VRMMOの育成シミュレーションゲーム・中編

 時間を掛けてじっくり探してみたけれど、見つからない。


 少し焦りながら緊急事態だと判断し、少し恥ずかしいし迷惑になるかも知れないがゲームマスターと連絡を取ろうとメッセージを送って見た。


”ログアウトのボタンが見当たりません。気付かない間に、アップデートされたようです。お手数ですが、ログアウトの方法をお教え下さい”


 けれど、返信は何時まで待っても返ってこなかった。


 ログインしているプレイヤーは居ないか、フレンド登録してあるプレイヤー24名の名前が載っている一覧を見てみるが、全員がずっとログアウトしているという状態を示していた。


 何時の時間にログインしても、少なくとも2、3人はログインしている状態が通常だったのに、今日はゼロ人。今までに無い状況。


 何らかの方法でゲームからログアウトして、状況を確認しなければ。


 システムウィンドウを探りまわってみたが結局、ログアウトの方法は見つけることが出来ずに、さらには別の最悪な情報を手に入れてしまった。


「は? 育成中のキャラクターが全員消えてる!?」


 システムウィンドウからホームの状況を一から何度も確認し直す。情報は変わっていない。


 育て上げて旅に出したキャラクターも、キャラクターを活躍させたゲームの実績も全て消え失せていることを見つけてしまった。


 何度も調べ続ける。ログアウトできない原因は、ゲームのアップデートではない。バグによるデータ破損のせいなのか、それとも現在の状況の原因はログインの失敗によるものか。


 俺は、いつゲームにログインしたのかも思い出せない。現在、自分の置かれている状況の原因が考えつかなかった。どうすればいいのか、対処法も思いつかない。


「なんだ、このバグ! 今まで俺が育成に使ってきた数千時間がパァかよ!?」


 苦労してて育成してきたキャラクターが全消去されている、という衝撃的な情報を見つけた俺は、しばらく落ち込んだ。


 いくら考えてみても、ゲームからログアウトする方法も見つからなかった。地面に手をついて項垂れる。


 そして、今更ながらに気づいた。


 VRMMOという仮想世界では感じたことのない、土のリアルな感触。僅かな風を肌で感じれること。普段なら僅かな遅延がある身体、なのに今は思い通り動いていたから違和感がある。


 鼻で匂いを感じることも出来るということ。余りにも現実的な今の状況を、身体の全部で感じ取れていた。


 ゲームを進めて、時間が経つのを待つことにした。


 もしかしたら、何か不都合があってゲームマスターからの連絡が遅れているだけ、かもしれない。


 もしかしたら、何か不都合があって、ゲームからログアウトするボタンが押せないだけ。今必死にプログラマーがエラーを修正しているかもしれない。


 何か不都合があって……。


 何故こうなったのか考えていても仕方ないだろう。ゲームからログアウトする方法も思いつかないので、待っている時間を暇つぶしにゲームをプレイすることにした。


 異常な事態でゲームをプレイする、それは無意識のうちに今の状況の事についてを考えないようするための現実逃避だったのかもしれない。


 システムウィンドウから、ホームの現状況を確認する。幸いにも、今までに集めてきた施設の家具や内装、今まで集めた所有アイテム、課金アイテムなどは無事に倉庫に残って居ることが確認できた。


 一通り、自分の所有しているホームを歩き回り確認してみた。おおよそ東京にあるドーム数個分の広さを誇る大きさの敷地。


 見まわるだけで1日が経過した。それほどの広さ。ゲームとしてプレイしていた時と同じように、ホームとして設定された建物から外へは出れない。ホームから出ようとすると、見えない壁に阻まれて外へ出ることは出来なかった。


 見えない壁に穴か、抜けられる道など無いか外周を回って見たけれど、やはり外には出れなかった。


 外周を見まわっているうちに、見えない壁の外も一緒に観察してみた。だが、人の姿は見当たらない。ホーム片側には大きな山があり、もう片方は大きな木がたくさん茂っている薄暗い森になっていた。


 ホームの内部観察を終えた俺は、次にホームに所属させて訓練するキャラクターを選ぶことにした。システムウィンドウを開いて、現在所属させることが出来る状態にある人材リストを表示させる。


 画面に表示された18人の名前から、3人を選ぶ。


 プロフィールに書かれた情報では、19歳の男子1人に18歳の女子1人だった。そして、まだ12歳の非常に若い女の子1人。


 今まで学んできた、ゲーム経験を活かして選んだ3人だった。男子1人に女子1人の組み合わせ。


 2人は、速攻で育て上げて直ぐに外への旅に出せる見込みのある人材。活躍も一定だけ期待できる早熟型。この2人は、なるべく早く育て上げる計画を立てる。


 そして残りの女の子は、じっくり育ててジワジワ成長させていって、非常に強力なキャラクターとして育つであろうと予測されっる大器晩成型を選んだ。


 キャラクターがホームに所属するかどうか、成否が分かるのは半日後。


 もしかすると、所属の誘いを断られる可能性もあるので油断はできない。その間に施設の内部の構造確認や置いてある道具、消耗アイテムなどについて再調査と整理をしておく。


 終われば、その後で3人の訓練スケジュールを組み立てておく。ある程度の計画を決めると、俺は休むことにした。


 ゲームの中で眠るというのは不思議な経験だった。いつも、ログアウトしてゲームの世界から抜け出しているから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る