第1話

学園の朝は華やかに賑やか、遠くから望めばこんもりと緑に覆われた広大な敷地へと、ホワイトとグリーンの制服の群れが次々と吸い込まれていく。


ちょっと見にも女子の比率が高いその眺めは百花繚乱、響き渡るの声は鳥たちのさえずりのようで。


敷地を囲う高さ数メートルのレンガ塀の外側。

円形のバスターミナルにモスグリーンのバスが停まると、タラップから順々に学生達が吐き出される。


はぁ、眠いなぁ……。


なだらかに弧を描くまぶたの中、薄茶の瞳が眩しげに空を見上げた。

緑のリボン付きの白の半そで、かざした手の甲を額に当てながら。


「おはよ、桃子」


「はい、おはよ~」

内側にバラパラと毛先が散ったセミロングの髪の下に手を入れると、肩をギュッ。


……ああ、肩凝ってる。頭も、重いし。


焦点の定まらない気分を引きずって校門まで流されてくると……あれ、あの人だかりは?


蔦の絡む赤レンガ造りの柱の間、校訓の刻まれた碑の前に、白とモスグリーンの制服が群れている。


かしこげな唇が少し突き出された。

そして、人垣の脇を通り過ぎながら、向こう側へと伸びをすると。


見えたのは、周りよりポンと一つ高い頭、赤い毛先が散ったショートのワイルドボブ。

そして、芝居がかった派手な手振りの後で、はいはい、とすかし気味に頷く整った顔。


「了解了解、先生センセ。どうぞ、これはあげるからさ」

少しハスキーな声が耳に届く。やっぱり、ね……。


見間違いも聞き間違いようもない姿と声だった。


長身の女生徒を睨みつけながら、唇をキッと結んだショートカットの女教師。

スタイル抜群の「彼女」は、「センセ」の手に何かを押し付けると、くるっと踵を返して、緑の広葉樹が影を落とす並木道へ歩き出した。


桃子は、ほどけ始めた人垣の間をぬって、小柄な自分からは見上げるばかりに高い背中に近づいた。

そして、緑のスカートが翻る腰をポン!と。


「お…」

見上げれば普段よりひときわ薄茶に染められた髪――まして、毛先は薄紅。

その下で切れ長で大きな瞳が視線を落とすと。

「…桃か。おはよ。

なんだ、目ぇ赤いじゃない。また夜遅くまでベンキョー?」


「はいはい。また何かやった? 美悠、あんたは」


「ああ~」

白に緑のライン入りの襟に手を持っていって、美悠は息を吐きつつ小さく伸びをした。


「たいしたことじゃないよ、桃。ジャンヌ先生にアクセサリーのプレゼント。

ま、デートに重宝なんじゃないかな。あれ、結構値が張る奴なんだ」


なるほどね……。

桃子はまるまる頭一つ分も高い、整った顔を横目に見やると、紅い毛先に手を伸ばした。


「またいろいろジャラジャラとつけてきてチェックされたのはわかったけど、その髪

は?

