『サワー』
ヒロシが麻雀を覚え始めたころ、悪ダチと良く集まるようになった喫茶店が駅商店街のはずれにあった。その喫茶店で、様にならないタバコを吸いながら馬鹿話をし、4人集まったら麻雀をやりに行く。パチンコも背伸びをしてやりに行った。パチンコの景品で雑誌とかタバコを取ってきたら喫茶店に買ってもらって小遣い稼ぎをしたりしてた。
その喫茶店の名前は『サワー』という。カウンターが数席、テーブル席が二つほどのこじんまりした店だ。『サワー』は親子2人で切り盛りしていた。気っ風の良いママと娘さんだ。ママには本当に良くしてもらった。ヒロシ達のような素行の悪い少年達を寛容に受け入れてくれたのだ。ヒロシ達は学校では教わらない人生勉強をここで積んだ。ママから、そして店にくる客達から刺激的な話をたくさん聞いて・・大人の世界を少しずつ覗き見した。
男と女の話、金にまつわる話、痴話げんかの話、手癖の悪い客の話、賭け事の話・・。
『サワー』のコーヒーは美味しかった。ママがサイフォンで本格的に淹れてくれる。お陰様でヒロシはコーヒー好きとなった。ママの影響が大きく、今でもコーヒーには煩いヒロシだ。
『サワー』は喫茶店だけど、夜はスナックにもなる。喫茶メニューにお酒もあるのだ。ということでヒロシ達は中学校3年の頃になると、格好をつけて『サワー』でお酒を飲むことも覚えた。飲んでいたのはダルマである。それをコーク杯にして・・実はコーク杯じゃないとまともに飲むことができないヒロシ達だった。
こんなことがあった。粋がって初めてボトルをキープしたばかりの時のこと。ヒロシは、ある休みの日の昼間に『サワー』に入った時、格好をつけてママにオーダーした。
「ボトル出して、コーク杯でね。」
すると、ママが妙な顔つきをしている。
「いいけど・・、昼から飲むの?」
今考えれば、地元の街中の喫茶店で、中学生が昼からお酒を飲む・・。絵になっていなかった。それはおかしいことと知る。そうやってこの店で学校では教わらない常識を知っていく。ガキだった。かなり背伸びをしていた。それでもママ、娘さん、常連のお客さん達は大らかにヒロシ達に接してくれた。
ヒロシの中学時代、『サワー』は人生初めての行きつけの店となった。
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