156話―特殊部隊襲来!

 リオとアイージャ、オゾクがレストランの中に入ると、ドアボーイに出迎えられた。彼に案内され、三人は奥へ進む。通路の奥にはドアがあり、ボーイが側にあるパネルを操作すると、ひとりでに開いていく。


「わあ! 凄いや、どうなってるんだろ?」


「これは我が国の技術で作られた『エレベーター』と言ってね、自動で中のモノを上や下に運んでくれる優れものさ」


 オゾクはそう口にしながら、ドアの先にある小部屋に入る。リオとアイージャも中に入り振り向くと、入り口の近くにボーイが操作したものと同じパネルがあった。


 ドアが閉まった後、オゾクはパネルを操作しレストランの最上階、展望フロアへとエレベーターを向かわせる。僅かに小部屋が揺れた後、上へと動き出す。


「わっ!? ちょっと揺れたよ? ねえ様、大丈夫かな?」


「なぁに、そう心配するでない。妾が着いているのだ、問題などない」


 初めてエレベーターに乗り、少し不安になったリオはアイージャを見上げ呟く。そんなリオを抱き締め、アイージャは胸を張り答えた。


 少しして、目的の階に到着しエレベーターのドアが開く。数人のロイヤルガードたちが警備をしているなか、窓際にある席にメルンと一人の少女がいた。


「あちらに居られるのがメルン陛下とそのご息女、セレーナ皇女だ。失礼のないようにな」


 オゾクの言葉に頷きつつ、リオはメルンの隣に座る少女――セレーナを見つめる。母親譲りの陶器のような白い肌と、ドワーフ特有の大きな耳――そして、芸術品と見間違う美貌。


 今までリオが出会ってきた中でも、トップレベルの美少女がそこにいた。行儀よく座っていたセレーナはリオの視線に気付き、顔を赤くして目を背けてしまう。


(妾には分かるぞ。あのセレーナという小娘、リオに一目惚れでもしたようだな。……リオがモテるのはいいが、あまりしがらみは増やしたくないものだ)


 セレーナの様子から、リオへ並々ならぬ好意を抱いていることを看破したアイージャは、心の中でそう呟く。ただでさえ、リオは地位の高い女性数人から好意を向けられているのだ。


「ほっほ、よう似合うておるの、リオよ。ささ、座るとよい。あまり固くならずともよいぞ。気楽に楽しもうではないか」


「は、はい! し、失礼しましゅ! ……あうう」


 こうした公式の会食はほとんど経験がなく、リオは緊張のあまり噛んでしまう。顔を真っ赤にするリオを見て、思わずセレーナが吹き出したことで逆に奮起が解れた。


 柔らかな雰囲気の中料理が運ばれ、会食が始める。前菜を食べている最中、セレーナがおずおずとリオに声をかけてきた。


「あ、あのぅ……。もし良ければ、これまでの旅についてお聞かせ願えませんか? わたし、身体が弱くてあまり外に出られないので……いろいろ、興味があるんです」


「分かりました。じゃあ、僕とねえ様の出会いから……」


 セレーナの求めに応じ、リオは過去の出来事を語る。勇者ボグリスの手でパーティーを追放され、谷底へ落とされたこと。谷底にある神殿でアイージャと出会い、魔神の力を継承したこと。


 それから始まる、魔王軍やバルバッシュ、創世神を騙るファルファレーとその一味との戦い。さらには、同胞たる魔神の兄妹や頼もしい仲間たちとの出会い。その全てを、語って聞かせる。


