第3話 モグラの主
暗闇の中をただただ落下した私とゲーム筐体。不思議と不安はなかった。私の人生がまた動き出してくれるのかと思えば、むしろ心の重しは軽くなるような気さえした。
でもこのまま地面に叩きつけられてゲーム筐体と心中するのはちょっと嫌だな
そんな考えがよぎった瞬間、エレベーターが停止するかのように減速した私達は、一面赤い絨毯が敷かれた綺麗な部屋にいた。ミトミ商店の外観からは想像もつかないほどの明るさと煌びやかさだった。
この部屋では作業着を着た私とゲーム筐体が歪な存在でしかなかった。
「いらっしゃい」
部屋の奥に置かれた大きなソファに一人の男性が座っている。招かれた言葉のままに足を運んだ私は、謎の男と対峙した。
「はじめましてミトミ商店のヨトギと申します。」
そのヨトギという男は、声の感じから私よりも遥かに若い者と思えたが、黒色スーツ姿の佇まい、端正に整えられた髪型、静かな物腰、理由は分からないがとてつもない凄みを感じる。
「私はソノハタと言います。実は…」
言葉を続けようとした私を遮り、ヨトギが話を始めた。
「あなたがこの場にいらっしゃったということは、最低限の資格は持ち合わせていることが分かります。私どもの提供するサービス内容はご存知でしたか?」
私が首を横に振るとヨトギは説明を続けた。
「ここは人生どん底に落ちた人が寄る場所。有益な情報と引き換えに私は依頼者の要望に応えます。もちろんお応え出来ない要望もありますので、このような形で無料相談に応じております。あっ無料ではなかったですね。」
そう言ったヨトギの目線には稼働を続けるゲーム筐体があった。
「コーヒーでもいかがですか」
ソファのさらに奥の部屋から、何やら巨大な全自動掃除機のようなロボットが前進してくる。某有名映画の何とかツーみたいな感じだ。この空間もまた近未来的な要素の中に前時代的な要素を含む歪な空間だ。
ロボットは胸の部分からコーヒーカップを取り出すとソファの間に設置されたテーブルにそっと置いて、軽い会釈をした後で元の部屋に戻っていった。
差し出されたコーヒーの味はともかく、その暖かさと私の言葉に耳を傾けようとしている男の存在にすっかり安堵していた。
もちろん私の人生がどん底にあるのは変わりないし、この人生が急激に上向くこともあり得ない。それでも悩みを打ち明け、誰かが聞いてくれるということは一つの救いだと感じた。
話が本題に入る前に、私はある疑問をヨトギに投げかけた。
「先ほど私に資格があるとおっしゃっていましたが、それは一体…」
「あぁソノハタさん、先ほど上でミト婆にサキがないよって言われましたでしょ?」
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