ちょっと変わったアイテムボックス利用方法・後編

 アイテムボックスというスキルを持つ人材は、かなり希少である。アイテムを自由に異空間へと収納して、持ち運ぶことを可能にする有用な能力。


 その力を活用する方法は、色々と考えられるだろう。コットはそれを使って遺体をダンジョン内部から回収していく仕事を務めていた。



 彼の他に、アイテムボックスのスキルを持っている人達は、死んだ人間を収納したがらない。遺体回収の仕事の募集をかけても集まる人は少なかった。


 別にアイテムボックスの中に遺体を入れたとしても、異空間の中でアイテム同士は干渉しないので問題はなかったが、気分的にはアイテムボックスに死んだ人間を収納するのが嫌だという。嫌悪感を抱く人が多くて、コットのように嫌がることもなく、淡々とアイテムボックスを駆使して遺体を運ぶ仕事を務めるのは、珍しい事だった。




「剣術のスキルに盾による防御のスキル、完全に戦士系だな。頂こう」


 実はコットが、アイテムボックスという希少なスキルを使って他人が嫌がっている仕事を請け負う最大の理由がココにあった。


 彼は、もう一つの能力を身につけていた。アイテムボックスに収納した遺体から、スキルを頂戴することが出来るという能力。


 スキルを得ることで、自分の能力が飛躍的にアップする。例えば、剣術のスキルを死体となった人間が持っていたとしたら、剣を使った戦闘が通常よりも何倍も上手くなる剣術スキルをゲットできる。自然と剣の使い方を理解できるようになる。


 スキルを持っていなかったとしても剣を扱うことは出来るけれども、スキルを持つ者と持たない者との差は歴然と言えるほどに違ってくる。


 歴史に名を残した多くの剣豪は、全員が剣術スキルを持っていたと言い伝えられているほど。


 そんな、スキルを他人から頂いて集めて自分の物にできるというチートな能力を、コットは持っていた。だから、喜んで今の職務を全うしている。


 生きている人間は、アイテムボックスの中には収納することが出来ない。だから、遺体からでないとスキルを習得できない。


 もしかすると、生きたままでも収納できるかもしれない。だが、流石にコットは、それを試したことはなかった。ということで、ギルドの職員として冒険者の死体回収の仕事を喜んで務めている、というわけだった。




「剣術スキルは、もう十分に集まったか。盾の防御スキルも、ようやく集まってきたぐらいかな」


 スキルを集めていると重複する能力を得ることも有った。けれど、それらのスキルを合わせて上級のスキルを獲得することも出来たりするので、スキルの組み合わせで世間には知られていない新しいスキルを発見したりと、充実した日々を送っていた。




「よし、次の遺体の回収に向かおう」


 彼にとって、まさにダンジョン回収班という仕事は天職のようなものであった。




***


「報酬は、たったのこれだけ?」

「あぁそうだ。何か文句あるのか?」


 ダンジョンから回収をしてきた死体を引き渡して、その労働に対してコットが受け取った報酬は、たったの5ゴールド程度。


 これでは、一食分の食事代ぐらいにしかならない。


 ダンジョン内に潜るのは、それなりに危険な行為であることは承知だろうし、他の人ではなかなか出来ないだろう仕事に対する報酬ではないのは明らかだった。


 それなのに、支払いを済ませた上司は何の悪びれもなく労働に報いろうとはしていない。


 ギルドが資金繰りに困っているというわけでもないはず、むしろ王都中央にギルドの建物を威張り散らすように建てている。お金を使うところには使っているが、そのしわ寄せがギルドの末端職員であるコットの給料カットに影響してしまっている。


「こんなに報酬が少ないのなら、生活するのに困ります」

「気に入らないのなら辞めちまえ」


 コットの反論には一切耳を貸さず、お話は終わりだと言うように交渉の余地もなく上司は建物の奥へ引っ込んでしまった。


 あれでは、何を言っても今の給料から改善される様子はないだろう。むしろ文句を言ったことを理由に賃金から下げられる可能性すらあった。


 こんな報酬では、他に働く人なんて居ないだろうに……。それがコットの偽らざる心境だった。


 今までは資金報酬に加えて、他の誰にも真似出来ないような方法で遺体からスキルを頂いていたが、スキルを集めて大分時間が経って数多くのスキルを集めてこれた。


 最近は同じようなスキルしか得ることが出来ないようになって旨味が少なくなってきた。更にギルドからの給金がコレほどまで少なくなってしまったのなら、いよいよギルドで働く意味はない。



(上司は”気に入らないなら辞めちまえ”って言ってたしなぁ……。よし、そうしようか!)


 上司は、本気で言ったつもりは無いだろう、ということをコットは理解していた。けれども、上司の言葉を本気に捉えることにして彼はギルドを辞める決心をした。


 長年蓄えてきたスキルの数々に、回収で日常的に潜っていたダンジョンでの実践のおかげて戦闘力が格段に上がっているのをコットは自覚していた。


 ギルドの職員でありながら、冒険者上級レベルに達する実力があるだろうと、自負していた。そこから出した結論は、一人旅でも問題ないだろうということ。


 それにタンジョンに潜る準備は常日頃怠っていないので、これはそのまま旅に出る準備に使える。今すぐにでも王都を出ていける用意は既に完了していた。


(目的地は、そうだなぁ……。勇者の遺体が有ると言われている聖地を目指そうか)


 外へと目を向けたコットの旅の目的地、考えてから数秒の内に決まっていた。


 観光のついでにあわよくば、勇者の持つスキルを頂けないかどうか。そんな理由で王都を出発することに。目指すは、勇者の遺体が納められている聖地。


 5年間という月日、働いてきた冒険者ギルドを離れる。


 いつかの日か旅に出ようと、街を離れることを考えていたコットは、これといって親しい友人関係を築いては来なかった。と言うか仕事に熱中して、仲良くなる機会もなく、街に親しい友人が居ないことが幸いして後ろ髪を引かれるような事もなくその日の内に王都を出発することができた。


(自惚れでもなく多分、俺が居なくなったら代わりを務める人を探すのに彼らは苦労するだろうな。でも低賃金で今までギルドに貢献してきたんだし文句を言われる筋合いもない。せめて良い代理の人が見つかるように祈っておこう)


 こうしてコットは、冒険者ギルドと王都に一切惜しむことのない別れを告げた後、あっさりと旅を始めるのだった。



***



「コットは何処だ?」


 ダンジョン回収班を仕切っている上司が、昼を過ぎてもやって来ない一人の職員について尋ねた。そして、衝撃の事実を知ることになった。



「彼なら昨日の内に辞表を出して、ギルドを辞めたようですが……?」

「なんだと!?」




 1人のギルド職員が辞めて去った。


 その出来事がキッカケとなり、ダンジョン回収班の仕事が一気に滞る。作業が処理しきれずにどんどん溜まっていった。そして遂に、ダンジョン内部で回収しきれずにアンデットとなる大問題が起きてしまうのだった。


 ダンジョン回収班のまとめ役であった上司が、作業員の報酬中抜きという不祥事も発覚して、今まで上手く処理できていたはずのギルドの仕事がメチャクチャになってしまう。


 だけれど、旅をして遠くはなれてしまったコットの知るところでは無かった。




【短編】ちょっと変わったアイテムボックス利用方法

https://kakuyomu.jp/works/1177354054891907872

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