いくらなんでも、ケンカ売ってるんじゃない?」


「そうかな。ナイスアクセントだと思ったんだけど」


朝の穏やかな光が葉陰から注ぐ並木道、大人と子供ほども身長が違う二人組みを遠巻きに、制服の学生達が歩き過ぎていく。


向けられる視線は、眩しげ、憧れ、親しげ、嫉妬、敵意まで。


天乃星あまのほし学園の最強コンビ、くれない美悠みゆう西涼さいりょう桃子。

モデル系とカワイイ系、ボディとブレイン、大胆と緻密、そして、「シュミ」まで加えてまさに最強の――。


「せ、先輩!」

と、東へ緩やかにカーブを切る並木道、背中から飛び込んできた声。

それは、少し震え気味で。


「ん、何?」

と、唐突に差し出されるピンクのリボン付きの巾着袋。

「これ、お昼の時に。お茶請けに食べてください! 手作りですから」


お……。

少し身を屈めてお菓子袋を取り上げる整った横顔。

その「ふーむ、どうすっかな」という雰囲気に、桃子の半月形の目が、ちょっとからかったような色を浮かべた。


「うん、ありがと。手作りかぁ……。がんばったね」

淡いピンクの口元がニッコリ笑いかけると、駆け去っていった花壇の向こうからは、「キャー、美悠先輩に~!」小さな叫び声。


V字に切れた襟から覗く豊かな胸元で緑のリボンが指先で玩ばれ、頭上から小さな吐息が聞こえた。


「桃も食べるか? たまには昼飯、一緒にどう」


「もし、余ったらね。だって、気持ちこもってそうじゃない」

桃子は小鼻を指でさすると、唇を窄めて眉間を少し寄せた。


「……もしかして美悠、少しブルーじゃない? その髪も、気分?」


「うん? いや、そうでもないよ。

少しくそぉっ、て奴はあるかもしれないけどさ」


立ち並ぶ白亜の柱。乳白色に輝く段々を上ると、吹き抜けのエントランスへと。

そこでは、色とりどりの植物に囲まれた六弁の花を象った噴水が静かに水を吹き上げている。


「ふうん……、珍しい。

じゃ、たまには付き合ってあげよっかな。あんたの取り巻きに刺されるのはイヤだけど」


「ハハハ、だな~。

まーどっちかって言うと、その方がわかり易いかもねぇ。

桃先輩、美悠さまを取らないで!ってさ」


幼稚舎の頃からイヤという程見てきた、馴染みの表情。

顎まで整った顔の稜線の中、すかし気味の目が昇降口へと上るタイル張りの大階段を見上げていた。


「もう、何言い出すわけ?

ちょっとやめてよ、美悠。あんた、トチ狂ったんじゃないでしょうね。

今、背中がぞぞ~っと……」


肩がボンと叩かれると、思いっきりな笑いがハッハッハッ。


「違う違う。いやさ、一歩踏み出す勢いのある子がいればな、ってね。

それならさ、ああガックリくることもないんだろうけどねぇ」


ああ、あんたの話は相変わらず見えにくい――会話の続きは、昼のカフェテラスから、午後イチの授業中へ繋がっていて。


「……なるほど、ね」

緑のジャージの膝を抱え込むと、桃子はあきれた調子で、はあ~っと声を出した。


「まったく、真面目に聞いたわたしが馬鹿みたいじゃない。

結局、ナンパ失敗のイライラ?

くだらな過ぎ、いい加減にしなって」


この子は、まったく――体育館の白いラインに向けて足を投げ出した長身を睨むと、ハハハと軽く笑う口元から、綺麗に並んだ白い歯がこぼれる。


結局、こういう女なんだから、美悠これは。節操がないにもほどがある。


ラインの向こう側では、バスン、ドスンとボールが弾け、リングが揺れる音に続いて、ホイッスルの甲高い音が体育館内に響き渡った。


「だいたい、まだ街角ナンパなんて続けてたわけ? やめなさいよ、恥かしい」


「……でもなぁ」


美悠は、コート内のバスケットボールの行き交いから視線を外すと、後ろ手をついたまま、ライトが眩しい天井へ頬を膨らませた。


グリーンの体操服の肩、はねた紅い毛先の下の表情は、確かに真剣そのもの。


ああ、亜衣ちゃん、なんで海外になんて行っちゃったかな。いくら長い付き合いとはいえ、これを止めるのはわたしには無理。


「どうもシャキっとしなくてさ。寂しいってのとは違うけどね。

ああ~、でも、ホントに可愛い子だったんだぞ。

もう、こう、ナチュラルで、子犬みたいって言うのか、なんてのか……」


「はいはい、わかった、わかりました。そのもみ手、やめてよ。

だいたいわたしに言って、どうなるもの?」


「そうだよなあ……」

そのままゴロリと床の上に仰向けになると、ダークグリーンの短パンから伸び出た足を組み合わせる。


「桃には雄志ゆうしがいるし、こういう気持ちはわからんだろうなあ。いつも傍にいる誰かがいないって言うのか……」


だ・か・ら。

「そういう問題じゃないでしょ、女子LOVEなあんたと何をシンクロすればいいのってこと……それより、美悠、転がってる場合じゃないでしょ」


ミニゲームの笛吹きで左右に走り回る角刈りの体育教師の姿を見遣ると、桃子は美悠の脇腹を突ついた。


「んん。でもさ、何か変わりあるのか?

