108話―ロモロノス王国再訪
ラルゴの家に入ったカレンとクイナは、お茶をご馳走になる。本来ならばそんな余裕はないのだが、せっかくのラルゴの好意を無下にするのは失礼と考えてのことだ。
ホッと一息ついた後、ラルゴはカレンたちに話を始めた。何故二人を呼び止めたのか、その理由とは……。
「お二人とも、あの結界をどうにかするためにわざわざ出向いてくださったのでしょう? ですが、今はやめておいたほうがいいかと思います」
「あん? なんでだよ。おめぇらもアレに困ってんだろ?」
ラルゴの言葉に、カレンは不思議そうにそう反論する。そんな彼女に同意し、首を縦に振るクイナだったが、次にラルゴの口から発せられた言葉に唖然としてしまう。
「……実は、案外そうでもないんです。いえ、最初のうちは確かに困っていたんですが……どうやら、結界の性質が変わってしまったようで……」
「はあ? 結界の性質が変わった? そりゃどういうことだよ」
驚くカレンたちに、ラルゴは説明を始める。曰く、最初の数日の間は内外への出入り全てを遮断していたが、三日ほど経ってから性質に変化が起きた、ということらしい。
ラルゴや宮廷魔術師、軍が合同で調べたところ、結界は内側へ入ろうとする者は通し、外側へ出ようとする者は遮断するように性質が変わったということが判明したのだ。
「へえ、そりゃ知らなかった。あれ? じゃあ拙者たちを引き留めたのはなんでさ」
「ええ。恐らく、お二人は結界を壊すつもりだったでしょうから手遅れにならないうちに警告をしようと思いまして……。あの結界は性質が変わった結果、攻撃してきた者にカウンターを行うようになってしまっているんです」
「……ああ、なるほど。話が読めたぞ。あのままアタイらが結界を壊そうと攻撃したら、そっくりそのダメージが跳ね返って来るとこだった、ってことか」
カレンは何故ラルゴが自分たちを引き留めたのか、その理由を理解した。もし二人が結界の変化に気付かず聖断ハサミを使っていたら、今頃二人は生きていなかっただろう。
二人はラルゴに助けてもらったことを感謝し、ホッと胸を撫で下ろす。……が、その時クイナがふとあることに気が付き、ラルゴに質問を投げ掛ける。
「あれ? じゃーなんでラルゴは拙者たちと接触出来たのさ。外には出られないんしょ?」
「普通は、ですね。私は幸い空間拡張の魔法が使えるので、その応用でこうやって結界をすり抜けることが出来るんですよ。もっとも、キウェーナ島近海までが限界ですが……」
ラルゴの言葉に納得し、カレンとクイナはふーんと感心したように呟く。直後、ロモロノス王国に来た理由を思い出し、カレンは問い掛けた。
「お、そうだ。なあラルゴ。お前ゴッドランド・キーってのを知らねえか? アタイたち、その鍵を探してるんだ」
「……!? お二人とも、どこでその鍵のことを……! 鍵の存在はランダイユ大王と、一部の側近しか知らないはず……」
驚き慌てふためくラルゴに、カレンとクイナは最初から詳しく説明を始める。創世神を騙るファルファレーが結界を張り巡らせたこと。
大地に存在する五つのゴッドランド・キーを奪い、彼が根城にしている聖礎への進出を阻もうとしていること。すでにケリオン王国が滅ぼされたことなどを。
「なるほど、お話はだいたい理解しました。そうですか、すでにケリオン王国が……分かりました。私から大王に掛け合ってみましょう。さ、こちらへどうぞ」
話を聞き終えたラルゴは、大地の存亡を賭けた一大事であることを悟りカレンたちを案内する。入ってきた方と反対側にある扉から外に出ると、ロモロノス王国の首都、セルンケールに出ることが出来た。
「おー、久しぶりに来たねぇ。しっかしまあ、ガルトロスの時といい今回といい、つくづく結界と縁のある国だねぇ」
クイナにとっては二度目の来訪となるセルンケールの街並みを見ながら、そう呟く。彼女やラルゴからすれば、ガルトロスやバルバッシュと戦った日々は忘れ難いものだった。
「ま、なんでもいいけどよ、早く行こうぜ。ラルゴ、王宮に案内してくれよ」
