83話―黄昏の乙女、逆襲開始!

 夜が明けて朝になり、リオたちがユータム島を目指して出発した頃。キウェーナ島にある王宮は、ガルトロスとバルバッシュによって制圧されていた。


 ランダイユとリーエンはどこかに連れ去られてしまい、エリザベートやクイナ、クレイヴンたちは捕らえられ、王宮の地下牢に閉じ込められてしまう。


「……これさあ、ひっじょーにまずいよねえ? あの二人ちょー強かったしリオくんが戻ってくるまでもたないんじゃない?」


「……かもしれませんわね」


 牢獄の最奥部に収容されたエリザベートとクイナは、そんな会話をする。全身を鎖で縛られた状態で天井から吊り下げられており、一見脱出は不可能に見える。


 が、クイナには可能だった。何故なら彼女は……熟練の『忍者』なのだから。


「ちょっとまずいから、本気出しちゃおっかな。久々に……使うかな、拙者の先天性技能コンジェニタルスキルを」


「え!? クイナさん、技能スキル持ちだったのです!? なら、何故もっと早く使わないんですの!」


「んー、しょうがないのよ。拙者のは……ちっとばかし、使いどころが難しいからね。よっと!」


 クイナがもぞもぞと指を動かした直後、鎖がスパッと切れ拘束が解かれた。華麗に着地するクイナを見て、エリザベートは目を丸くしてしまう。


「え? え? い、今何をなさったんですの!?」


「ふっふー、これが拙者の先天性技能コンジェニタルスキル……その名も『空斬離之御手カラキリノミテ』さぁ。どんなモノでもスパッと両断する、素ん晴らしい刃物だよ」


 解説を求めるエリザベートに、クイナは得意げにそう語る。そして、指揮棒のように指を振るい、まばたきする間にエリザベートを縛る鎖をバラバラにしてしまった。


 エリザベートを解放したクイナは、今度は牢屋の鉄格子に指を這わせ、いとも容易く切断してみせる。悠々と牢屋を出ていくクイナの後ろ姿を見ながら、エリザベートは呟く。


「……これが忍者集団『黄昏の旅団』の頭領、クイナ・サイガの力ですか。ここまで万能だと、この先も頼もしいですわね」


「んー? そうでもないよ。この技能スキル、一回発動すると十分はどうやって解除出来ないし、自分の身体以外は何でも切っちゃうからねー。ま、使い方さえ間違えなきゃいいだけさ」