あたしは昔っからオンナが好きってだけで、それは指向の話なわけで……、ああ、わかったって」

相変わらず、陽光降り注ぐ公園の芝生の上状態の幼なじみの脇腹を、今度はゲンコで突ついた時。


「こら、紅! 何寝てる!! 試合を見ろ!」


――ほら、言わんことじゃない。


サイドライン際、ジャージの膝を抱えて並んだ休憩組からクスクス笑い、汗まみれの試合組は腰に手を当てて呆れた目つき。


「おい、こっちへ来い!」

「あー、はいはい」

すらりと長身の身体が、肩を回しながらゆっくり立ち上がると、交代を促された一人と替わってコートに入る。


「紅。オマエな、見るっていうこともしろ」

はいはいわかりました、そう口元が動いて見えてすぐ、ジャンプボール。


軽やかに、しかし、向かい合う相手より腕一本分も高く飛びあがった手のひらがボールを弾き飛ばす。


……が、そのボールは相手チームに。

素早くドリブル、そして放たれたミドルシュート……、だが。


「うわ、高けぇ」

隣コートから男子の声が届いた。


後方からいつの間にか追いついていたしなやかな姿。


リングを弾いたボールを、高く上がった手が確保……着地。

そして、肘をがっちり張ってガード、すぐに素早いパスを――の瞬間、それはフェイク、反転してドリブルへ。


目の前をダンダンダン、猛スピードで通り過ぎると、今度はペナルティエリアの外から放物線を描いてジャンプ!

差し延べた手が、リングの中に軽くボールを流し込む。


薄茶の髪が毛先の紅と混じり揺れて、ふっと瞳に笑い。


続いて、エンドラインからのファーストパスを、すぐさまクイックにカット。

そこから強くドリブル、再びジャンプシュート……いや、ダンク?!


女子が?


ボン……リングをくぐり落ちたボールを、床に舞い降りたしなやかな身体はワンバウンドで手の平に乗せ、エンドラインで立ち尽くす同級生に、片方の手を胸の前に添え、軽く会釈。


隣のコートから感嘆のうなり、サイドラインからは割れるような歓声が上がる。


ふぅ……本当、こうして見てるとカッコイイよね、美悠は。この世のものには思えないもの。


幼なじみに抱いたいつもながらの感慨。

それは、部室でのストレートな問いかけへと姿を変えて――。


「そんな調子でね。

……ねえ、雄志、どう思う」


マウスを素早くクリックしながらディスプレイを覗き込むYシャツの背中。

角型のファッショングラスをかけた男子生徒の細い目が、作業から離れて桃子の方に向けられた。


「う~ん、どうだろうなぁ。オレは、ナンパとかって気、まったくないから」


「やっぱり、あれぐらい目立って、人が寄ってきちゃうと、かえっていつでもどこでも恋人いないと寂しい~、とか思うのかなぁ」

夏の太陽がキラキラ降り落ちる、緑なす前庭を見下ろすと、桃子は窓枠をコツコツと叩いた。


デスクをぐっと押してOAチェアーを転がすと、短く刈り上げられた髪の下、面長の顔が、隣まで滑り寄ってきた。


「それはまあ、いないよりいる方がいいとは思ってるだろうけどね。

ただなあ、男でナンパするって奴とは感覚違う気がするなぁ」


「……あ、ゴメン。編集、邪魔じゃない?」

桃子の形のいい眉根が寄せられると、視線の先で手が軽く振られた。


「いや、ちょうどキリついた。今日はここまでにしとくわ。

……とにかく、美悠ちゃんの場合、取りあえずは女子だからなぁ。

男のリピドー的なもんってのか、ハンティング的なのとは違う気が……」


「そうなんだって」

長机をボンと叩くと、端に載せられたカメラやランプやらの機材が揺れて小さく音を立てる。


「それは、ほっとけばいいってのは基本だけど。一応、知り合いとしては考えちゃって」


「だなぁ……、ま、お前と美悠ちゃんの間柄だもんなぁ」


「ホント、腐れ縁。こういうのをそう言うんだろうね」

桃子は薄い唇をムゥッと引き結ぶと、もう一度校庭を見下ろす。


立ち並ぶ柱に流線型のオブジェ、乳白色の石畳と、花に囲まれた六弁の噴水。

すべてが初夏の陽差しに照らされてキラキラキラと……。


まったく、美悠とはずっとだからなぁ。


父親同士が大会社のトップとその顧問弁護士の間柄。家族ぐるみの付き合いもはや十数年、まだよちよち歩きの頃からの「お友達」。


せめて、あのシュミさえどうにかなれば……ううん、それは無理か。


小さい頃から好きになるアイドルもキャラクターも全部女子、小学校高学年になって交換日記を始めれば、仲間になった子に「スキスキスキ」の猛アタック。


オンナ同士の愛憎、完全に踏み越えた領域のこだわりだった……。


そして、中学生の頃にはすっかり「本物」になっていた。


「ナブラチロワさんてすごいな、憧れる!」――はるか前世紀、恋人(もちろん女性)を試合会場に同伴して生き生きしていたと言う鉄のオンナに、ひとかたならぬシンパシーを抱いて、目標とまで言い切ってたんだっけ。


