107話―鍵を求める旅へ

 リオたちの戦いが終わり、バギードとローレイは滅びた。三人は合流し、皇帝アミル四世が待つ宮殿へ戻る。皇帝自らリオたちを迎え、朗らかに笑う。


「またしても、君たちに救われたね。報告は聞いているよ。本当に、君たちには感謝している」


「気になさならいでください、皇帝陛下。僕たちは自分の出来ることをやっただけですから」


 アミル四世に感謝されたリオはそう答える。破壊された公園の修理をギオネイたちにやってもらっている間、リオはアミル四世にある言葉を投げ掛けた。


「皇帝陛下、実は僕たちあるものを探しているのですが……」


「ふむ、言うてみよ。もしかすれば、わしが知っているやもしれんからの」


「それじゃあ……」


 リオはファルファレーのいる聖礎へ行くのに必要なゴッドランド・キーについて知っているかをアミル四世に質問する。アミル四世はしばらく考えた後、口を開いた。


「……ゴッドランド・キーそのものかは分からぬが、似たような鍵のありかを二つ知っておる」


「本当ですか!?」


 アミル四世の言葉に、リオは心底嬉しそうに明るい表情を浮かべる。エリルが持っている物を含め、これで三つの鍵のある場所が判明するからだ。


「一つは、ロモロノス王家が代々守っておる。もう一つは……世界四大貴族の一角、メーレナ家が管理している……と言うべきか、のう……」


「……? えっと、それってどういう……」


「済まぬ。わしの口からメーレナ家について話すことは出来ぬのだ」


 どこか歯切れの悪いアミル四世に、疑問を抱いたリオは問いかける。が、アミル四世は首を横に振り、何も答えることはなかった。


 ともかく、残る四つのゴッドランド・キーのうち二つの情報を得られたリオたちは、アミル四世に礼を言って医療棟の方へと向かう。


 いまだ昏睡状態にあるアイージャとダンスレイルにバギードとローレイを倒したことを報告し、リオはそっと二人の頭を優しく撫でる。


「……ねえ様。僕、行ってくるね。必ず、ファルファレーを倒すから……応援しててね」


 そう言い残し、リオはカレンとクイナを連れ屋敷へ戻る。自室に集まり、三人は作戦会議を行う。ロモロノス王国とメーレナ家、どちらに先に行くか話し合った。


「アタイとしちゃあ、まずはロモロノスに行ったほうがいいと思うぜ? あそこならリオの界門の盾でひとっ飛び出来るしな」


「僕もそう思ったんだけど……なんだか、急いでメーレナ家に行かなきゃいけないような気がするんだ。なんでか分かんないけど、嫌な予感がするんだよね……」


 先にロモロノス王国に行き、ランダイユ八世から鍵を譲ってもらおうと主張するカレンに、リオはメーレナ家に訪問するべきだと主張する。


 リオ自身も理由は分からなかったが、メーレナ家の名前を聞いた時から、急いで彼らの元へ行かなければならないという焦りが芽生えていた。


「んー、じゃあさこうするのはどう? 別行動してさ、カレンがロモロノス王国、リオくんがメーレナ家に行く。拙者は……臨機応変に二人の間を往復、みたいな?」


「いや、みたいなって……お前、どうやって移動するんだよ」


 折衷案を出したクイナに、カレンは至極真っ当な質問を投げ掛ける。そんなカレンに向かって、クイナはニヤリと得意気な笑顔を浮かべた。


「あれあれ? 忘れちゃったかな? 拙者も魔神になったんだから、リオくんみたいにあっちこっち行けるようになったんだよ?」


「あっ、そうか。じゃあ、クイナさんには僕たちのサポートをお願いしようかな」


 話が纏まり、リオはメーレナ家へ、カレンはロモロノス王国へ行き鍵を確保することに決まった。リオは界門の盾を二つ作り出し、片方をロモロノス王国近海の無人島へ繋げる。


 もう片方をとある場所に繋げていると、身支度を整えていたカレンが質問してきた。肝心のメーレナ家の人たちとどうやって接触するのか、と。


「大丈夫だよ、お姉ちゃん。僕にいい考えがあるんだ」


「そっか。ま、リオがそう言うんなら大丈夫だな! じゃ、アタイとクイナはロモロノス王国に行ってくる。お互い頑張ろうな、リオ」