「わぁ……。そんなことがあったのですね。まるでおとぎ話みたいです」


「うん、そうなんだ。他にもね……」


 リオの話を聞き、セレーナは表情を二転三転させる。楽しそうに笑ったり、悲しみに涙したり……ころころと表情を変え、熱心に耳を傾けていた。


 聞き上手なセレーナに、リオも饒舌じょうぜつになり話が弾む。そんな二人を微笑ましそうに見ていたアイージャは、ふと奇妙な違和感を感じる。


「……女帝よ。そなた、先ほどからほとんど料理に口を付けていないが……具合でも悪いのか?」


「……なに、気にするでない。さ、リオよ、わらわももっと詳しく話を……」


 その時だった。リオとアイージャは、窓の外から見える夕焼け空の中に不穏な気配を感じ取った。次の瞬間、二人はテーブルを窓に向けてひっくり返し盾にする。


 直後、リオたちを狙って窓の外から大量の矢が飛んできた。矢は窓ガラスを砕き、次々と飛来してくる。ロイヤルガードたちは不意を突かれ、半壊してしまった。


「な、何事じゃ!?」


「陛下、下の階にいる者たちから連絡がありました! このレストランを、魔族たちが包囲しているとのことです!」


 咄嗟に柱の陰に隠れて難を逃れたオゾクは、水晶玉を通して地上にいる者たちと連絡を取ったようだ。その結果、魔族の襲来を知ることになる。


「何!? バカな、街の守りは完璧なはず……いや、それよりもまずは……ロイヤルガードたちよ! セレーナを安全な場所へ連れて行くのじゃ!」


「ハッ!」


 オゾクの言葉に面食らいつつ、メルンは難を逃れたロイヤルガードに命令を下すのだった。



◇――――――――――――――――――◇



 ――時は少し巻き戻る。リオたちが宮殿を出発し、レストランへ向かった頃……マギアレーナの地下水道にて、エルディモスの密命を受けた十八人の魔族兵が集まっていた。


「集まったな。んじゃ、作戦の確認をするぞ。俺たちはチームAとBに別れて行動する。チームAは陽動として女帝を狙う。チームBは本命だ。しくじるなよ」


「了解、隊長。しかし、随分楽に潜入出来ましたね。警備がかなり厳しいと事前の情報にありましたが……」


「フッ、俺は八年前の侵攻作戦に参加していたからな、この街の弱点は知り尽くしてるのさ」


 配下を束ねる、一際身体の大きい魔族の男が部下の言葉にそう答える。今回、彼らに与えられた任務は一つ。エルディモスが実験に用いる人形の素体を奪うことだ。


 素体を保管している工場への侵入から帝国の目を反らさせるため、部隊の半分が女帝メルンの暗殺という陽動を行う。その間に、残りが素体を回収する……という作戦のようだ。


「さて、そろそろ始めるぞ。チームBは俺と来い。四体の人形を回収する。チームAは女帝を狙え。出来るようなら殺して構わんぞ。八年前殺した奴の夫のところへ送ってやれ」


「ハッ、承知しました。隊長、ご武運を」


 隊長は部下への指示を下した後、作戦を開始する。しかし、彼らは知らなかった。メルンは娘セレーナと共に、リオたちと会食をしていることを。



◇――――――――――――――――――◇



「リオよ、外にいる魔族どもは妾が仕留める。お主は女帝たちに同行し護衛してやれ」


「分かった。ねえ様、気を付けて」


 魔族の襲来という予想外の事態に直面しつつも、リオとアイージャは冷静に状況を分析し、互いに役割分担を行う。不測の事態に対処しやすいリオが護衛になり、メルンたちを退避させる。


 飛んでくる矢をアイージャに防いでもらっている間に、リオはロイヤルガードたちに声をかけた。


「騎士の皆さん、僕がお手伝いします。陛下たちを安全な場所へ連れて行きましょう!」


「済まない、助かる! 君はセレーナ様を頼む。我々はオゾク様と共にメルン様の護衛をする。さ、こっちへ」


 一行は魔族から逃れるため、エレベーターの方へ向かう。それを見届けたアイージャは、机の陰から飛び出し腕を振るう。闇の魔力がカーテンになり、矢を防いだ。


「さて。やられっぱなしというわけにはいかぬぞ、魔族ども。どこに潜んでいようが、妾からは逃れられぬわ」


 窓の外に立つ、歯車とスチームパイプが張り巡らされたビル群を眺めながら、アイージャはそう呟く。魔力をたどり、魔族たちが潜んでいるビルを探り当てる。


「……見つけた。さて、久しぶりの……狩りの時間といこうか!」


 襲撃してきた魔族たちを倒すため、両足に力を込めアイージャはレストランの外へ飛び出す。アムドラムの杖を取り出し、白銀の鎧を纏いながら。


 一方、無事レストランを脱出したリオたちは、路地裏を通って徒歩で宮殿へ戻る。敵の人数や武装が不明な以上、迂闊に馬車を使うことは出来ないのだ。


「……前方、以上なし」


「側面、後方以上なし! 陛下、行きましょう」


 負傷せずに済んだ四人のロイヤルガードはメルンとセレーナを囲み、四方の守りをそれぞれが担当しながら路地裏を進む。リオは最後尾に立ち、殿しんがりを務める。


「お母様、わたし怖いわ……」


「案ずるでない、セレーナ。ロイヤルガードとリオがおる。怖がる必要はないぞ」


 恐怖に震えるセレーナを、メルンがそう励ます。セレーナが頷いたその時……一行の前方から、異形の者が現れた。


「み~つけたみ~つけた。さ~あ、全員っちゃうよ~」


「こいつは……!?」


 リオたちの前に現れたのは――ピエロの格好をした、自動人形オートマトンだったのだ。

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