99話―導かれし先に
元いた広場に戻ったリオたちは、今後どう動くかについて会議を行っていた。
とはいえ、リオの心は一つ。エリルと鍵を守りつつ、各地を覆う結界を破壊し、閉じ込められた人々を救い出す。そして、騒動の元凶たる創世神ファルファレーを倒す。
そう口にしたリオに、真っ先にカレンが同意した。
「アタイはリオに賛成だ。いつまでもやられっぱなしってのは性に合わねえしな」
「とは言ってもねぇ……実際どうするのさ? 安全な場所なんてそうそう見付からないよ?」
そこに、クイナが疑問を呈する。帝都を含め、今現在リオが界門の盾で移動可能な場所は、すでに結界によって封印されてしまっているのだ。
ガルトロスが用いたもののり遥かに強大なソレを掻い潜り、内部に入り込むのは困難であるとリオも薄々勘づいている。エリルを匿える場所を探すのが、最初の課題だ。
「そうなんだよねぇ……。一体どうしたら……」
「なら、私があなたたちを安全な場所に連れていってあげる」
リオがボソッと呟きを漏らした瞬間、どこからともなく声が響いた。その場にいた全員が身構えると、空間が歪んでいく。歪みの中から現れたのは、全身が白く輝く女性だった。
「……エルケラ、さん?」
「ええ。久しぶりね、リオ」
彼らの前に現れたのは、リオを過去へ導き、ミョルドにこの世界の真実を伝えた謎の女性――エルケラだった。すでにリオから話を聞いていたカレンたちは、すぐ警戒を解く。
佇まいを見ても、エルケラに敵意がないことは明白だったのもあるだろう。エルケラは独特な仕草でゆっくりと一礼した後、リオたちに向かってとある話を始める。
「あなたたちが置かれた状況は、こちらでも把握しているわ。上層部に掛け合った結果、あなたたちの保護が承認された。ファルファレーの手が届かない場所に、匿ってあげる」
「ま、待ってください。突然のことで、何がなんだか……。あなたはリオさんの知り合いなんですか? 何故、私たちを助けるのです?」
その時、一人だけエルケラとリオの関わりを知らないエリルが捲し立て始めた。彼女からすれば、到底理解出来る状況ではないだろう。
突然現れた異様な女が、自分を匿おうと言ってきたのだから。リオはエリルの元に歩み寄り、落ち着かせようとぎゅっと手を握る。
その手の暖かさに、エリルは不思議と心が落ち着いていくのを感じていた。
「大丈夫。エルケラさんは僕たちの味方だよ。だから安心して。ね?」
「……分かりました。リオさんがそう言うなら……」
「落ち着いてくれたようね。悪いけれど、あまり時間がないの。急がないと、ファルファレーに気付かれてしまうから」
エリルが落ち着いたのを確認した後、エルケラは急いで白い楕円形の門を作り出す。門の向こうには、規則正しく並んだ大量の本棚が見えている。
エルケラはリオたちに門の中に入るよう促し、手招きする。リオはカレンたちを率い、門をくぐり向こう側に広がる世界へと足を踏み入れ――感嘆の声を漏らす。
「わあ、すっごーい! 本棚がいっぱいある!」
リオの言葉通り、門の向こうには数えきれないほどたくさんの本棚があった。それも、ただの本棚ではない。上を見ても天辺が見えないほど高い本棚に、ギッチリ本が納められているのだ。
「うおっ、すげえなこれ。一体どんだけ本があるんだ?」
「これは……図書館、ですか?」
続いて門を潜り抜けたカレンとエリルも、大量の本棚に目を奪われる。クイナや部下のくノ一たちも、目を丸くして驚きをあらわにしていた。
最後にやってきたエルケラは門を閉じ、リオたちをとある場所へ案内するため歩き出す。彼女について本棚がある部屋を進み、リオたちは先へ行く。
「凄いね、エルケラさん。あのいっぱいある本、何が書いてあるの?」
「残念だけど、それは私の口からは言えないわ。そこまでの権限がないから。……今からお会いする方が、全てを話してくれるわ」
