55話―断罪されし者との再会
遮るものが何もない空を飛び、リオたちは二時間ほどでハールネイスに到着することが出来た。街の近くの地面に降りると、あらかじめ待機していたカレンたちが近付いてくる。
「よっ、久しぶりだなリオ。元気にしてたか?」
「うん! 元気にしてたよ! お姉ちゃんたちはどうだったの?」
リオはカレンに向かって飛び込み、ぎゅっと腰に抱き着く。カレンがリオの頭を撫でている間、アイージャはエリザベートから旅をしている間の出来事を聞く。
協力してフレアドラゴンを倒したことを聞いたアイージャは、ふむふむと頷き何かに納得したように顎を撫でる。エリザベートが首を傾げていると、何に納得したのかを話し出す。
「いやな、妾たちもエルフたちから冷たい対応をされていたのだが……途中からコロッと態度が変わってな。不思議に思っていたが合点がいった。やはりリオの人徳は凄いものだ」
アイージャはしっぽを伸ばしてリオの頭を撫でる。リオはふにゃりと嬉しそうな笑みを浮かべた後、今度はアイージャたちの旅について質問をした。
彼女たちの旅の詳細を聞き、トリカブトを倒したことを知ったリオはエリザベートと顔を見合わせる。気まずそうな表情をしている二人に、カレンが声をかける。
「なんだ? そんな顔しちゃってよ」
「お姉ちゃん、実はね……」
リオはカレンとアイージャに説明を始める。キルデガルドの立てた計画を阻止するため、エルシャが魔王軍を裏切り仲間になったこと。
唯一生き残っている彼女の妹、ミリアを助けるため力を貸すことを約束したことを。それを聞いたカレンは、ポリポリと頬をかきながら呟く。
「そっか……そりゃ悪いことしたな。で、そのエルシャってのはどこにいるんだ?」
「あ、ここにいます……」
リオたちが乗っていた馬車の中からエルシャが姿を現し、カレンたちと対面する。気まずい空気のなか、エルシャはカレンたちに妹の最期について尋ねた。
「……私は、あなたたちを恨みはしません。キルデガルドの兵器の試作品を持たされていましたから、倒さなければならないのは分かってますから。ただ、知りたいんです。あの子が……どう散っていったのかを」
「分かった。妾が……話そう」
アイージャは頷き、語り出す。トリカブトとの戦いの詳細を聞き進めるにつれ、エルシャの目尻に涙が溜まっていく。そんな彼女を見て、カレンは罪悪感を覚える。
「……済まねえ。少し巡り合わせが違えば、あんたの妹を殺さずに済んだのによ」
「……気にしないでください。ローズマリー……いえ、ニマが粛清された時に、覚悟は決めましたから」
頭を下げ謝罪するカレンに、エルシャはそう声をかける。その時、街へ続く階段から、一人のエルフの兵士が飛び出してきた。
兵士はリオたちを見つけると、明るい表情を浮かべ彼らの元へ走っていく。ビシッと敬礼をした後、リオに向かって声をかける。
「お帰りなさいませ、偉大なる救い主様! 女王陛下がお待ちしています。さ、王城へどうぞ」
「ありがとう、兵士さん。ね、ね、いつまでもここにいても寒いし、街に入ろうよ」
リオの言葉に従い、カレンたちは兵士に案内され街の中に入っていく。第一階層に着いた彼らは、驚愕の光景を目にすることになる。
「あれぇ!? な、何でバゾル大臣が磔にされてるの!? か、革命でもあったの!?」
「……おいおい。パンチの効いた出迎えだなこりゃ」
彼らが見たのは、街の広場の中心で磔にされているバゾルの姿であった。石をぶつけられた顔は腫れ上がって化け物のようになり、身体からは異臭を放っている。
異様な状態で放置されているバゾルを見て呆然としていた一行だったが、真っ先に我に返ったアイージャがあまりの臭さに表情を歪めながら鼻を摘まむ。
「ぬぅ……なんと酷い臭いだ。こんなところにいたら鼻が曲がってしまう。一体奴に何があったのだ?」
