第16話『サトシ(43歳)異世界でパパになる』

「それにしても移住してきた

 雪女は美男美女しかいないな

 眺めているだけで目の保養になるな」


サトシは村に移住してきた

雪女の男女をなんとは

無しに眺めていた。


雪女というのは種族名

であり、男性でも"雪女"

という種族名で呼ばれる。


もっとも男性も色白で

女性のように均整の取れた

顔だちの男が多く、


ぱっと見で女性と区別が

つかないほどのイケメンが多い

ことからも女しかいない種族

と思われることも少なくない。


fa○eのセイバーみたいに

男装を着た女性と思いきや

普通に男だったみたいな

感じである。



(ぶっちゃけイケメンとか転生チート

 よりはるかに反則級のチートだよ。

 おぎゃーって産まれた時点で既に

 世界に対して勝利しているんだもんな!)



サトシはそんなことを

考えながらなんとはなしに

雪女たちを眺めていると

少し機嫌悪そうにミミが

話しかけてくる。



「むう……。サトシ、お主、

 ちょこーっとだけ鼻の下が

 伸びておるのじゃ」


「いやいやいやいや。

 そんなことは

 ありませんよぉ、ミミさん」



ミミは何か思うところが

あるのか今日は少し

いつもよりもブルーな感じだ。

ため息をつきながら語る。



「旦那さまよ。一つだけ

 お願いがあるのじゃが村で

 美女を集めてハーレムを

 作ろうなどとは思わない

 ことじゃ。これは妻としての

 嫉妬ではいのじゃぞ?」


「ハーレムかぁ。俺はもともと

 そんな甲斐性はないし人間関係が

 面倒くさくなりそうなものを持つ

 予定はないけど、どうして急に?」



そもそも、世界樹の葉の力で

サトシの体内年齢は18歳まで

若返らせられ、精力も猿時代の

中学生時代まで強化エンハンスされ、

更にHPも上限突破で

HP99999まで向上している。


その上でミミ一人相手の"もっふる"で

HPが9割持っていかれるのに

他に妻を持つなど考えられない

ことであった。



(そもそも俺はミミが好きだから

 他の女性に手を出そうという

 気にはなれないんだよなあ。

 銀髪ロングで薄めの褐色少女とか

 完全に俺の好みだ。アホ毛も

 かわいいしな。好きだ)



サトシの問に対して少し

思う所があるのか、いつもより

落ち着いた口調でミミは

サトシに話しかける。



「旦那さまよ、ちょいとだけ、

 真面目な話をさせてもらっても

 よいじゃろうかの? 

