第2話 ミトミ商店
そもそもアンダーノックなんて実在するのか否か。ヤバい奴らからヤバいやり方で奪う非合法の存在。そんな認識でしかない存在を人生最後の拠り所にしようなんて私もどうかしてると思った。
公園の時計は夜の8時を指し示しているが、前時代的な商店の明かりは未だに周囲を明るく照らしている。
まるで希望の光が私を導くかのように…
光に吸い寄せられた羽虫のように私は歩を進める。
再起の力を、アマカゼに天罰を!
望みのない私の目にミトミ商店の立て付けが悪い引戸が映る。
その脇には何年もその土地に居座っているかの如き古びたガシャポン筐体。
子供の頃はよかった。100円があれば天国と言えたような時代。戻れるものなら戻りたい。込み上げた涙をこらえながらミトミ商店の敷居をまたいだ。
店内の雰囲気はまさに外観で表された通りのザ商店という感じだ。
入り口近くには日用雑貨。奥には駄菓子。入り口脇の一角にはメダルゲーム。商店定番の筐体ゲーム機も置いている。
日中なら近くに住む子どもが遊びに来るのかもしれないが、この時間。40歳後半の私が佇んでいい場所ではないだろうが、私の気持ちは藁を掴めるチャンスがあるならと必死だった。
ところでお店の人はいないのか。駄菓子コーナーがある奥へと進んで私は驚いた。レジ奥のイスにお婆さんが座っていたのだ。歓迎の言葉も無しにただイスに座る老婆。生きているようではあるが不気味な気配が漂う。
やはり私は噂話に踊らされているのかもしれない…
不安な思いが頭から離れなかったが、どのみち私に先はない。
「すみません」
勇気を出して声をかけたが微動だにしない老婆。もはやこれまでかと思ったが、お得意先での話には続きがあった。
「ある駄菓子がないか店番に聞けばとっておきの情報がもらえるんだとよ」
「サキイカ置いてないですか…」
この言葉に微動だにしなかった老婆が反応した。
「ないよ」
ないんかい。
目の前が真っ暗になるとはこのことなのか…私が掴んでいた情報はここまでだった。老婆もその言葉以降、何のリアクションもない。
力なく私はミトミ商店を後にしようと引戸に手をかけた。立て付けの悪い引戸がどうしても開かない。
すると老婆が再び口を開いた。
「ゲームでもしていきな」
この気持ちのままにゲームなんて…と思ったが、どうせ行く当てもすることもないのだ。人生最期に子供の気持ちに戻るのも有りかもしれない。
作業着の胸ポケットに入れていた千円札を両替機に入れ、ゲーム筐体前の四角いイスに腰掛けた。
昔はこのイスに座って友達と何回もゲームをしていたものだ。ジラつくゲーム画面を見つめながら込み上げた思い、今度は堪えることもなく、頬を伝う涙とともに100円硬貨を投入した。
筐体ゲームの発する音が、ミトミ商店の静寂を破った瞬間、私と筐体ゲームは突如開いた足元の穴に吸い込まれていった。
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