そう言えば、中学校の頃、部屋に遊びに言って見せられた……、これがオカズとかなんとか……


ああ、やめやめ。

いろいろ考えてもしょうがない。


いくらなんでも、日常ナンパして歩くようなことはやめさせないと。


十年来の友達としてのせめてもの忠告。ってのか、あの無邪気毒牙にかかる女の子のこと考えるとね……思った瞬間、見下ろした前庭、白亜のエントランスから出てくる人影に気づいた。


五階からでも見間違いようがない抜群の長身、ライトブラウンの小さな頭に、片手で背中にひょいと担がれたカバン、軽やかな足取り。


そして、その隣には――。


「……雄志、前言撤回する」

「ん? 何が」


無言、視線だけで見ていた先を示した彼女の横に並ぶと、Yシャツに緑のネクタイの男子生徒は、ほぉ、と口を尖らせた。


見下ろした先では、話題の「幼なじみ」の傍ら、両お下げの小柄な女子が肩を窄め寄り添っていた。

そして、伸ばした長い腕が華奢な肩に回され、ギュッと引き寄せて……。


チュッ。


「うわ、大丈夫かいな。あんな見えやすい場所で。

ジャンヌに見つかったら、停学もんだ」


ああっ、もういい。あれはやっぱりああいう女なんだから。

結局、本能だけ。

いろいろ考え回すだけ、こっちが疲れちゃう。


おとなしそうな下級生(たぶん、今日朝お菓子をくれた子に違いない)の頬に身を屈めてキスした幼なじみの姿を意識の外に追い出しながら、桃子は部室の中へと勢いよくきびすを返した。


その仕草に、少し彫りの深い男子生徒の顔がくすり、と表情を崩したけれど、その賢げで半円形のまぶたの中の瞳は「何?」と、クールに横に向けられただけ。


ガタン!

その時、スチールの衝立の向こうでドアの開く音。

そして、部室に入ってくる勢いのいい足音と共に、高っ調子の女子の声が響き渡った。


「部長ぉ、桃子先輩!遅れてすいません!

ロケ行きましょう!今日なら、いい夕日が撮れそうですよ!!」


*************************************


うう~ん、何だかうまくいきすぎて面はゆい。

捨てる神あれば拾う神あり……、いや、違うかな。


一糸纏わぬ白い裸身が映る、ドレッシングルームの大きな姿見。ポーチから出しておいた香水フレグランスの瓶を並べると、鼻先に指を当て、フム。


やっぱり、柑橘系にしておこうかな。

優希ちゃんだと、ほんのり甘い感じがゼッタイだ。あと、今日はこっちは用なし。できればあまり使いたくないし、もしかしたらあの子、ハジメテ、かも……。


桃色に薄紫、可愛さと妖しさが相まった樹脂製の道具をポーチの奥に押し込むと、美悠はウンと唇を結び、手のひらに香水を落とし揉んで首筋へ。


腕から脇の下、そしてもちろん、もっと下った「そこ」にも香りを散らしていく。


ツンと上を向いた豊かな乳房と薄紅色に突き出た雄弁な乳首、緩みのない曲線を描く腰に、張り詰めた太腿。

ほのかな甘い匂いと共に、身体の全てがミューズ像のように白く輝き……。


『あ、あの、美悠先輩、あの……食べてもらえました?』

気分も乗らないし、体育館や道場には顔出さないで帰るかなあ――ラウンジを抜けてエントランスへ下りようとした時、背中から声を掛けられたのは、夕方も近い頃だった。


振り向いた先、制服の肩をすぼめ、カバンを両手に捧げ持っているのは、黒髪を高めの両お下げにまとめた……間違いなく、今朝手作りクッキーを手渡してくれた子だった。


「あ……、うん。もちろん。おいしかったよ。

キミの手作りだろ? すごいね」


ニッコリ笑うと、緑のリボンの前で組み合わされる両手、そして……。


「なんかお礼しないとさ。何がいい?」


「何にもいらないです! 美悠先輩に美味しいと思ってもらっただけで」――おっとり系の丸い顔をうつむき加減にしていた「優希ちゃん」。

「じゃ、デートでどう?」と指先を振ると、カッチンコッチンに固まってしまって。


「あそこのスコーン、なかなかいけるだろ? ま、優希ちゃんの心づくしには負けるけどさ」――行きつけのカフェでお茶した後、欄干に肘をついて、夕焼けの川面を目に映しつつ伺うと、寄り添った肩はさっきまでよりずっと近くなっていて……。


