190話―炸裂! ゴブリン忍法!
「キャキャキャ、たった二人で出てくるなんてバカな奴らだ。オイラぁ部下の報告で知ってるんだぜ、テンキョウにゃオウゼンたちがいるんだろ? 呼んできたらどうだ?」
「その必要はないよ。僕たちはちゃーんと対策してあるからね。この前のリベンジ、させてもらうよ!」
カクトとリオは互いに相手を挑発した後、間髪入れずそれぞれの武器を呼び出し激突する。飛刃の盾と炎を纏う棒がぶつかり合った直後、リオは即座に後ろに下がった。
盾を溶かして攻撃を直撃させようと目論んでいたカクトは出鼻を挫かれ、体勢を崩してしまう。そこへすかさずクイナの回し蹴りが放たれ、カクトのこめかみにヒットする。
「よーいしょっと! リオくん、手筈通りに頼むね!」
「うん、任せて! おーい、お前たちの相手は僕だ! こっちにこーい!」
リオは自身の
カクトの部下を引き寄せつつ、リオはクイナと距離を取る。十分距離を取ったことを確認した後、クイナは水色のオーブを呼び出し、獣の力を解き放つ。
「よーし、いくよー! ビーストソウル……リリース! さあ、やるよ。魔神忍法『天海領域』の術!」
「キャキャ、何を……!?」
サメの化身となったクイナは、かつてバルバッシュが切り札として用いた奥義、天海領域を発動する。直後、クイナを中心とした半径十メートルほどの魔法陣が出現した。
ドーム状の不可視の海が広がり、カクトの身体を包み込み動きを鈍らせる。異変に気付いたカクトだが、さほど木にすることはないとクイナへの反撃を開始する。
「キャキャキャ、何をするかと思えば、ただ動きにくくなっただけじゃねぇか。こんなの、魔界の山で育ったオイラにゃ屁でもねえ!」
「へぇ、じゃあ教えてあげるよ。拙者のゴブリン忍法の恐ろしさを、さ! ゴブリン忍法『五月雨手裏剣』の術!」
軽口を叩くカクトに対し、クイナはそう答えつつ水の手裏剣を作り出し投てきする。動きが鈍っているのにも関わらず、カクトは素早く棒を振り手裏剣を弾く。
「キャキャキャ、口ほどにもねえな! この程度かぁ?」
「いーや、まだ序の口だよ? 気付いてる? さっきの手裏剣、水の糸がついてるんだよ?」
「あ……?」
クイナの攻撃を軽くいなし、調子に乗るカクト。が、彼はクイナに言われるまで気が付いていなかった。自身の得物に、非常に細い水の糸が絡み付いていることに。
「そんな棒はこうしちゃうよ! ゴブリン忍法『黒ゴケ刃』の術!」
「キャ……!?」
棒に絡み付いている糸はクイナの指まで伸びており、彼女の動きに合わせ棒を締め付け……一瞬でバラバラにしてしまった。得物を失ったカクトは、激昂しながら炎を手のひらから打ち出す。
「てめぇ、よくもオイラの武器を! こうなりゃ、オイラの炎で焼き尽くしてやる! 火炎射砲!」
「ムダだよぉ。君さぁ、知らないでしょ? 拙者が操るのは……水の力だってことを!」
そう叫ぶと、クイナは水のベールを纏い炎を真正面から受け止めてみせた。炎はクイナの身体に届く前に、水に包み込まれ消滅してしまう。
それを見たカクトは舌打ちをしつつ、より熱く巨大な火球を作り出し、連続で放つ。しかし、そんなカクトを嘲笑うかのようにクイナは薄い水のベールで炎を打ち消す。
「ぐうっ、クソッ! なんでだ、オイラの炎ならあんなうっすい水の膜なんて……」
「おやぁ~? 自分で行っといて忘れたのぉ~? 確か、五行だと火は水に弱いんだよねぇ? じゃあ、君が拙者に勝てる道理なんて初めからないのさ!」
「チッ、黙れぇ~!」
クイナにおちょくられ、カクトは苛立ちを募らせながら攻撃を繰り返す。部下を呼び戻して加勢させようにも、リオの【引き寄せ】がある以上それも出来ない。
