首席騎士様は、実はコミュ障らしい。

「これから命をかけて討伐演習に挑もうという生徒に、かける言葉ではないと思いますが」


「な……!」


「行こう、実力を見せれば済むことだ」



あたしの腕をむんずと掴むと、首席騎士様はさっさと踵を返してその場を離れる。その足取りはとても早くて、あたしは小走りでついていくのがやっとだった。


こんなところで足の長さの差が……! うう、身長差三十センチはあるもんね。


でもそのおかげであっという間に学年主任の先生からは遠ざかっていく。なんか先生が叫んでる気がするけど、もはや何言ってるかわかんないし。



「気にするな、負け犬の遠吠えだ」



首席騎士様もそう言ってくれてることだし、もう気にするまい。首席騎士様が意外と優しい人で良かった。てっきり怖い人かと思ってたのに。


なんて思っていたら、いきなり首席騎士様が足を止めるものだから、あたしは思いっきり首席騎士様に後ろから体当たりする羽目になってしまった。



「いたた……」


「す、すまない」



見上げたら、首席騎士様は途端にオロオロと視線を彷徨わせる。



「……?」



どうしたんだろ、さっきまでの堂々とした態度はどこにいっちゃったのか。不思議に思ってまじまじと見ていたら、ついに首席騎士様の顔が赤くなる。


そして、ハッとしたように掴んだままだったあたしの手を離し「す、すまない」と慌てたようにあたしから距離を取った。


なんだこの挙動不審さ。



「あー、悪いね! コイツこうみえて極度の人見知りなのさ。意外だろう?」


「ぐあっ」



突如現れた、キラキラ光るみたいなイケメンが、首席騎士様の肩に腕をドーン!と乗っけて、華やかに微笑んだ。


うわぁ……この人、知ってる。こんな間近で見たの、初めて。首席騎士様の方が背は高いけれど、この人も別な意味で迫力だよね。


たしかお名前は、ジェードさんっていったかな。翡翠の瞳に銀の髪の、エルフかと見まごうばかりにカッコイイお方だ。成績はいつも首席騎士様に次ぐ二番をキープ。さらにコミュニケーション能力も高いという、あたしから見たらもう、それホントに人間? って問いたくなるくらい。物腰が柔らかくって女性にも優しいから、人気なら多分、この学園で一番なんじゃないかなぁ。


ちょっとでいいからその才能、分けて欲しい。



「馴れ馴れしい! 肩を組むな!」


「酷いな、君がいつもの挙動不審さを発揮しているようだったから助けてあげたんじゃないか。そんなんじゃパートナーの彼女だって困るだろ?」


「う……必要事項は、きちんと伝達できる。問題ない」


「うんうん、だよねー。雑談とかがダメなんだよねー、何話したらいいか分かんないんでしょ」


「……」



うわぁ、完全にジェードさんのペースだ。


首席騎士様は気まずそうな顔で目を逸らした。学年主任の先生を黙らせてしまったさっきまでの雄姿はどこへやら、水をかけられたワンちゃんみたいにシュンとしている。


でっかいナリして、可哀そうっていうか、可愛いっていうか。

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