 人族と魔族の争いの歴史についてじゃ」


「ん? もちろん」


「まず、結論から言うのじゃ。

 ハーレムが原因で人類は

 滅亡する――、のじゃな」


「なっ……なんだって――!!」



サトシは椅子からガタリと

立ち上がり某MMR風の

リアクションで応える。



「そのネタはよく分からぬのじゃが、

 反応してくれてありがとうなのじゃ。

 今のは冗談ではなく、この世界の

 史実に基づいたマジ話なのじゃ」


「えっ。マジ話なの?」



空気を察して、椅子から

立ってちょっと変顔で

リアクションをとっていた

サトシはいそいそと

椅子に座りなおす。



「うむ……。結構真面目な話なのじゃ。

 妾の女としての嫉妬ではなく、

 いままでの歴史を振り返っての

 助言なのじゃ。人族と魔族の

 過去の争いはハーレムが原因で

 起こっているのじゃ」


「なぜ、ハーレムが原因で

 人族と魔族が争うことになるんだ?」



「人族で魔王を討伐した者は、

 その戦いの後に、

 英雄として祭り上げられる。

 つまりは、めっちゃモテモテに

 なるわけじゃ。そうなると

 当然いろいろな女性から求婚され

 色んな女とまぐわい子を作るのじゃな」


「ふーむ。

 一夫一妻制じゃないから

 そうなるのが普通なのか」


「ハーレム。妾はその文化自体に

 とやかく言うつもりはないのじゃ。

 問題視しているのは魔王を倒した者。

 つまり英雄がハーレムを持つ

 ことなのじゃ」


「それはどうして?」


「ハーレムから産まれた子の

 3世代目から4世代目、

 つまり曾孫の世代の人族が

 離反し、魔族側につき、

 戦争を起こすのじゃ」



「勇者と魔王の争いが60年から

 100年おきに起こるのはその

 子孫が火種になっているからか。

 ぶっちゃけ聖杯○争のような

 周期的問題かと思っていたけど

 そういう訳じゃないんだな」



「うむ。ざっくり60年おきに

 大きな争いが起きるのは

 この魔王討伐者の末裔が

 必ず関わっているのじゃ」



ミミは机の上のミルクを

ひとくち飲んだあとに

言葉を続ける。



「例えばじゃ。母親違いの子供が

 10人産まれたとするじゃろ。

 仮にその10人の子どもたちが

 3人づつ子供を生むと二世代目

 には30人になるのじゃな」



サトシはこくりとうなずく。



「更に、三世代目には90人。

 四世代目には240人……

 その全ての子らを平等に扱う

 ことができるのであれば問題

 など起こらないのじゃろうが、


 現実的には三世代目には

 血縁者のなかでも劇的な

 格差が生じてくるのじゃ。

 なかには奴隷に身をやつす者も

 でるほどの格差がでてくるのじゃな」


「なんとなく分かる。

 そもそもハーレムを作る時点で

 正妻の子であるか、側室の子であるか、

 そもそも認知されていない子なのか

 という格差もあるだろうからな

 世代が進めばそれが顕著になるだろうな」



「そうじゃな。結果として

 英雄の血を受け継ぐ者の中で

 その産まれによる格差に不満を

 持つものが必ずでてくるのじゃ」


「その者たちの誰かが魔王側に

 寝返り人族に対して牙を

 剥くという繰り返しか」


「そうじゃ。ほれ。最近村に亡命した

 魔王ユミルを見れば分かるじゃろ。

 魔王の首は優勝トロフィーのような

 ものでユミルの意思とは関係なく

 勝手に戦争は続いていく」


「四天王の誰かが扇動している

 可能性は?」


「その可能性は低いのじゃな。

 表に出ずに参謀役として

 あくまでも目立たずに

 暗躍しているはずなのじゃ」



「となると特定は困難か」


「そうじゃな。そもそも

 何人が寝返っているのか不明じゃし、

 仮に暗躍するもの全ての首を

 獲ったとして、5世代目にそのツケ

 が回されるだけじゃ」 


「仮に……だ。魔族側が

 人族を倒すとどうなるんだ?」


「仮定の話にするまでもなく

 過去に魔族が人族を倒し

 魔族が支配していた時期は

 何度もあるのじゃ」


「その場合は……?」

 

「人族の英雄が魔王を倒した

 時とまったく同じじゃ。

 過去の例では人族の代表を

 倒した英雄が魔王となり

 その魔王がハーレムを作り

 四世代目あたりの子の

 誰かが人族に寝返り争う

 結局は起こることは同じじゃな」



「前にミミが言ってた通り、

 魔族っていうのは瘴気に少し最適化

 しただけで人族とそう変わらないんだな。

 行動パターンや業も一緒とはな」


「そうじゃな。妾の視点から見れば

 人族と魔族の差などは微々たる

 ものなのじゃが。ふむ。なかなか

 そう簡単な話でも無いのじゃな」


「まあ。世界の瘴気をマナに変換

 できる世界樹のミミとしては

 瘴気に少し最適化した魔族も

 瘴気に弱い人族もそう

 変わらないだろうな」



この世界に満ちる瘴気は

人にとって毒になるものであるが

瘴気が無ければ世界樹が

この世界の生命体にとって

必須のマナを作り出すこともない。


マナの原液が瘴気であり、

そのまま吸えば有毒であるが

無くなって良いという類の

ものではない。



地球の生物にとって酸素は

必要不可欠なものである。


だが、この酸素も太古の昔には

猛毒の物質であった。その毒を

エネルギーとして活用できる

者たちが人類である。


そういった視点でみるのであれば

薄めの瘴気をエネルギー変換

できる魔族は進化の可能性の

一つと言えるのかもしれない。



(ふーむ。日光に照らされることが

 多い地域に住んでいる人間は

 強い紫外線に対応するためメラニンの

 多い黒人になり、紫外線がそれほど

 驚異とならない地域に住む人間が

 メラニンの薄い白人になる、みたいな差か

 まあ。淘汰論的には厳密には違うのかもだが、

 文系脳な俺的には細かい話はパスだ)



サトシの考える通り、

ミミにとっては魔族と人族の

感覚的な差は地球で言うところの、

日本人とヨーロッパ人との

差程度のものである。



「更にじゃ。そういう人族と魔族が

 争いの連鎖を繰り返えしているうちに

 1000年経ち、終焉をもたらす者

 "ウ・ラヴォース"が目覚め、魔族も

 人族も等しくきっちり9割殺戮。

 そのたびに文明のリセットが

 起こっていたのじゃな」


「生命をきっかり9割殺すとか

 "ウ・ラヴォース"さん(故人)