「分かりました。この近くにシープァトル便の乗り場がありますので、彼らに運んでもらいましょう」
ラルゴに案内され、カレンたちはシープァトル便の乗り場に向かう。羊と鳥が合体したような不思議な生き物を見て、カレンは興奮を隠せないようだ。
「おおっ!? 見ろよクイナ! こいつすげえぞ! 毛皮がもふもふなのにひんやりしてるぜ!」
「……カレン。リオくんとおんなじ反応してるよ?」
生まれて初めて見たシープァトルに頬擦りするカレンを見て、クイナは苦笑いをする。シープァトルが牽引する車に乗り込み、興奮覚めらやぬカレンを連れ王宮へ向かう。
王宮は戦士たちによって厳重に警備されており、最初はカレンを見て警戒していた。が、シープァトルを操るラルゴを見て、戦士たちは武器を降ろした。
「これはこれはラルゴ様。今日はどうなされました?」
「取り急ぎ大王様に彼女たちをお目通ししたいのです。大王様はおられますか?」
「大王様なら玉座の間にいますよ。さ、こちらへ」
三人は見張りの戦士に案内され、玉座の間へ向かう。玉座の間ではランダイユがリーエンに文句を言われつつ、書類を見て唸っていた。
「ぐぬ~……リーエンよ、もうそろそろ休憩を……」
「ダメでち! 大王ちゃまったら、結界騒ぎにかこつけて城を抜け出してばっかりでお仕事が進んでないれす! 今日は夜中までみっちり……あ! あなたはリオしゃんの!」
「やっほー。リーエン、おひさー」
ランダイユを叱っていたリーエンは、クイナに気が付くと明るい笑顔を浮かべる。続いてランダイユも喜ばしい来訪者の存在に気付き、顔を綻ばせる。
……クイナとの再会だけでなく、リーエンの説教が中断されたことへの喜びも多分に含まれてはいたが。
「おお! 久しぶりだな! ささ、もっと近く寄れ寄れ! 元気だったか? 忍者娘」
「もちろんですとも。拙者は火の子風の子元気の子ですから!」
えっへん、と胸を張りクイナもランダイユたちとの再会を喜ぶ。カレンを紹介した後、クイナは自分たちがロモロノス王国に再訪した理由を告げる。
「……なるほど。鍵を借りたい、ということか」
「ああ。その鍵を奪われるわけにゃいかないんだ。おっさんが持ってると、ケリオンみたいに滅ぼされる可能性があるしな」
腕を組み、難しい顔をするランダイユをカレンが説得する。ランダイユも風の噂でケリオン王国が何者かに滅ぼされたことを聞いており、どこか合点がいったかのように頷く。
「……そうか。ケリオン王国が滅ぼされたのはそういう理由だったか……。なあ、リーエン。俺はこいつらに鍵を託そうと思う。お前はどうだ?」
ランダイユは自分か最も信頼している側近、リーエンにそう問い掛ける。彼からすれば、先祖代々守り続けてきた鍵を手放すのは抵抗感があった。
しかし、そうも言ってはいられない。ケリオン王国が滅ぼされたのなら、近い将来自分たちも滅ぼされる可能性がある。ただでさえ、魔王軍との戦いで喪った戦力が回復しきっていないのだ。
愛しい民を守ることが出来るなら、潔く鍵を手放す覚悟がランダイユにはあった。
「……大王ちゃまがそう言うなら、わしちが反対する理由はないでち。むしろ、よく決断出来まちたと誉めてあげるれす」
「っつーことだ。鍵はお前たちに託す。だがよ、ヘマこいたらタダじゃ済まねえからな?」
「……ありがとよ、おっさん。鍵はアタイらが必ず守り抜く。だから安心してくれ」
冗談混じりにそう話すランダイユに、カレンは感謝の言葉を伝える。ランダイユに命じられた兵士が、玉座の間を去る。しばらくして、小さな金庫を持って戻ってきた。
「この中に、先祖代々守ってきた鍵がある。金庫ごともってこいくか?」
「そうだね、念のため金庫ごと……」
クイナが金庫を受け取ろうとしたその時、一人の兵士が玉座の間に入ってきた。息を切らしつつ、切羽詰まった表情でランダイユに向かって報告を行う。
「大王様、大変です! 結界が突然動き出しました! 何者かが王国内に侵入しようとしています!」
――ロモロノス王国に、破滅の
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