おずおずと、先に閉じられていた目を見下ろすと、最初のキス。

手を添えた肩が小刻みに震えているのがわかった。


「もっとイイ事、する?」――答えは、大きく見開かれてすぐに伏せられたまぶたと、握り締めた指先の震えで充分だった。


そして。


シャワールームから、淡く光るベッドルームに足を踏み入れた今、ベッド上にシーツのふくらみが見えて、美悠は頬が緩むのをどうにも止められなかった。


「ほら、どしたの」

黒い頭の先がのぞいた薄桃のシーツの端を持ち上げると、横を向いた狭い額と、ちょっと下がり気味のネコちゃんな目が。


「……う、うん……」

全部見えかけた丸い顔へまたシーツが持ち上げられると、その下で身体も丸くなるのがわかった。


カワイイ!


さっきから胸の中で鳴っていたドキドキが、もうお腹の当たりから盛り上がるみたいに切なく燃えたぎる。


「ホラ、ここまできて隠してもダメだぞ、優希。カワイイから、見せて。ね」


「……ホント? 笑わない?」


「笑わない、笑わない」


するするとシーツを取り払うと、横向きに膝を抱え込んだ小さな身体が、淡い光の中に浮かぶ。


少し肉付きのいい感じの白い身体には、ライトグリーンのチェックが入ったプリントのインナーが着けられたまま。


「……ヤダ。やっぱり、恥かしい……。

わたし、太ってるし……、幼児体型だし……」


「そんなこと、ないよ。すっごい、き・れ・い」


お下げのクセでナチュラルウェーブになった髪をすき上げると、耳元に口を寄せて、密やかに。


「どうやって、愛してあげようか」


耳たぶに、吐息とチュッ。

胸の触れた腕の辺りが、ビクッと震えるのがすごくビビット。


それだけで腰の後ろにジンと広がる切なさに、美悠はすんなり切れた眉を寄せて、肩口に当てた手に少し力を込めた。


後は、とめどなく溢れる流れのままに。


「可愛いオッパイ。チュッ、してあげるね」

甘い吐息と握られるシーツ。


「ここは……?」

静かに脇腹に唇を下ろすと、絡めた指先が動き合って。


「いや……。恥かしい」

「ダァメ。ほら……優希の、いっぱい欲しいって……」


抜き取った下着から香る甘さ。触れた指先には、溢れる潤い。


「後ろ、向いて。こっちから愛してあげる」


後ろから抱え込むように合わせた胸と背中……もう一度耳たぶにキス。

舌を忍び込ませながら、指先を滑らせて、うっすらとした草むらの生え際へ。


「優希」

「せんぱぁい……」


掠れた声と、荒い息遣い。

そして。


身体を引き起こすと、後ろから両手で抱きしめる。顎に手を添えて、また唇を合わせると、今度は貪るように激しく。


うん、そうだよ、優希。うん……。


さっきまでとは裏腹に積極的に突き出されてくる唇と舌。伸ばされて首に巻き付けられる腕。


自由になった両手で、身体全体を愛撫する。


首筋から爪を立てるように線を描き、胸のふもとから頂きへと。さっきよりずっと窮屈に尖り出した「そこ」に届くと、軽く摘み上げるように刺激を送る。


そして、もう片方の手は、膝立てをした太腿の外から内へ回り……。


開いた口腔の中を激しくなぞっていた舌先が、喉の蠢きを感じ取った。


「う、うぅぅ……」

胸に当てた手をそのままに、もう一方で腰を支えて小さな震えを抱え込む。


可愛い……、もう感じちゃたのか。


「せ、先輩……」

そのままうつ伏せに倒れ込んで、乱れた髪の中で虚ろな目とハアハアと荒い息遣い。


チュッ。

首筋にキス。


チュッ。

背中にキス。


チュッ。

腰にキス。


チュッ。

お尻にキス。


「……先輩、ダメぇ。もう……。くすぐったい……」


ううん、まだまだ。大丈夫、もっと感じられるよ。


そのまま少し歯を立てると、手を添えた外腿がビクッと動く。強く愛撫しながら仰向けを促すと、イヤイヤの素振り。