 エゲツないっすな!」



「そうじゃな。まっ、その

 大災厄ウ・ラヴォースは

 妾の旦那さまが滅したので

 文明のリセットのようなことは

 今後は起こらなく

 なったのじゃが。さすがは

 サトシと言ったところじゃの」


「まあ。世界樹の葉でパワーアップ

 してなければ倒すのは無理だった

 から、ミミのおかげでもある。

 ここは夫婦の勝利ということにしよう」



サトシはミミに向けて

親指でグッドサインを作る。



「そういってもらえると助かるのじゃ。

 瘴気をマナに変換する"世界樹"は

 ウ・ラヴォースも殺すことのできない

 存在。それ故、殺されずに過去の

 人族と魔族の数千年の争いの歴史を

 親から子へと受け継ぐことができたのじゃな」



「それでミミはこの話を俺に

 したという事はそのうち俺が

 この世界に英雄になると

 思っているということか?」


「うむ。旦那さまは強い。

 もしその強さが知れ渡れば

 女たちはお主をほっては

 おかぬじゃろう。それに

 魔王は妾たちの村に亡命中。

 生殺与奪はお主が握って

 いると言ってもいい」


「理屈は分かった。説明ありがと!

 だけど、絶対にそんな事には

 ならないと約束をするよ」



サトシは自分の小指と、

ミミの小指とを絡ませて

約束の証として

"指切りげんまん"を行う。



「まず、ハーレムは作らない。

 そもそも俺はあんまり多くの

 異性と関わるのが得意ではないし、

 そこに安らぎを感じられる人間じゃない。

 俺にはミミがいればいい。

 まっ。そんなソリストプロぼっちな俺だからこそ

 "化外の地"でスローライフをしようと

 考えたんだがな。ははっ!」


「世界樹である妾を泣かせるとは、

 サトシは罪作りな男なのじゃな……」



ミミは自分の目元を

服の袖で拭いながらつぶやく。



「次に、魔王であるユミルさんを

 俺が殺す事はないし、他の者に

 命を狙われるなら俺が土属性で守る。

 もうユミルさんは俺たちの村の住民だし、

 財政管理や、多種族の住民管理とかの

 仕事はユミルさんじゃないとできない。

 そんな彼を殺すなんてありえない。

 彼には、想い人もいるみたいだし

 それはあまりにかわいそうだ」



「いろいろ、安心したのじゃ。

 湿っぽい話をしてすまなかったのじゃ……。

 妾はいわゆる"またにていぶるう"という

 やつになっているのかもしれないのじゃな」


「まっ……またにてい……って、

 マタニティーブルーッ?!!!」


「そうじゃ。またにていぶるうじゃ」


「まっ……マッ……マジか!!??」


「……話すのが遅くなって、

 すまなかったのじゃ。

 サトシを驚かせてしまったかの?」


「いっ……!!!」


「いっ?」


「いやっだああああぁぁあああっ!!!

 マジか! うおー! やった!

 えらい! すごい! 嬉しい!

 うわあ! 世界樹! 大好き!

 幸せだ! ほんと! 可愛い!

 ありがどおおおおおおおおおおっ!!」



サトシ43歳は泣きながら喜んだ。

あまりの感激にサトシはしばらく

涙したあとに、


妊娠中は母子に不幸なことも

起こることもあるから出産が

無事終わるまではあまり

喜び過ぎないほうがよいという

話を思い出し気を落ち着かせる。


今の時点であまり自分が

感極まり過ぎてミミにプレッシャーを

かけないように深呼吸をして

なんとか気を鎮め、

今度は落ち着いた声で話す。



「ミミこれからは極力無理せず

 ゆっくり静養していてくれ

 村の事は俺に任せていて大丈夫だ

 ちょっとでも辛いことがあったら

 なんでも言ってくれ。できる限り

 のことはさせてもらう」



サトシ(43歳)はミミのお腹の

あたりに直接体が当たらないように

両膝を床に着けぎこちない姿勢で

妻を抱きしめ、静かに幸せを

噛みしめるのであった。


=================

【辺境村の開拓状況】


◆住民

土属性:1名

世界樹:1名(+1) ←New!

ドワーフ:35名

魚人族ディープワン:28名

魔王:1名

雪女:23名

ゴーレム:たくさん


◇特産品

ケチャップ

あいすくりいむ

ワイン(ドワーフ族作) ←New!

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