人生ハードモードのクリア特典・前編
男の人生は苦難の連続だった。それはいわゆる、ハードモードと言い表せるような人生であった。
まず容姿が一般的な平均値に比べて遥かに低く、その見た目によって女性どころか男性にも敬遠されたために、彼の交友関係は非常に狭かった。
運も良くなかった。生まれてすぐに親からは捨てられ、孤児院暮らし。子供の頃は震災や火事など様々な不幸の出来事に巻き込まれては、災難な目に遭うという日々の連続だった。しまいには、巻き込まれる方が悪いとまで周りから言われたりもした。
大人になってからも、彼は災難な出来事に巻き込まれ続けた。1つが痴漢の冤罪を着せられた事。そのせいで、何とか手にした仕事はすぐクビにされてしまった。後に女性が同じようなトラブルを複数回起こしていて詳細な調査が入り冤罪だと判明したが、罪を着せられた彼から一度ついた悪印象は消え去らなかった。
頭も良くはなかったが、男は他人と比べ何倍も努力して知識を身につけていった。コレは、友達が居なくて遊ぶ事もなく、女性との付き合う機会もなくて他にする事も無かったから、暇つぶしに勉強するぐらいしか無かったからだけれど。頭の悪さを、彼は時間と努力でカバーしていった。
普通の人生を生きていく事で精一杯だった。生涯独身であり、最期は癌という病に冒される事になってしまった。その時、家族も恋人も友人も誰も居ない、彼の最期を看取る人間が居ない孤独な人生を全うした。
「まぁ色々とあったけれど、嘆いたって仕方がない。精一杯に生きてきたんだから、悔いは無い。来世に期待するさ」
自分の人生に不満はあったけれど、最後まで口にせず。精一杯、生きたと言い切る男は全身に痛みを感じながら、病院のベッドの上でゆっくりと目を閉じた。
こうして男は最期に小さく呟いて、人知れず亡くなっていった。
その瞬間、彼の耳に謎の言葉が響いた。
〈人生ハードモードのクリアを確認しました。〉
***
「坊ちゃま!」
声を上げて廊下を走っている彼女の名はアマリア。セシル家に仕えるメイドだ。
「あ、ヤバイ」
アマリアの呼ぶ声に気付いて、焦ったような声を上げた男の子はセシル家の長男。名前はルンメ。
「坊ちゃま! また勝手に起き上がって、勝手に着替えて、勝手に部屋から出て! いつも言っているでしょう、メイドの仕事を減らさないでください!」
「しかしだな、アマリア。自分で出来る事は自分でしないと気持ち悪いじゃないか」
ルンメの反論に眉を上げて怒るアマリア。
「そんな事を言ったって! 貴方は4才児の子供でしょう。一体どこの貴族の子供が世話を受けずに生活をしている、というのですか?」
「ここに居るが」
「貴方以外には、他に誰も存在しませんよ!」
「ということは、世間が間違っているということだよ」
ルンメという男の子は、生まれた時から手間の掛からないような赤ん坊だった。
夜泣きもしないし、普段から静かさで大人しい。決まった時間にご飯を欲しがり、赤ん坊特有の危ない行動を起こすこともない。
一度以上の子育てをした経験のあるメイド達は、その時の子育ての経験とルンメという赤ん坊との違いを比較して、いかに彼が世話をしやすい赤ん坊なのかという事を力説し、将来は他人を思いやる素晴らしい人間に成長するだろうと予想をしていた。
しかし、その予想は間違っていることがすぐに解った。1歳になった頃から彼は、メイドの世話を嫌がり、自分の着替えを自分でやるようになった。
ルンメの世話をするのに付いているメイドが朝、彼を起こしに行ってみると自分でベッドから起き上がって寝間着から普段着に、着替えを終えているのだ。
世話はメイドがするから。何度も繰り返し注意して、メイドの手を借りるようにと説得するけれども、彼は聞く耳を持たない。
生活をするのに他人の手を借りるまでもない、と言って何でも自分のことは自分でこなしてしまう。
確かに自分で出来ることは、出来る限り自分でしようとする考えは素晴らしい、とメイドたちは思った。
けれども、一般的な世間の常識として貴族が人を従える事はステータスシンボルの一つとなっている。
メイドという仕事は女性が働ける数少ない場所でもあり、メイド仕事が女性雇用の大半を担っている。それを必要がないと拒否するのは、女性の働ける場所を潰そうとしていることになるんだと。
そんなメイド事情を懇切丁寧に話してみるとルンメはようやく、しぶしぶだが納得したといった感じで、ようやくメイドの世話を受けるようになった。
ルンメは、こんな風に貴族としては少し変わった少年だった。けれど、普通の人間としてもどこか違う感覚を持っているのか、それとも普通とは違う感覚を持つ彼こそ真の貴族なのだろうか。そう感じさせる出来事を次々と起こしていった。
後に、彼が起きした有名な出来事には奴隷民雇用改革、王子と令嬢との婚約破棄の解決、そして隣国に召喚された勇者の引受等などがある。
それらは歴史にも残る、偉業の数々だった。
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