131話―絶対絶命! 千変の脅威!

 無事四つ目のゴッドランド・キーを手に入れたリオたちは祭壇のある部屋を後にする。外に出た一行は今度は下山しようとするも、そこへ羽ばたきの音が近付く。


 空を見上げると、二匹の飛竜がリオたちのところへ舞い降りてきた。背中に乗っていたのは、かつてキルデガルドの配下としてリオたちと刃を交えた死に彩られた娘たちデス・ドーターズの生き残りの二人だった。


「あっ、エルシャさん! どうしてここに!?」


「お久しぶりです、リオさん。女王陛下からリオさんが霊峰にいると聞きましたので、お迎えに来たのです」


 かつてスノードロップと呼ばれた女性、エルシャがリオに声をかけてくる。そこにもう一人の女性――ミリアが飛竜から降りて近付いてきた。


 リオが声をかけようとすると、ミリアは深々と頭を下げた。自分を助けてくれたことへの感謝の言葉を述べる。


「……目が覚めた後、姉さんから聞きました。あなたが私たちを赦し生かしてくれたと。妹たちのことは残念でしたが……それを抜きにしても、あなたへの感謝はどれだけあっても足りません」


「気にしないでください、ミリアさん。……むしろ、妹さんを助けられなくて申し訳ないくらいです」


 互いにそう伝えあった後、リオたちは飛竜に乗りハールネイスへ向かう。帰りも地下水脈を歩かないといけないと思っていたカレンは、お迎えが来たことを特に大喜びしていた。


 あっという間にハールネイスに戻ることが出来たリオは、エルシャたちにお礼を言う。ダンテが借りた地下水脈に入るための鍵を預かりつつ、エルシャは微笑みを浮かべた。


「いいえ、リオさんのお役に立ててよかったです。もし、またリオさんが何か助けが必要になったら……その時はまた力になりますから」


「ありがとうございます、エルシャさん、ミリアさん。じゃあ、僕たちはこれで」


 エルシャたちに別れを告げ、リオたちは街の外へ出る。ゴッドランド・キーを掲げ、フォルネシア機構へと戻りメルナーデに鍵を預ける。


 無事四つの鍵を集め、最後の鍵の手がかりを探すためリオたちは帝都ガランザ近くの草原に転送してもらう。残る一つ、最後の鍵をどうやって探すか話し合いをしようとするが……。