部屋の入り口を開け、リオたちは大きな円筒形の乗り物に乗り込む。扉が閉まると、エルケラが扉の側にあるパネルを操作し、それが終わると乗り物は上へ向かって動き始めた。
しばらくして、乗り物の動きが止まり、扉が開く。エルケラはリオとカレン、クイナにエリルの四人だけを出した後、残のくノ一たちは乗り物の中で待つよう告げる。
「ちょいちょい、なんで拙者の部下はダメなのさ」
「ごめんなさい、この先に進むには資格がいるの。あなたたちにあるけれど、彼女たちにはない。だから、待っててもらう必要があるのよ」
どこか釈然としない理由を説明され、クイナは不服そうに頬を膨らませる。が、ここでごねても仕方ないため、おとなしく従い廊下を歩く。
廊下はすぐに終わり、両開きの大きな扉が現れる。エルケラが扉を開くと、その向こうには執務室と思われる部屋が広がっており、一人の女性が書き物をしていた。
「……メルナーデ総書長。例の大地より連れて参りました」
「そう、無事に到着出来たようね。それならよかったわ」
メルナーデと呼ばれた女性は、ペンを容器に入れ立ち上がる。ウェーブがかかった紫色の長い髪が揺れ、顔の片側を覆い隠す。
髪と同じ、紫色のローブの裾を引きずりながら、メルナーデはリオたちの元へ歩いていく。アメジストのような輝きを持つ瞳の中にリオを映しながら、ゆっくりとお辞儀をした。
「ようこそ。私の名はメルナーデ。神々が創りたもうた全ての大地の歴史を記し、保存する場所……フォルネシア機構を統べる者。よろしくね?」
「あ、えっと……よろしくお願いします?」
リオはメルナーデの話した言葉の内容をあまり理解出来ず、曖昧な返事をする。そんなリオを見て、メルナーデはクスクス笑いながら彼らを部屋の中央にあるソファーへ案内する。
「さて、あなたたちのことはエルケラから聞いているわ。ずいぶん大変なことになっているようね」
「あ、そうなんです。エルケラさんから、ここにエリルさんを匿ってもらえるって聞きました」
二つあるソファーの片方に座り、リオはメルナーデと相対しそう口にする。メルナーデは使用人のように背後に控えるエルケラをチラッと見た後、ふうと息を吐く。
「……そうね。今こそ、かつてベルドールと結んだ約束を果たすべき時が来たのかもしれないわ。分かったわ、その娘は私が責任を持ってここに匿う。だから安心して?」
「ホッ……。エリルさん、よかったね」
「え、ええ。ありがとう……ございます」
胸を撫で下ろすリオとは対照的に、エリルはまだメルナーデを信じきれていないらしく、ぎこちない返事をする。そんな彼女を見た後、メルナーデは振り返った。
「さて、あなたの願いは全て聞き届けたわ、エルケラ。残念だけれど、これでもう貴女の役目は終わりよ」
「……はい。全て、あの日……鎚の魔神と会った時から、覚悟しています」
これまでとは違う、冷徹な声にリオたちは戸惑う。役目は終わり。その言葉の意味が分からず、リオはメルナーデに思わず問いかけてしまう。
「あの、それってどういう……」
「文字通りよ。彼女……当機構の
「そ、そんな! どうして……エルケラさんは何も悪いことなんて……」
リオが反論すると、メルナーデは指を唇に当て『静かに』と伝える。リオはカレンたちと顔を見合わせ、しぶしぶながらも指示に従う。
「一から説明させてもらうわ。貴方たちはここにいる以上、知る権利があるもの。まだエルケラが話しきれていない、貴方たちの住む大地……『キュリア=サンクタラム』についての真実について話してあげるわ」
そう言った後、メルナーデは話し出す。リオたちがまだ知らない、七人の魔神たちが生まれる以前に起きた真実の全てを。ベルドールと共にあった、もう一人についての記録を。
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