「ダメ、先輩。もう、イッパイ……」

「ううん、優希。正直になって。

もっとよくなれるよ、あたし、わかってるから」


うつ伏せのまま、内側へと指を回すと、少し緩んだ腿を割って、揃えた指で外側の肉の厚みの中へと……。


滑らかさに誘われて一本が内側のひだの中を抉った時。

「いたぃ……」

小さな声が頭上から。


……やっぱり。


「……優希」

ゆっくりと身体をせり上がらせると、頬っぺたにもう一度キス。


「こっち向いて。ホラ」

「うん……」


髪の毛の中に手を差し入れると、正面から身体を合わせて少し眦の下がった目をのぞき込む。

もう片方の手を腰に回して、強く引き寄せる。そして、キス。


喉から吐息が漏れると、足の間を膝で割り、身体全体を隙間なく包み込む。


美悠の身体の中にすっぽり収まってしまう小ささ。唇を離してゆっくりと身体をすり合わせると、膝に当たった場所を基点に、腰がゆっくりと動き……。


「そう、感じて、優希」

「う、うん……ジンジンする……」


手を伸ばして膝との間に指を入れると、さっきよりもっと溢れ出している泉のほとりの真珠に添えて。


「う……。そこ……」

感じやすい子。ホントにカワイイ!


そして、自然に立てられる形になった優希の膝に自分の中心もあてがった時、


「あ、いやいや……」

耳元で途切れ途切れの声が弾けた。


うん、もう限界だよね、思いっきり、切なくしてあげる。


胸と胸とを攻めぎ合わせ、耳朶じだを舐めとり、小刻みに震わせた膝に添えた二本の指でしこった根元をなぞり、押して剥き出しにした真珠の先を軽く弾く。


「あん、あああ~ん」

細い声が響くと、ブルブルと足と腰が震え、美悠の中心に当たった膝先も小刻みな連動をする。


う……。あく……。


自らの身体を過ぎる軽い痺れに奥歯を噛み締めると、腕の中の小さな身体は次第に弛緩して、深いため息をついた。

そして、ぼんやりとした瞳が天井に散らされる。


身体の奥にじんわりと広がっていくさざなみ。


手を付いてもう一度小さな唇にキスをあげると、目蓋をパチクリ、照れてすぐさま視線を逸らすとシーツをまとめて背中を向ける。


美悠は、裸のままで横臥してひじ立てをすると、抑えても零れる笑みを頬と瞳の中に浮かべて、無言の背中を見つめた。


いい子だよな……、ちょっとおとなし過ぎかもしれないけど。いや、ここから育つ恋もあるよな、亜衣とだって、最初はこんな感じだった気もする。


解けた黒髪のかかる小さな肩に手を伸ばし添えると、美悠は仰向けになった。


その、少し汗で光る、どこにも緩みのない乳白色の裸身。

紅い花の散らされた天井に目を細めて少しの間――。


勝気で可愛く、七色にクルクル変わる縮れ毛の悪戯っ子の顔がほわんと浮かぶ。


チクッ。


唇を軽く結ぶと、余韻に浸りながら目を閉じているのだろう「今日の恋人」の背中へ軽く視線を流し……。


『どっちが先に見つけるか競走だよ、ミユ。

わたしもあっちで絶対にベストパートナー、見つけるから。だからそんな顔、しないで。いつものかっこいいミユ姉でいて』


少し陰りを帯びて伏せ気味になっていた目蓋がパチッと開くと、一息で満ちるダイヤモンドの輝き。


ダメだよな、こんな時に他のオンナの子を考えてるなんてさ。邪道、邪道。


白くて丸い肩口に唇を寄せると、チュッ!


「……先輩?」

ぼんやりと薄目を開けて振り返った、少し紅潮したままの頬にも、チュッ。


「もう少し、愛してあげる。いいだろ、優希も」

「え……。う、うん……」


戸惑い混じりの表情に、ニッコリ。鼻を指でさすると、美悠は密やかに、でもはっきりとした言葉で言った。


「どうやって愛してあげる? キスからにする? それとも、いきなり激しくしてあげちゃおうか」

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