272話―世界を巡る旅路・アーティメル編
その日、リオは帝都ガランザを巡り親しくしている人々に挨拶をして回った。屋敷で働いているジーナやサリア、リリーたちはリオに激励の言葉を送る。
「大丈夫、リオなら勝てるさ! そんで、必ず帰ってくる。な、サリア」
「そうねぇ~。リオくんなら絶対戻ってくるわ。わたしたち、そう信じてるもの。ふふ、ご馳走作る準備をしないといけないわねぇ」
「そうだ。主は疲れて帰ってくる。美味しいご飯たくさん、私たちで作る。だから、帰ってきておくれよ」
そう口にする三人を見ながら、リオは頷く。ジーナとサリアはリオが魔神になる前からの付き合いがある。本心では、リオを危険な場所に行かせたくないだろう。
それでも、二人は応援の言葉をリオにかける。当初、自分たちが抱いていた『魔王討伐』の使命を成就してもらうために。二人は、祈りを捧げる。
「じゃあ、僕宮殿の方に行ってくるね」
「ああ。気を付けてな」
リオが去った後、ジーナとサリアはリリーを連れ教会へ行く。新たにベルドールとラグランジュを神体として奉るようになった教会にて、三人は魔神の始祖に祈る。
どうか、リオたちが誰一人として欠けることなく、無事で帰ってきますように、と。深々とひざまずき、
(なあ、魔神のご先祖さんよ。今まで神頼みなんてしたことねえけど……今、初めて祈るぜ。どうか、リオが無事に帰って来れるように)
ジーナは目を閉じ、そう心の中で祈る。サリアやリリーも、同じようにベルドールへリオの無事を祈願していた。戦うことの出来ない彼女たちの、精一杯の行いだった。
一方、宮殿へ向かったリオは皇帝アミル四世との謁見を果たすべく手続きをしていた。とはいえ、リオはもう宮殿の関係者にとっては気心の知れた相手である。
形式だけの簡単な問いかけだけで終わり、リオはすぐアミルの待つ謁見の間へ通された。謁見の間にて、リオはアミルに出迎えられこれからの事について語った。
「……なるほど。七日後に魔界へ乗り込み、魔王と決着を着けてくる……そういうことじゃな?」
「はい。僕の最後の務めを、果たしに行ってまいります」
アミルからの問いに、リオはそう答える。魔王グランザームの討伐。かつて、アミル自身が勇者ボグリスとその仲間たちに与えた使命だ。
しかし、その途中でボグリスは裏切りの末倒れ、ジーナとサリアは戦えない身体となった。最後に残ったリオは、魔神の力を継承し多くの敵を打ち倒してきた。
「……なあ、リオよ。わしはかつて、君たちに使命を与えた。魔王の討伐という、長く険しい道を往く使命を。その使命を、果たそうとしてくれること……感謝している」
そう言うと、アミルは手を叩く。側に控えていた文官が後ろの部屋へ下がり、豪華な装飾が施された箱を持って戻ってくる。アミルは箱を受け取り、リオを手招きした。
「リオよ、君は一人ではない。共にはいられなくとも、我らの魂は君と共にあり続ける。こことは違う、とある大地で見つけたこの指輪を授けよう」
「これは……?」
アミルは箱を開き、中に納められた指輪をリオに見せる。白く輝く金剛石が嵌め込まれた指輪には、霊的な力が宿っていた。
その力を感じ取り、目を丸くするリオにアミルは指輪の効果について説明する。こことは違う世界で見つかったソレは、霊を呼び出す力を持つと言う。
「正確に言えば、この金剛石に名を封じた者を
「ありがとうございます、皇帝陛下。この指輪、大切にしますね。必ず、グランザームを倒してきます!」
指輪を受け取り、リオは力強くそう宣言する。アミルは満足そうに頷いた後、謁見を終えて去っていくリオの後ろ姿をずっと見つめていた。
「……陛下。あの子は、勝てるのでしょうか?」
「勝つとも。彼は盾の魔神、この国の……いや、この大地キュリア=サンクタラムの英雄だ。必ず勝つ。そうだろう?」
「そう、ですね。愚問でした。では、今のうちに宴の準備をしておかなければいけませんね。国を挙げての宴ですよ」
リオが去った後、文官は問う。それに対し、アミルは何の疑いもなく、リオが勝つと言い切った。かつて、己の命を救ってくれた少年に、全幅の信頼を寄せているのだ。
それを悟った文官は、己の中に疑念があったことを恥じる。そして、冗談めかしてアミルにそう告げた。アミルは頷き、大真面目に国庫にどれだけ余剰予算があるか思い出し始めた。
◇――――――――――――――――――◇
