景気で出が悪くなったこともあり、結局、麻雀だけがその後のヒロシの趣味?として残った。
学生達は、当時の若者が皆そうであったように貧乏だった。風貌も汚かった。髪を伸ばしてラッパのジーパン、ヒッピー風だった。だが・・彼らも就職活動の時がやってくると髪をバッサリ切って学ランを着るようになった。「いちご白書をもう一度」をその場で見ているような感じだった。
『サワー』の夜はスナックだから、地元のオヤジさん達が多くなる。ヒロシ達は、夕方のカフェとスナックの重なる時間帯に、夜の店の常連さん達と店で会う機会があった。この店で酒も覚えたが、さすがに少年の身分で夜遅くまでは店にはいられない。まだ親の目を盗んでいたこともある。
昼間のヒロシ達のような客よりも、明らかに夜の客の方が『サワー』にとって大切なお客さんであることを、昼夜の店の雰囲気の違いで理解した。ママとミエコさんの応対が違う。どうやら相手が大人だということだけではないようだ。夜の方が大人達がお金を落としていく。それを感じてヒロシ達は若輩としてのポジションをとった。処世術を知らないうちに身に付けた。夜は出しゃばらないようにした。
一人の常連のオヤジさんがいた。頭は剥げていて小太り、地元の不動産屋の社長だ。良く話す客だった。このオヤジさんは来店すると、ミエコさんを隣に座るようにリクエストする。そして酔ってくると・・、いや、ヒロシにはワザと酔うように見えたが・・ミエコさんの腿を触り出すのだ。ミエコさんはその場ではニコニコしている。だけどオヤジさんが帰った後に、
「もー、嫌っ!」
と良く愚痴った。当時、ヒロシはオヤジさんの行動もミエコさんの我慢も理解できなかった。飲み屋というところは、そういう場面が良くあるものだとそれを理解するのに時間はかからなかったが。ヒロシにはオヤジさんの行為が恥ずかしく映った。自分は大人になってあのオヤジのような行動は絶対すまいと思ったものだ。実際、それなりの歳になってクラブで横にホステスが座っても、ヒロシはピッタリとは座らない。普通以上の欲情を持った男ではあるが『サワー』の時にみ見たあのオヤジと一緒にはなりたくない、そういう意地が続いているのである。
女性のお客さんも多かった。20才前後の地元のお姉さん達が良く来ていた。彼女達は、ヒロシ達を小憎らしいガキ扱いしていた。からからい会話を楽しむ年下の相手には丁度良かったようだ。時には少しエッチぽいからかいもあった。ヒロシ達はムキになって言い返すが、相手の方が上手だった。でもそれがワクワクする刺激になった。
お姉さん達はいつもは小ざっぱりとしたカジュアルな身なりでお店に来る。ところがある時、一人のお姉さんが高そうな毛皮のコートを着てお店に入ってきたことがあった。ヒロシ達がからかった。
「スゲェー、高そう! めちゃ派手姉ちゃんじゃん!」
すると、そのお姉さん、
「こういうの買ってくれる人、ちゃんといるんだよー」
と色っぽく流し目で返された。ピシャッとやられてヒロシ達は黙るとともに・・いらぬ想像をしたものだ。
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