147話―激突! 創世偽神ファルファレー!

「……また、ここに来たね。聖礎エルトナシュアに」


「うむ。今度は弾き出されぬようだな」


 門を通り、リオたちは決戦の地――聖礎エルトナシュアへ到着した。かつて神の子どもたちカル・チルドレンの一人バウロスと戦った時はおいだされてしまったが、今回は大丈夫なようだ。


「さあ、ファルファレーを探すとしようか。今度こそ、雪辱を晴らさないとね。さ、行こう」


 ダンスレイルを先頭に、リオたちは何もない広い空間を進む。しばらくして、一行の前方に巨大な石碑が見えてきた。かつて、ベルドールとラグランジュの名が刻まれていた石碑が。


 石碑からはラグランジュの名が削り取られ、力を失ってしまっていた。リオたちが石碑に近付こうとしたその時――どこからともなくファルファレーの声が響いてくる。


「クク、これはこれは。わざわざ敗北しに来たか。魔神どもよ」


「ファルファレー……!」


 突如、石碑の前にファルファレーが現れた。純白の鎧兜とマント、ツインブレードを装備し、すでに戦闘体勢を整えている。リオたちはそれぞれの武器を呼び出し、構えた。


「……一万年ぶりだな。あの時はバルバッシュの裏切りで仕留め損ねたが……今日、妾たちが貴様を滅ぼす」


「覚悟するといい、ファルファレー。私の眼は、お前を見逃さない。大樹林の女王たるフクロウが、お前を裁く!」


「全部、終わらせる。ファルファレー、勝負だ!」


 リオたちはそう叫びながら、ファルファレーを睨む。そんななか、創世偽神は口角を上げ、それまでマントの中に隠していた左腕をあらわにする。


 ファルファレの左腕には、錆び付いた籠手が装着されていた。ジャスティス・ガントレットと瓜二つのソレを見て、リオは気付く。過去の記憶の中で見た、一対の籠手の片割れだと。


「お前、それは……!」


「クククッ、気付いたようだな。そうだ、これこそがジャスティス・ガントレットの対となる神の籠手……パラトルフィ・ガントレット。この籠手の力で、貴様らを抹殺してやろう! かかってくるがいい、虫ケラどもよ!」


「返り討ちにしてやる!」


 その言葉を合図に、戦いが始まった。ダンスレイルは翼を広げて飛び立ち、ファルファレーの背後へ回り込む。巨斬の斧を呼び出し、リオたちと挟み撃ちを行う。


「その籠手はお前のものじゃないんでねぇ、返してもらおうかなぁ!」


「ふっ、返せと言われて従うと思うか? 愚か者め!」


 ファルファレーはダンスレイルが振り下ろした斧を片手で受け止め、そのままアイージャに向かって投げつける。二人が転がっていくなか、リオは飛刃の盾で斬りかかった。


「このっ!」


「フン、ムダだ。パラトルフィ・ガントレットを身に付けた我は無敵だ!」


 飛刃の盾による攻撃をツインブレードで捌きながら、ファルファレーは叫ぶ。踏み込んで突きを放とうとしたその瞬間、アイージャが味にタックルをする。


 ファルファレーは転倒し、隙を晒した。そこへリオが飛びかかるも、謎の波動で吹き飛ばされてしまう。


「うわっ!」


「フン、下らぬ。そのような小賢しい手段で我は倒せぬわ!」


 そう叫びつつ、ツインブレードをアイージャ目掛けて振り下ろす。アイージャは床を転がって避け、ダンスレイルに向かって叫ぶ。


「姉上、今だ!」


「任せて! ローズバインド!」


 ダンスレイルは両手からイバラを伸ばし、ファルファレーの右腕を絡め取る。足の爪を床に食い込ませて身体を固定しつつ、リオたちに呼び掛けた。


「さあ、今のうちにファルファレーを!」


「分かった! ねえ様、やろう! 出でよ、光射の盾!」


 リオは飛刃の盾を消し、今度は大きなラウンドシールドを作り出す。アイージャは鎧を展開し、魔力増幅のための媒介にしてリオに装着させる。


「最大出力でゆくぞ! ダークネス・レーザー!」


「むうううん! 魔力充填……ライト&ダークブラスト!」


 光と闇、二つの力が盾に注がれる。白と黒、二つの魔力の光線がファルファレー目掛けて発射された。それを見た偽神は舌打ちし、左の拳を握る。


「もうしばらく温存するつもりだったが、まあいい! 見せてやる、異神どもの力をな!」


「えっ……!?」


「こ、これは!?」


 ファルファレーの眼前に、青い空間の障壁が作り出され光線を防いでしまった。驚愕するリオとダンスレイルに向かって、心底愉快そうにファルファレーは笑う。


「クハハハハ! 何故我は貴様らを放置したと思う!? 倒された異神どもの力を、この籠手に吸収させるためだ! 異神を倒して得をするのは、貴様らだけではない!」


「うわっ!」


 右腕に力を込め、ファルファレーはダンスレイルを投げ飛ばしつつ障壁をリオたちへ飛ばす。二人は避けることが出来ず、直撃を食らってしまう。


「ぐはっ!」


「アイージャ! リオ! ファルファレー……よくも二人を! これでも食らえ!」


 二人がやられたことに怒りをあらわにし、ダンスレイルはファルファレーに向かって巨斬の斧を投げつつ突進する。しゃがんで斧を避けたファルファレーの顔面に、膝蹴りが炸裂した。


