82話―覚醒! ジャスティス・ガントレット

(なんだろう、流れ込んでくるこの力……知ってるような、知らないような……不思議な気分だなぁ)


 ザシュロームの人形を前に、リオは右腕に装着さらた籠手にそんな感想を抱く。みなぎる力を武器に、人形目掛けて氷爪の盾を振るう。


「パワーアップした僕の力を見せてやる! これでも食らえ!」


「フン、ソンナコウゲキワタシニハ……!?」


「え……!?」


 人形は両腕をクロスさせ、リオの攻撃を受け止めようとする。が、ここで両者の予想を越える事態が起こった。リオの攻撃を受け止めきれず、両腕が根元からもげたのだ。


 軽い小手調べのつもりで攻撃したリオも、氷爪の盾を受け止められると踏んでいた人形も固まってしまう。先に我に返った人形は、一旦バックステップでリオから離れる。


「ヨクモヤッテクレタナ……! ワガチカラデ、ソッコウデケリヲツケサセテモラウゾ!」


「え? あ。や、やってみろ!」


 やっと我に返ったリオは、氷爪の盾を構え守りの体勢に移る。人形は魔力で両腕をくっつけた後、リオのこめかみを狙ってローリングソバットを繰り出す。


 リオはその場から動くことなく迎え撃ち、人形の攻撃を受け止めた。事前にかけた肉体強化の魔法と籠手から流れ込む力のおかげでふらつくこともやく、反撃に転じる。


「今度はこっちの番だ! 今度は全身をバラバラにしてやる! アイススラッシャー!」


「ソウナンドモクラウモノカ! ソンナタテナド、コウシテクレル!」


 そう叫びながらリオは右腕を振るい、鋭い爪で人形を切り裂こうとする。が、ヒラリと攻撃を避けられてしまい、逆に氷爪の盾を蹴り砕かれてしまった。


 武器を片方失ったリオは一旦下がろうとするも、人形はそれを許さない。拳と蹴りを織り混ぜた連続攻撃を浴びせかけ、これまでのお返しとばかりに攻め立てる。


 残ったもう片方の氷爪の盾で攻撃を捌いていたが、猛攻を前に少しずつヒビが入っていく。なんとかして反撃に転じられなければ、盾が砕かれるのも時間の問題であった。


「フハハハハ! サッキマデノイキオイハドウシタ!? モウコウサンカ? モットモ、コウフクナドミトメヌガナ!」


「降参なんてしないよ! 僕の本気は……ここから見せてやる!」


 リオは嘲笑う人形に向かってそう言葉を返した後、咄嗟に拳を握りながら右腕を前に突き出す。無意識での行動だったが、この行動が異変を呼び起こした。


 手の甲に嵌められていた緑色の宝玉が一層強い光を放ち、リオの身体を包み込み始めたのだ。人形は思わず後退し、攻めの手が止まってしまう。


「ナンダ、コノヒカリハ!? ク、クルシイ……ナゼカワカラヌガカラダガイタイ!」


 光を浴びた人形は、謎の激痛に身悶え苦しみ出す。一方、リオは光に包まれながら、何者かの声を聞いていた。慈愛に溢れた、優しい男の声を。


『新たなる我が子よ。我が神器を目覚めさせるのだ。高らかに名を叫べ。知恵の神たる我が力が宿りし……ジャスティス・ガントレットの名を!』


「ジャスティス・ガントレット……それが、この籠手の名前……」


 声が途絶えるのと同時に、宝玉から放たれていた光も消えた。夜明けが近付くなか、リオはそっとベルドールの籠手を撫でる。そして、その名を叫ぶ。


「悠久の時を越え、今こそ目覚めろ! ジャスティス・ガントレット!」


「グウアアッ! メ、メガアッ!」


 真っ直ぐ腕を上に伸ばし、籠手を掲げると黄金の輝きが放たれ中庭を覆っていく。あまりの目映さに、人形の目を構成するガラス玉が砕け、視界が奪われる。


 人形は顔を手で覆い、呻き声を漏らしながらよろよろと後退していく。そこへ、リオはチャンスとばかりに攻撃を仕掛けるべく再び氷爪の盾を作り出すが……。


「今だ! 出でよ、氷爪の盾……えっ!? これは……」


 新たに作り出した氷爪の盾を見て、リオは驚きをあらわにする。盾には植物のつるが巻き付いており、翼を広げたフクロウの姿が刻まれていたのだ。


 まるで、ダンスレイルの力が宿っているかのように微かに緑色の光を放っている盾を見て、リオは考える。ベルドールの籠手には他の魔神の力が宿っているのではないか、と。


(多分、宝玉の色と魔神の力に何か関係があるはず。なら……試す価値はある!)


