148話―繋がる想い、一つに

 門の中から現れたカレンたちを見て、ファルファレーは高笑いをする。総勢千を越える軍団を前に、たった三人の加勢など無意味だと感じたからだ。


「クハハハハ! これは面白い。たった三人加勢しただけで、我の操る死者の軍団に勝てるものか!」


「あれあれ? 何言ってるのさ。援軍が拙者たち三人だなんて言ってないよ?」


「なに……?」


 次の瞬間。大量の門が出現し、その中から大勢の人々が現れた。リオを助けるために、カレンたちが召集したのだ。


「アーティメル帝国飛竜部隊参陣! リオ殿、今助けますぞ!」


 ギオネイが指揮する、アーティメル帝国軍が。


「エルフたちよ! 今こそリオさんから受けた恩を返す時! 死を恐れず進むのです!」


「姉さん、とうとうこの時が来たわ」


「ええ。あの時の恩を、今こそ……!」


 女王セルキア率いるユグラシャード軍に、エルシャとミリアが。


「ガハハハ! 野郎ども、準備はいいかあっ! 蛮餐会を始めるぞぉー!」


「おおー!」


 大王ランダイユの元に集まったロモロノスの戦士たちが。


「バンコ一族推参! さあ、勇猛なるバンコの一族よ! 今度は我らがかの少年を助けるのだ! エリザベート、準備はいいな!?」


「ええ。いつでも行けますわ、おじ様!」


 グリフォンに騎乗したレンザーやエリザベートたち、バンコ一族が。


「ゴブリンたちよ! 死を恐れるな! 我らに居場所を与えてくれたリオ様に報いるのだ! 進め! 我らの力を偽りの神どもに示すのだ!」


「サリア、だいぶ身体はなまっちまったけどよ、いけるだろ?」


「もちろーん。リオくんのために、わたしたちも頑張らなきゃね。召喚の指輪もあるしねー」


 ジーナとサリア、リリーたち屋敷の従者たちが――リオを助けるため、一堂に会したのだ。


「ふふ、やるではないか。助かったぞ、お主ら」


「いいねえ、これは。まさにリオくんの人徳様々、だね」


「チッチッチッ、まだいるんだなぁ、これが。とびっきりのサプライズがよ。全員集めるの、苦労したんだぜ?」


 目を覚ましたアイージャとダンスレイルが呟くと、ダンテがニヤリと笑う。次の瞬間、地面に一際大きな門が開き、その中からティタンドールを操るガルキートとグリアノラン軍、そしてファティマが現れた。


「……敵対視反応多数確認。抹殺を開始します」


「さあ、行きますよティタンドール! バージョンアップしたその実力、見せつけてやりなさい!」


 あっという間に、ファルファレーの軍団に匹敵する戦力が集結した。それを見たファルファレーは、目を見開き驚愕する。


「バカな……バカな、有り得ぬ! こんな奇跡など、起きていいわけがない!」


「奇跡なんかじゃない。みんなの心が一つになったから……僕のために、この大地のために……集まってくれたんだ!」


 アイージャに抱き抱えられ、リオは後ろを見る。集まった仲間たちを見ながら、大きく息を吸い込み――号令をかけた。


「全軍……とつげーき!」


「おおーー!!」


「くっ、返り討ちにしろ! 死者どもよ!」


 リオとファルファレー、二人の元に集ったそれぞれの軍団がぶつかり合う。ティタンドールが骨のドラゴンを一撃で殴り砕き、飛竜部隊とグリフォンの群れが上空から敵を襲う。


 両軍による激しい戦いが繰り広げられるなか、リオはアイージャに抱えられたまま戦闘を続行する。右腕さえ残っていれば、ジャスティス・ガントレットを使ってサポート出来る。


 そう考えたリオは、右手を握り締め力を振るう。青色の宝玉が輝き、巨大な氷塊が現れ骸骨の兵士たちを押し潰した。


「チィィイ! 役立たずどもめが! ならば奥の手だ! 石碑に蓄えた力を使うのみ!」


 自軍がドンドン減っていく状況に苛立ち、ファルファレーは切り札を使うことを決めた。ベルドールとラグランジュの名が刻まれていた石碑と己自身をリンクさせ、力を増幅させたのだ。