「うん!」


 リオたちはそれぞれの目的を果たすため、界門の盾をくぐる。新しい冒険が、始まった。



◇――――――――――――――――――◇



「……バギードとローレイの生命反応が途絶えました。恐らく、盾の魔神とその仲間に敗れたと思われます」


「使えぬ奴らめ……! 一度ならず二度までも敗北するとは!」


 その頃、聖礎エルトナシュアではバウロスがファルファレーに報告を行っていた。バギードとローレイが再びリオたちに敗北し滅びたことに、ファルファレーは苛立ちを隠せない。


 急いで残る四つの鍵を奪い、リオたちが聖礎へ到達することをなんとしても防がねばならない……が、バウロスしか動けない状況では、それも困難であった。


「……仕方あるまい。バウロスよ、復活させたジェルナが目覚めるまで待機していろ。我は他の大地をさすらい……我が子に相応しき者たちを選定する」


「承知しました。しかし、奴らはすでに二つの鍵の確保に向けて動いているようですが……」


「構わん。鍵は五つ揃わねば意味がない。二つを奪われても、残り二つを我らが確保出来ればそれでよいのだ」


 リオたちがすでに鍵を手に入れようと動いていることを察知していたバウロスが進言するも、ファルファレーはたいして興味を示さなかった。


 ファルファレーからすれば、リオたちに倒された二人の神の子どもたちカル・チルドレンの代わりになる者たちを選定するほうが重要なのだ。


「……だか、もし魔族どもが動くようなら必ず阻止しろ。万が一にも、奴らが魔神と手を組むような事態になれば我が計画の成就が遠退くからな」


「承知しました。後のことは全て私にお任せを」


 バウロスは恭しく頭を下げ、ファルファレーの言葉に従う。ファルファレーは頷いた後、小声で呪文を唱え異界へ行くための門を作り出す。


 門の向こうにファルファレーが進むと、門が閉じ光の粒になって虚空へと消えていった。一人残されたバウロスは大きく息を吐き、石段の上に腰かけた。



◇――――――――――――――――――◇



「……しっかし、考えてみりゃあアタイはここに来るの初めてだなぁ。クイナ、しっかり案内してくれよ?」


「もちろん。任せといてよ」


 ロモロノス王国の首都、水の都セルンケールがあるキウェーナ島の近海にある無人島に降り立ったカレンとクイナは、そんな会話をする。


 キウェーナ島は結界に覆われており、普通の方法では侵入することは不可能だった。が、カレンたちにはリオから借りた聖断ハサミがある。


 ハサミの力で結界を切り裂くため海に向かって歩き出した二人に、どこからともなく声がかけられた。


「もし、そこのお二人さん! もしかして、あなたたちはリオさんのお知り合いですか?」


「ん? 誰だ? 一体どこから声が……」


 カレンたちがキョロキョロと周囲を窺っていると、突然目の前に古びた扉が現れた。扉が開くと、中から一人の男が顔を覗かせる。少し前、リオに助けられた錬金術師のラルゴだ。


「あ、申し遅れました。私、ユータム島に住んでいる錬金術師のラルゴと言います。以後お見知りおきを」


「ラルゴ……? あー、思い出した。リオくんが助けた人だよね? 話は聞いてるよ」


 クイナはリオからラルゴについて聞いていたらしく、納得したようにうんうんと頷く。ラルゴはホッと胸を撫で下ろし、二人を扉の中に招き入れる。


「ああ、よかった。やっぱり二人はリオさんのお知り合いでしたか。……実は、あの結界についてお話があるのです。ここじゃなんですし、私の家でお話しします」


「だってさ。カレン、どうする?」


「んー、行くっきゃねえか。もしかしたら、あの結界ガランザの時と違ってなんか罠が仕掛けられてるとかあるかもしんねえしな。話くらいは聞いておこうぜ」


 二人はラルゴの話を聞くことに決め、扉の向こう側へと進んでいった。――後に、二人は感謝することになる。ラルゴについていき、彼の話を聞いたことを。

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