「ぐうっ……!」


「この程度じゃ終わらないよ! ほらほらほらっ!」


 ツインブレードを振るえぬよう、ダンスレイルはインファイトでの攻撃を繰り返す。その間に斧がUターンし、ファルファレーの首を狙って戻ってくる。


「ムダだ! 貴様の狙いなど見通しているわ!」


「! しまった!」


 ファルファレーはツインブレードを投げ捨て、右手を後ろに伸ばして斧を先にキャッチしてしまう。光明の力を使って床を変形させ、ダンスレイルを転倒させる。


 倒れた彼女に向かって、ファルファレーはゆっくりと斧の刃を押し当てる。ダンスレイルは柄を掴んでおしかえそうとするも、力では敵わず少しずつ押し込まれていく。


「ぐっ、うう……!」


「まずは貴様から殺してやる。ベルドールの元に行くがいい!」


 ファルファレーは悪意に満ちた笑みを浮かべながら、斧を押し込む。刃がダンスレイルの胸に届こうとしたその時――何かが飛来し、ファルファレーを吹き飛ばした。


「ぐうっ! なんだ!?」


「ダンねえから……離れろ! ファルファレー!」


 復帰したリオが、宙を飛ぶ鉄槌を手元に戻しながら叫ぶ。リオはジャスティス・ガントレットに嵌め込まれた黄色い宝玉の力を使い、二つの鉄槌を呼び出したのだ。


「リオく……あぐっ!」


「フン! 鎚の魔神の真似事か。くだらぬ、猿真似程度では我は倒せぬ!」


「倒すさ。絶対に!」


 ファルファレーはダンスレイルの顎を蹴り砕いて気絶させ、ツインブレードを蹴り上げて右手で握る。リオとファルファレーは相手に向かって同時に走り出す。


 先に攻撃を仕掛けるのに成功したのは、リオの方だった。右手に持った鉄槌を振り上げ、ファルファレーの顎へ直撃させる。


「てやあっ!!」


「がっ……」


 休む暇は与えないとばかりに、リオは追撃を放つ。二つの鉄槌を敵の背後に放り投げ、互いをぶつけて衝撃波を発生させてファルファレーが体勢を建て直せないようにする。


「がっ! 貴様……!」


「これまでのお返しだよ! まだまだ足りないからね!」


 リオは鉄槌を手元に戻し、殴打の嵐を見舞う。ファルファレーの兜が砕け、頭部を剥き出しにすることに成功した。が……。


「調子に……乗るな!」


「うわあっ! くっ、不壊の盾!」


 審判の力が乗った一撃を食らい、リオは手から鉄槌を吹き飛ばされてしまう。慌てて不壊の盾を作り出し、ツインブレードによる攻撃を防ごうとするも……。


「ムダだ。こんな盾など、砕くのは容易い!」


「そんな……」


 ファルファレーは力任せにツインブレードを振るい、不壊の盾を少しずつ破壊していく。誰にも壊されることのなかった、絶対防御の象徴を砕かれ、リオは呆然としてしまう。


「どうした? 隙だらけだぞ!」


「あああっ!」


 身を守るすべを失ったリオの両足と左腕が、根元から両断されてしまう。さらに魔力弾の直撃を撃ち込まれ、リオは床を転がっていく。


 千変の力によって再生を阻害されてしまい、傷口を塞ぐことしかリオには出来ない。うつぶせに倒れるリオに、ファルファレーは勝ち誇り声をかける。


「ハハハハハハハ! 我の勝ちだ! 所詮、魔神では我には勝てぬのだよ! ラグランジュだけでなく、異神の力を得た我にはなぁ!」


「……だだ。まだ……まだ、こんなところで……終われる、もんか!」


 リオは唯一残った右腕を使い、ごろんと転がり仰向けになる。そんなリオにさらなる絶望を与えるべく、ファルファレーは力を行使する。


「まだ諦めぬか。なら、見せてやる。創命と闇寧の力を……な!」


 ファルファレーが左の拳を握ると、信じられないことが起こった。命を創る力と終焉をもたらす力が混ざり合い、死者をよみがえらせたのだ。


 かつてリオたちに敗れた神の子どもたちカル・チルドレンだけでなく、骨となった兵士や獣、ドラゴンや空を飛ぶ巨大魚が続々と現れる。


「さあ、こうなってはもうゲーム・セットだ。諦めるがいい」


「……嫌だね! 例え僕一人でも、お前たちを倒してやる!」


 重傷を負い、絶望的な状況に追い込まれてもなお、リオは挫けない。右腕で身体を起こしたその時――いるはずのない者の声が、リオの耳に届く。


「言ったろ? リオ。必ず、お前のピンチに駆けつけるってさ」


「え……?」


 リオのすぐ近くに、水と風、雷で出来た門が現れる。門が開くと、その中からカレン、クイナ、ダンテの三人が現れたのだ。


「待たせたな、リオ。ここからはアタイたちも参戦するぜ」


 希望の光が、差し込もうとしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る