「……!? リオ、気を付けろ。何か近付いてくる。相当やべえのがな」


「敵性生命反応を確認。迎撃用プログラムを起動します。我が君、お下がりください」


 強大な力を持った何かが、リオたちの元に近付いてくる。四つの霧の塊が上空から飛来し、リオたちの頭上をぐるぐると回りながら声をかけてきた。


『ほおう、お前たちかぁ。ファルティーバとビウグを倒したのはぁ』


『こんなチッポケな存在にやられるたぁ、あいつらも使えねえモンだ。ざまぁねえな』


 四つの霧の正体である異神たちは、口々にそんなことを好き勝手言いながらリオたちの周囲を回る。リオたちはそれぞれの武器を呼び出し、戦闘態勢を取ろうとするが……。


『そうはさせない。お前たちは一人ずつ我らが仕留めてやろう。邪魔者は消えるがいい!』


「うおあっ!?」


「お姉ちゃん!」


 四つの霧のうち、一つから青色の光線が照射されリオ以外の三人を貫く。すると、カレンたちの身体が透けていき、どこか遠い別の場所への転送が始まった。


 四人が共闘するのを阻止するべく、異神が先手を打って妨害してきたのだ。カレンは手を伸ばし、リオにすがる。しかし、彼らにはどうすることも出来ない。


「リオ……逃げろ……」


「お姉ちゃん! そんな……」


「我が君……申し訳……」


「クソッ、オレとしたことが……不覚を取った……」


 リオの目の前で、カレンはどこか遠い地へと転送されてしまった。カレンに続き、ファティマとダンテもまた消えてしまう。一人残されたリオは、呆然と立ち尽くす。


「そんな……みんな、消えちゃった……」


『くひゃひゃひゃ! 見ろよエスペランザ! あのガキの顔をよぉ! こいつぁ傑作だぜ!』


『これで邪魔者は消えた。各々、獲物を追え。ヴァンガム、あの少年は任せた』


『ええ。お任せになって? ファルファレーからもらった……あの小娘、レヴェッカだったかしら。凄く身体が馴染むの』


 襲撃の首謀者、エスペランザの指示の元彼を含めた三つの霧が三方向へ散っていく。残った一つの霧が、人の形へと変わりながら地上へ降りてくる。


 着地する頃には、霧は完全な人へと変化を終えていた。ヒビ割れた赤色のオーブを漂わせながら、女はゆっくりとリオに向かって歩き寄ってくる。


「お・ま・た・せ。さ、始めましょう? あなたはこの私……千変異神ヴァンガムがお相手してあげる」


「お前……! みんなを、お姉ちゃんたちを……どこにやった!」


 リオは飛刃の盾を両腕に装着し、怒りを爆発させヴァンガムに向かって飛びかかる。が、ヴァンガムの身体が透明になりリオはすり抜けてしまう。


 勢いあまって地面を転がるリオに、ヴァンガムは口元に手を当て余裕の笑みを浮かべる。ゆっくりとリオに近付き、見下ろしながら話し出す。


「ふふ、安心しなさい? 遠くの土地に飛ばされただけだから。ま、もうあなたと再会することはないけれど、ね。私の仲間たちがいたぶり殺してしまうからねえ!」


「……くっ!」


 ヴァンガムは足を上げ、リオの顔面を狙って振り下ろす。地面を転がって踏みつけを避け、立ち上がり様にリオは飛刃の盾を投げつける。


「食らえ! シールドブーメラン!」


「ふふ。そんなもの、私には効かないわ。見せてあげる。千変の力を、ね」


 飛来してくる飛刃の盾を素手で掴み取り、ヴァンガムは魔力を流し込む。すると、強靭な金属で出来ているはずの盾が木へと変わり、さらに土くれとなって崩れ去った。


 それを見たリオは、目を見開き驚愕する。相手は触れた物質を変化させる能力を持っていると睨み、急遽戦法を変更することを決めた。拳を握り、大声で叫ぶ。


「それなら……これでどうだ! ダイヤモンド・ブリザード!」


 ジャスティス・ガントレットに嵌め込まれた青色の宝玉が光り輝き、天を暗雲が覆う。大粒の雹が含まれた吹雪が吹き荒れ、ヴァンガムに襲いかかる。


「どうだ! 魔力で作った吹雪ならどうにも出来ないでしょ!」


「ふふ、考えたわねぇぼーや。でもね、あなたは見誤っているわよ。千変の力……その本質をね!」


 雹を叩きつけられてもなお、余裕の態度を崩さないヴァンガムはオーブを手繰り寄せる。頭上にオーブを掲げると、赤色の光の帯が天高く照射され雲を貫く。


 すると、暗雲が消え、天候が晴天へと変わる。さらに、本来ならばアーティメル帝国では生存出来ないはずの南国の植物がリオの周囲に生えてきた。


「こ、これは……!?」


「千変……それは生命の変化を司る力。創命の力で生まれし生命が千変の力で変化を繰り返し、闇寧の力で死へと還る。それがこの世界全ての命のことわり


 驚愕するリオに、ヴァンガムはそう告げる。オーブを撫でながら語るその姿は、美しくもおぞましい死神のようにリオには思えた。


「でも、私の持つ千変の力は違う。異神となった今、私の力は生命以外にも作用する。具体的に言えば……そう、天候ね」


「――! うわっ!」


 次の瞬間、再び空が暗雲に包まれる。稲光がとどろき、リオ目掛けて落雷が発生する。リオは咄嗟にもう片方の飛刃の盾を投げ、避雷針の代わりにして雷の直撃を避けた。


 が、ヴァンガムはそれによって生じた隙を見逃さなかった。素早くリオの懐に潜り込み、みぞおちに拳を叩き込もうとする。リオは不壊の盾を作り出し、拳を防ごうとするが……。


「ざんねん。千変の力が込められた攻撃は……防げないの」


「かはっ……」


 ヴァンガムの腕が盾をすり抜け、リオのみぞおちを捉えた。吹き飛ばされ身動きが出来ないリオに、追い討ちとばかりにヴァンガムは雷を落とそうとする。


「さあ、これで終わりにしてあげる。私たちの宴の邪魔をする者は、一人残らず無惨に殺してあげるわ!」


「うう……僕は、まだ……」


 立ち上がろうとするリオに、無情にも雷が落とされる。電撃に貫かれ、リオは絶命――。


「おっと、そうはさせぬぞ? 妾たちの目の前でリオを殺せると思うておるなら、それは間違いだ」


「そうとも。これ以上、リオくんに指一本触れさせないからね」


「なにっ!? 貴様らは……!」


 ――することはなかった。地中から現れたイバラがドーム状のバリアになり、リオを雷から守ったのだ。そして、ガランザの方から二人の人物が近付いてくる。


 彼女たちを見たリオの目に、喜びの涙が浮かび流れ落ちる。ついに、あの二人が目を覚ましたのだ。


「長い間済まなかったの、リオ。ここからは……」


「私たちが戦う。もう君を傷つけさせはしない。斧の魔神と……」


「元盾の魔神の名にかけて、な!」


 完全復活を果たしたアイージャとダンスレイルが、戦場に舞い戻ったのであった。

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