アミルとの謁見を終えたリオは、騎士団の宿舎へと向かう。今度はギオネイ将軍とアーリーに挨拶をしに来たのだ。見張り番をしていた騎士に案内され、宿舎へ入る。
すると、中にはギオネイたちだけでなく、リオが予想していなかった者たちがいた。ダンテの父、エドワードと彼の配下、猟兵団の団長のデネスだ。
「おっ、来たか少年! いやー、久しぶりだな! 元気にしてたか?」
「ラッゾ卿!? それにデネスさんも! どうして宿舎に?」
「ちょっとしたサプライズって奴さ。ほら、座れ座れ。今ギオネイたちが来るから」
まさかエドワードたちがいるとは思わず、リオは目を丸くして驚いてしまう。相変わらず、エドワードはサプライズをするのが大好きなようだ。
リオは高級感溢れるソファに座らされ、ギオネイとアーリーが来るのを待つ。その間、南のラッゾ領にいるはずのエドワードたちが、何故帝都にいるのか尋ねる。
「実は、ダンテ様がふらっとお帰りになりまして。その時に、リオ殿が魔王を討つ旅に出ると聞いたのですよ。そこで、私とエドワード様が代表して激励しに来た、ということです」
「そういうことだ。いやー、息子の背に乗って空を飛んできたんだがな、ありゃいいぞ! 最高のサプライズだった!」
デネスが説明する横で、エドワードは子どものようにはしゃいでいた。リオとデネスが苦笑していると、ギオネイとアーリーがやって来た。
二人はビシッと敬礼をし、リオに敬意を表する。死地へと向かう勇者への、彼らなりの賛辞だった。
「お久しぶりですな、リオ殿。こうしてゆっくりお会いするのも、久々のことですなぁ」
「リオ殿、お久しぶりであります!」
「こんにちは、ギオネイ将軍にアーリーさん」
二人も席に着き、和やかな談笑が始まる。思い出話に花を咲かせたり、帝都とラッゾ領でのリオの活躍についての話が出たり……五人の話は、とても盛り上がった。
「……それで、アーリーさんと初めて会った時、酔っ払ってたんですよ」
「わー! わー! リオ殿、それ以上はゆめてほしいであります! 黒歴史を掘り返さないでほしいでありますぅー!」
そんな会話が続いた後、ギオネイは咳払いをし、真面目な顔つきになる。リオを真っ直ぐ見つめながら、彼に贈り物を渡した。
「リオ殿。貴殿には数えきれないほどの恩があります。タンザ奪還に尽力してくれたこと、皇帝陛下をボグリスから守っていただいたこと。そのご恩に報いるために、これを贈ります」
そう言うと、アーリーの方を見る。彼女は懐からミサンガを取り出した。帝国の騎士たちが、感謝の心と無事を祈る想いを込めて作った品だという。
「わあ……ギオネイ将軍、アーリーさん。ありがとうございます」
「リオ殿。必ず……必ず、生きて帰ってきてくだされ。貴殿はこの国の希望。皆が、帰りを待っていますぞ」
「はい!」
ギオネイたちに礼を述べた後、リオは最後に冒険者ギルド本部へ向かう。受付嬢のベティや、ギルドマスターのベリオラス、そしてかつて諍いのあったボルグたちと再会する。
「久しぶりね、リオくん。今日はどんなご用かしら?」
「こんにちは、ベティさん。実は……」
ギルドに併設された酒場に集まってきた冒険者たちやギルドの職員らに、リオは魔王との戦いの時が迫ってきていることを伝えた。ベティやベリオラスは驚くも、すぐに笑みを見せる。
「……そうか。とうとう、お主が生ける伝説になる時が来るのじゃな。よし! 皆の者! 我ら冒険者ギルドきっての英雄、リオの出陣を盛大に祝うとしよう! 今日は無礼講じゃ! 好きなだけ酒を飲み飯を食え! そして、勇者に敬礼をせよ!」
「おおー!!」
ベリオラスの鶴の一声により、その日冒険者ギルド本部ではリオの最後の戦いを激励するための宴が開かれた。リオは大勢の冒険者たちに応援の言葉を送られ、実感する。
自分には、こんなにも多くの愛すべき仲間がいるのだと。涙腺が緩み、思わず泣いてしまったリオを、ボルグが笑わせようと変顔を披露する。
「ほらほら、泣くな泣くな! 俺が一発芸してやる、よく見ろ、そして笑え! 泣くより笑う方が宴にゃ相応しいからな!」
「うん!」
宴は夜遅くまで続いた。夜になった後、リオは月明かりの元屋敷へ帰っていく。自分の勝利を信じ、帰りを待ってくれている者たちの笑顔を思い浮かべながら。
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