 そう言いながら、クイナはクレイヴンたちが閉じ込められている牢屋の鉄格子を切断して回り、彼らを解放する。全員を助けた後、黄昏の乙女はニヤリと笑う。


「さ、行こっか。みんなで魔族どもをぎゃふん! と言わせてやろうじゃないの」


「任せな。まだまだ暴れ足りなくてウズウズしてたんだ。もう一暴れしてやるぜ! なあお前ら!」


「おおー!」


 クレイヴンの言葉に、戦士たちは頷いた。



◇――――――――――――――――――◇



「……さて、話してもらおうか。ランダイユ大王よ」


「何を話せってんだ? 言ってくれなきゃ分からないぜ?」


 その頃、ランダイユは玉座の間に幽閉されていた。ガルトロスの前に座らされ、尋問を受ける。ガルトロスはじっと相手を見ながら、話を始めた。


「それもそうだな。では、単刀直入に聞こう。ロモロノス王家が代々守り管理してきた鍵があるはずだ。それを渡してもらおう」


「……なんだと? なんでてめえがゴッドランド・キーを欲しがるんだ」


 ガルトロスの問い掛けに、それまで飄々とした態度を保っていたランダイユの顔が一気に真剣な表情へと変わった。それを見たガルトロスは、愉快そうに笑う。


「何故かだと? 当たり前だろう。魔王グランザーム様の目的は創世神を倒し神の座を奪うことだ。そのためには必要なのだよ。神のいる地……神域へ至るための五つの鍵が」


 そう語るガルトロスを、ランダイユは睨み付けることしか出来ない。玉座の間には六人の魔族兵がおり、脱出しようにもリーエンを守りながら全員を倒すのは不可能だからだ。


「我らはゴッドランド・キーを求め、地上の国々を侵略した。その甲斐あって、リアボーン王国が管理していた鍵を奪うことが出来た」


「……なるほど。で? 俺がすんなりハイそうですかと鍵を渡すとでも思ってんのか?」


 楽しそうに語るガルトロスに不快感を覚えながら、ランダイユはそう問いかける。先祖代々守り続けてきた鍵を、魔族たちに渡すつもりは毛頭なかった。


 そんなランダイユに、ガルトロスは悪意に満ちた笑顔を向ける。指を鳴らして部下に合図し、リーエンを連れて来させた。そして、彼女の首を絞め始める。


「く、は、あ……」


「渡さずともよいぞ。その代わり、この国に住む者が一人ずつこうして死んでいくことになるがな」


「やめろ! リーエンに手を出すな!」


 ランダイユが怒りに顔を歪ませ席を立とうとすると、すかさず魔族兵たちが走り寄り槍を向ける。身動きの取れない王に、リーエンはか細い声で話しかけた。


「大王、ちゃま……渡しちゃ、ダメなのれす……。わしちはどうなってもいいれす……鍵だけは、絶対に……くあっ!」


「うるさい小娘だ。その首をへし折ってやろうか?」


 鍵を渡してはならない、そうランダイユに告げるリーエン。そんな彼女が苦しむ様を見て、ランダイユは選択を迫られる。王家の責務を果たすか、彼女を救うかを。


「さあ、選べ。このガキを見殺しにするか、おとなしく鍵を渡すかをな」


「グウウ……!」


 究極の二択を迫られたランダイユは、歯を食い縛り拳を握り締める。己の半身とも言えるリーエンを見殺しにすることなど、彼には絶対出来なかった。


 とはいえ、ロモロノス王として鍵を渡すことも出来ない。そんな彼を見ながら、ガルトロスは悪意に満ちた笑顔を浮かべ楽しそうに喉を鳴らす。


「さあ、早くしないとこのガキの首を……」


「ガルトロス様、大変です! 地下牢に閉じ込めていた戦士たちが脱獄し、反乱を起こしています! それだけでなく、マルッテ島の結界も破壊されました!」


 リーエンの首をへし折ろうとしたその時、一人の魔族兵が玉座の間に入ってきた。ガルトロスは不愉快そうに顔を歪め、兵士に命令を下す。


「我が軍の全戦力を動員し鎮圧しろ。玉座の間に近付けるな」


「ハッ! かしこまりました!」


 兵士が出ていった後、ガルトロスはリーエンを放り投げ床に叩きつける。結界を張ってランダイユたちを閉じ込めた後、反乱を鎮めるため自ら動く。


「……ムダなことを。私には勝てぬというのに。バルバッシュがいれば楽だが……奴め、どこをほっつき歩いているのやら」


 そんな呟きを残し、ガルトロスは玉座の間を去っていった。



◇――――――――――――――――――◇



 その頃、地下牢を脱出したクイナたちは、三チームに別れて玉座の間を目指していた。クイナとエリザベートはクレイヴンと共に少数精鋭チームとして先行する。


 自分たちを捕縛せんと襲いかかってくる魔族の兵士たちを前に、クイナは余裕の笑みを浮かべる。空斬離之御手カラキリノミテを発動し、魔族たちに近付く。


「なんだ!? あいつ、武器も持たずに一人でこっちに来るぞ?」


「バカな女だ。得物も無しに俺たちに勝てるとでも……!?」


 そうバカにしせせら笑う魔族兵たちだったが、クイナは気にすることなく歩き続ける。水面を滑る白鳥のような優雅な動きで、魔族たちを両断していく。


「得物がない? バカ言っちゃいけないよ。真の忍者はね、武器なんていらないのさ。己の身体そのものを得物とする……それこそが我ら黄昏の旅団の極意なり」


 そう口にしながら、クイナは手を伸ばし指で魔族たちの身体を切り裂き始末する。その様子を見ていたクレイヴンは、感心したように何度も頷いていた。


「すげえもんだな、あの嬢ちゃん。俺も見習いてえもんだ」


「いえ、アレをやるのは無理ですわよ……。先天性技能コンジェニタルスキルですから……」


「二人ともー、喋ってないで早く行くよー」


 クレイヴンの言葉に苦笑いを浮かべるエリザベート。そんな彼らの会話を聞いているのかいないのか、クイナは早く先へ進もうと催促する。


 玉座の間を目指し、三人は廊下を進んでいった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る