「グウウ……シカイヲウバウトハナカナカヤルナ。ダガ、ソノテイドデワタシノウゴキヲフウジラレルトオモッタラオオマチガイダゾ!」


 リオが考えを巡らせている間にも、人形は目を修復しつつ襲いかかってくる。考えるのは後回しと、リオはダンスレイルの力が宿った氷爪の盾を構えた。


 目が見えていないのにも関わらず、的確に急所を狙った攻撃を繰り出してくる人形の拳を爪で弾く。そして、盾に巻き付いているつるを伸ばし人形を絡め取る。


「食らえ! バンジースマッシュ!」


「ム……グオッ!?」


 リオは鎖付き鉄球を振り回す要領でつるを振るい、人形を吹き飛ばし地面に叩き付ける。呻き声を漏らす人形に、さらなる追撃を放つべくリオは爪を地に突き刺す。


「今度はこうだ! ローズバインド!」


「グウッ、コレハ!?」


 土が盛り上がり、その中から四本のイバラが伸びて人形の身体に巻き付き締め上げる。メキメキという音が響くなか、人形はどうにかして拘束から逃れようとする。


 が、ジャスティス・ガントレットの力で強化されたイバラを引き千切ることは出来ず、少しずつ締め付けが強くなっていく。リオは拳を握り締め、イバラに魔力を込める。


「グ、ガッ……。バカナ、コンナコトガアリエルナド……」


「このまま粉々にしてやる! でも、それが嫌なら……クリスタルのありかを教えてくれたら解放してあげなくもないよ?」


 少しずつボディに亀裂が入っていく人形に、リオはそう取り引きをもちかける。が、人形は応じず、逆に背中から生えたクロスボウをリオへ向けた。


「オシエルモノカ! マダワタシニハクロスボウガアル! コンドコソハチノスニシテクレルワ!」


「残念だけど、それは無理だね! 出でよ、凍鏡の盾!」


 矢が飛来するなか、リオは拳を強く握り締める。すると、ジャスティス・ガントレットに嵌められている青色の宝玉が輝き、リオの目の前に凍鏡の盾が出現した。


 盾と矢がぶつかり合い、衝撃が蓄積されていく。人形は最後の悪あがきとばかりに、連続で矢を放つが凍鏡の盾を砕くことは出来ず、逆に力をチャージさせてしまう結果になった。


「オノレッ! ナゼダ、ナゼカテヌ! ワタシハクリスタルノマモリヲタクサレシモノ! ココデヤブレルナド……」


「悪いけど、そろそろ終わりにさせてもらうよ! ミラーリングインパクト!」


 リオは人形を仕留めるべく、盾に蓄積されたエネルギーを解き放つ。それと同時に、籠手に嵌められた二つの宝玉が輝き力がリオの中に流れ込む。


 盾と斧、二人の魔神の力が宿った凍鏡の盾から放たれた魔力の波動が、イバラごと人形を粉砕し粉微塵にする。断末魔の言葉を言い残すことすらなく、人形は塵に還った。


「ふう。結局、クリスタルのありかは聞き出せなかったな……ん? あれは……」


 ビーストソウルを解除し、ため息をついていたリオは人形だった塵の中に埋もれている何かを見つける。近寄って見てみると、それは小さな緑色のクリスタルだった。


「やっぱり、人形の中に隠してあったみたいだね。なら、後はこれを踏み砕けば……えいっ!」


 リオは足を上げ、おもいっきりクリスタルを踏み砕く。すると、マルッテ島を覆っていた結界が消え、朝日がリオの元へ降り注いできた。


「おー……いい朝だなぁ。やっぱり結界がないのはいいね」


「リオ! 大丈夫か!?」


 頭上を見上げて感嘆の声を漏らしていると、空からアイージャとダンスレイルが降りてきた。戦いに間に合わなかったことを謝った後、二人はリオから一部始終を聞かされる。


「ジャスティス・ガントレットか……。まさか本物だったとはね。なるほどね、城の方から私の魔力がすると思ったらそういうわけか」


「うん。ビックリしたよ。籠手から声が聞こえるんだもん」


 そんな会話をした後、リオたちは城を出る。残り二つの結界を破壊し、ロモロノス王国に平和を取り戻すために。

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