「あやつ、なにやらよからぬことをしているな。リオよ、どうする?」


「……ねえ様。僕、ふと考えたんだ。なんでファルファレーはあの石碑からラグランジュの名前を削り取ったんだろうって」


 迫り来る骸骨兵を殴り倒しつつ、リオはそう話し出す。アイージャは首を傾げつつも、リオの話に耳を傾ける。


「それでね、思ったんだ。もしかして、あの石碑にラグランジュの名前をまた刻めば……ファルファレーから神の力を取り上げることが出来るかもしれないって」


「なるほど。本来の力の持ち主はラグランジュ。であれば、その証明をすればファルファレーは力を失う、か。ためしてみる価値はあるやもしれん。よし、ゆくぞリオ!」


「うん!」


 アイージャはリオを抱え、戦場を走っていく。それに目敏く気付いたファルファレーは、二人が何をしようとしているのかに気付き大声で叫ぶ。


「死者たちよ! 奴らを石碑に近付けるな! 総力を以て抹殺せよ!」


「わっ、みんなこっち来た!」


 骸骨兵たちは素早くリオたちを包囲し、一斉に攻撃を仕掛けてくる。もうダメかと思われたその時、上空を影が覆う。


「ご主人に何をするつもりだい? この私が何もやらせはしないよ」


「フィン!」


 サリアが持ってきた召喚の指輪から解き放たれたスフィンクスが、リオたちを囲む骸骨兵たちを踏みつけ一掃した。援護に現れた空飛ぶ巨大魚に飛びかかりながら、獣は叫ぶ。


「さあ、行って! ご主人!」


「フィン、ありがとう!」


 窮地を切り抜けたリオたちは、石碑を目指し進む。その時、床が盛り上がりアイージャの身体を包み込んでしまう。よみがえったローレイが、二人を妨害したのだ。


「先へは行かせない。あの時の屈辱、ここで晴らさせてもらうぞ虫けらどもよ」


 ニヤリと笑うローレイに対し、アイージャもまた不敵な笑みを浮かべる。


「あいにく、そうはいかぬな。妾以外にも……仲間は大勢いる。この程度では止められぬわ! エリザベート、任せたぞ!」


「はい! 行きますわよ、師匠!」


「わあっ!」


 救援に現れたエリザベートに向かって、アイージャはリオをブン投げた。リオをキャッチし、エリザベートは石碑に向かってグリフォンを駆る。


「ありがと、エッちゃん!」


「師匠、なんと痛々しい……わたくしにお任せください。あの石碑まで行けばよいのでしたわね?」


「うん。お願いね!」


 ローレイがジーナとサリアの連携攻撃で倒されるのを見届けながら、リオとエリザベートは空を行く。それを見たファルファレーは時間を止め、二人を足止めしようとするが……。


「こうなれば、我自ら……」


『そうはさせぬ。魔神の長兄の名にかけて……貴様の野望、ここで砕かせてもらう!』


 その時、どこからともなく紅炎の剣が落ちてきた。剣から吹き出す炎が人の姿をとり、エルカリオスの幻影が現れる。ファルファレーはツインブレードを構え、幻影を睨む。


「これはこれは。久しいな、エルカリオス。本体は留守番か?」


『ああ。貴様の足止め程度なら、幻影でも出来るのでな。……今日こそ、貴様を終わらせる。覚悟するがいい!』


「愚かな。貴様一人で我を滅ぼすことなど出来ぬわ!」


 エルカリオスとファルファレー、二人の戦いが始まった。互いの剣がぶつかり合うなか、エルカリオスの幻影は柔らかな微笑みを浮かべる。


『一人? フッ、違うな。今ここには多くの者がいる。貴様を打ち倒し、この大地の平和を守りたいと願う者たちが。一人の少年の手で、導かれ集まったのだ』


「くだらぬわ! だからどうした? 絶対なる神の力の前には絆など無意味! 木っ端は所詮木っ端、どれだけ集まってもゴミでしかない!」


 そう嘲り笑いながら、ファルファレーはツインブレードを振るう。紅炎の剣による攻撃を繰り出しつつ、エルカリオスは諭すように声をかける。


『本当にそうかな? ファルファレー、貴様は忘れているだけに過ぎない。人の絆の強さをな』


「何を……!? まずい! 誰でもよい、奴らを止めろ!」


 リオたちが石碑に到達しようとしていることに気付き、ファルファレーは叫ぶ。その間にも、エリザベートはグリフォンを加速させ先へ進む。


「師匠、もうすぐ到着……きゃあっ!」


「そうはさせぬ。頑張ったがここまでだ!」


 復活したバウロスの投げた槍がグリフォンを貫き、リオたちは墜落してしまう。ジェルナとバギードが率いる骸骨の魔物たちに囲まれ、逃げ場を失ってしまった。


「ギャシャシャシャ! 久しいな、ガキ! 今度は私たちが相手をしてやる!」


「この数だ、お前たち二人ではどうにもならんぞ」


「二人、違いますね。わたくしたちをお忘れですか?」


 その時、魔物たちを蹴散らしながらファティマが現れる。さらにはカレンにクイナ、ダンテ、リリー、エルシャにミリアが助太刀にやって来た。


「リオ、ここからはアタイが連れてってやる。みんな、そいつらは任せたぜ!」


「お任せください。……キルデガルドから与えられた力、今度はあなたたちのために振るいます! ミリア、行くわよ!」


「うん!」


 エルシャたちを筆頭に、魔物の軍勢に突撃していく。その隙を突き、リオとカレンは石碑に到着した。リオはカレンに支えてもらいながら、氷の短剣を作り出し名前を刻む。


「リオ、急げ! あの炎、いつまでファルファレーを抑えてられるかわかんねえぞ!」


「今、やるから……! ラ、グ、ラ、ン……」


「チィィイ、させるものかあああ!!」


 ファルファレーはエルカリオスの幻影との戦いを無理矢理中断し、石碑に向かって走る。しかし、もう遅かった。リオは石碑に削り取られた文字を再び刻み付けたのだ。


 もう二度と削り取られないように、力を込めて。

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