「詳しい説明は城で。まあ、簡単に言うとちょっとした革命があったんですよ」
兵士の軽い説明を受けた後、リオたちはひとまずセルキアの待つ城へと向かう。が、そのためにはバゾルが磔にされている広場を通らねばならない。
リオたちが広場に近づくにつれ、異臭の正体を嫌でも理解することになる。バゾルは全身に糞尿を浴びせられていたのだ。異臭の正体を知り、カレンは顔をしかめる。
「うへえ、きったねえなぁ。何やらかしたらあんな目に合うんだよ? あいつこの国の大臣なんだろ?」
「ええ。
意味深な発言をする兵士に首を傾げつつ、リオたちは出来るだけバゾルに近付かないよう広場を横切る。その時、街の住民たちがリオに気付き駆け寄ってきた。
「あ! 救い主様だ! 救い主様が戻ってきたぞー!」
「ホントだ! お礼を言いに行かなくちゃ!」
「え? え? なに? なに?」
自分目掛けて殺到してくるエルフたちに囲まれ、リオは軽いパニックに陥ってしまう。エルフたちは笑顔を浮かべながら、口々にリオへお礼の言葉を述べていく。
「救い主様ー! 俺たちを助けてくれてありがとなー!」
「今まで異種族だからって冷たくしてごめんなさい。これからは同胞として迎え入れるよ!」
「あなたのおかけで私たちは希望を取り戻すことが出来ました! 本当にありがとう!」
事態を飲み込めていないリオに怒涛の勢いで感謝の言葉を伝えた後、エルフたちは去っていった。一方のリオはぐるぐる目を回し、頭の上にハテナマークが乱舞する。
「えっと……僕、何かしたっけ?」
「あれかな? リオくんがフレアドラゴン倒したって噂を聞いて皆感謝してるのかもね。ふふふ、流石
ダンスレイルはリオを抱き上げ、頬擦りをしながらよしよしと誉める。さりげなく自分のモノであるとアピールする彼女にイラッときたアイージャは、姉のふくらはぎを蹴る。
「いてっ! こら、何をするんだいアイージャ! 痛いじゃないか!」
「……姉上の気のせいだろう」
口笛を吹いて誤魔化しつつ、アイージャは広場を横切る。カレンやダンスレイル、エリザベートたちも後に続き、残るはリオ一人となった。
「……臭いがキツイけど、ここしか通れないもんね。我慢して早く通り抜けちゃおっと」
リオは大きく息を吸い込んだ後、小走りに広場を駆け抜けようとする。その時、バゾルが薄目を開け、チラッとリオの方へ視線を投げ掛けてきた。
「……い、……この、獣人……。私を、助けろ……」
顔が腫れているせいで上手く喋れないらしく、半分ほど聞き取れなかったものの、リオはバゾルが助けてくれと言っていることを理解した。
「え? でも……」
「いいから……く、助けろ……! これは……命令だぞ、獣人……のガキ」
捕らえられてなお、高圧的な態度を崩さないバゾルに、流石のリオもとうとう堪忍袋の緒が切れた。猫耳をぺたっと伏せ、無視を決め込んで歩いていく。
それを見たバゾルは顔を怒りで真っ赤に染め、どこにそれだけの力が残っていたのかと不思議になるほどの大声で叫びを上げる。
「クソガキィ! この私を無視するなあぁ! 私はユグラシャード王国の大臣、バゾ……うぐっ!」
「うるせーな! リオに向かって舐めたクチ利いてんじゃねえ! このうんこ野郎!」
カレンは近くに落ちていた石ころを拾い、バゾルの顔面に向かって勢いよく投げつけた。バゾルは衝撃で気絶し、ガクリと項垂れる。
「ありがとう、お姉ちゃん」
「気にすんな。しかし、あのクソエルフあんな状態でよくまあ高圧的な態度なんて取れたもんだな」
「まだ現実が見えていないようですわね。全く、無様なものですわ」
エリザベートの言葉にカレンたちは頷き、先へ進む。愚者の末路に哀れむことなく、リオは城を目指すのだった。
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