それに何より、部下たちはリオの手によってすでに半分以上が討ち取られており、残る者たちも疲労困憊な状態であった。加勢させたところで、役には立たないだろう。
「ぐうぅ~! オイラは五行鬼の一人、火行のカクト様だぞ! それが、こんなゴブリンの小娘なんかにぃ~!」
「ふふん、それは違うよ。あの世に行く前に、よ~く覚えておくことだねぇ。拙者はクイナ! 新たなる牙の魔神だよ!」
そう叫ぶと、クイナは不可視の海を泳ぎカクトへ接近する。目にも止まらぬ速度で
天海領域によって動きが鈍っていることもあり、カクトはロクに攻撃を捌くことが出来ず袋叩きにされる。しかし、この状況もクイナからすれば手ぬるいものでしかない。
彼女はまだ、真の切り札を切っていないのだから。
「ガアアッ、クソッたれめ! ずりぃぞ、自分だけ悠々と攻撃しやがって!」
「ズルい? ぷっ、な~にをまたまた。敵を知り己を知れば百戦危うからず。いかに自分に有利な状況を作り出し、維持するか……拙者たち忍はね、数千年の間……ずっと追及してきた! それをズルいだなんて言われる筋合いはないね!」
「ぐがっ……!」
クイナの回し蹴りを顎に食らい、カクトの脳が揺れる。ふらつくカクトに、クイナはとどめを刺すべくいよいよ切り札を解き放つ。
自身の
「てやあぁー!!」
「フン、そんなものー!」
どうせ逃げられないならと、カクトは腕を交差させクイナの攻撃を受け止めようとする。いや、
しかし、クイナの腕は止められず、交差した両腕を真っ二つにされる。驚愕の表情を浮かべる。カクトのみぞおちに膝蹴りを叩き込んだ後、クイナは追撃を放つ。
「じゃ、これでおしまい。ばいばい、お猿さん」
「てめ……」
クイナは両手を合わせ、頭上に振り上げる。そして、カクトの脳天目掛けて勢いよく振り下ろした。正中線に沿ってカクトの身体が両断され、ゆっくりと倒れていく。
末期の声すら残すことなく、カクトは息絶えた。相手の息の根を止めたことを確認したクイナは、魔法陣を消して天海領域を解除する。
「ふう。相性が良かったとはいえ、あっさり勝てちゃった。さてさて、リオくんの方は……」
「おーい、クイナさーん」
「おっ、向こうも終わったみたい」
クイナとカクトの戦いが決着を迎えたその時、リオもちょうど勝利を納めたようだ。カクトの部下を全滅させたリオが走って来るのを見ながら、クイナは笑う。
「クイナさん、そっちはどう?」
「ん、こっちも終わったよ。事前にリオくんから話を聞いてたから、わりとあっさり勝てたよ。ありがとね」
「えへへ、クイナさんの役に立てたならよかった」
ニコニコ笑うリオにきゅんときたクイナだったが、ある一言が気に食わずぷうと頬を膨らませる。まだ【
「リーオーくん。前からちょーっと気になってたんだけどさぁ、そろそろ拙者もぷりちーできゅーとなニックネームで呼んでほしいなぁ。除け者にされてるみたいで、お姉さん悲しい」
「あ……確かに。ごめんね、今考えるから……」
しくしくと泣き真似をするクイナを前に、リオは慌てて考え始める。ウンウン唸りながらしばらく考えた後、これまた安直なニックネームを考え付いた。
「うーん……エッちゃんふーちゃんときたから……じゃあ、くーちゃん! どう? どう?」
「んー……よし! 合格! じゃあ今からくーちゃんって呼んでねリオくん」
「はーい。分かったよ、くーちゃん」
そんな会話をしつつ、リオとクイナはテンキョウへ帰還していく。見事カクトを討ち取れたことを喜びながら、二人はじゃれあいながらあぜ道を歩いていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます