婚約破棄に至る病・後編
何故そんな事を答えなくてはいけないのか。答えを拒否をしようとした王子だったが、真剣な表情で問いかけてくる医者のプレッシャーに負けて、王子は自分の名前を叫んだ。卒業パーティーの会場に、王子の声が響き渡る。
それから、医者が王子へいくつか質問を繰り返した。医者の質問に、不機嫌な表情を浮かべた王子が答えていく。医者が向ける必死の形相に、答えないという選択肢を選ぶことが出来なかった。本気の態度で接してくる医者に対し、王子は怯んでいた。
王子が生まれた年月、王や王妃などの彼の家族関係について、いま何か悩んでいることはあるか? と王子のプライベートな事まで事細かに、次々と確認していった。
医者から聞かれた通り、仕方なく次々と答えていった王子。質問は時間を掛けて、何十問も続けられて王子自身に関する事を入念に確認されていく。
そして最後に、今ココで問題となっていた出来事について。オリヴィアに婚約破棄を迫った先程の事について、質問しながら確認を進める医者。
「王子よ、オリヴィア様との婚約をなぜ破棄なされたのですか?」
「彼女は、ここにいるアリス嬢をイジメていた。そんな者が王妃に相応しくない事は明白だ」
分かりきったことだと、吐き捨てるように言うディートリヒ。
「なるほど、それで王子はそこの彼女が代わりの次期王妃になると言うのですか?」
「もちろん、そうだ」
その王子の言葉を聞いて、オリヴィアは絶望的なんだという表情を浮かべていた。問診を続けていた医者も、苦々しい表情を浮かべている。その2人の表情を見て状況が理解できず、我慢できなくなった王子は逆に問いかける。
「何だというのだ、さっきから一体!」
「恐れながら申し上げますが王子よ、貴方は病気のようです」
一瞬医者から何を言われたのかを理解できなかった王子は、呆けた顔を浮かべて、しばらくしな理解した頃にすぐさま否定する。
「馬鹿な、私は健康体だ。病気なわけがない」
「身体は健康でしょう。ですが、心がオカシクなっているのです。自覚も出来ないとなると非常に深刻な症状」
卒業記念パーティーという、祝うべき場所で婚約者であったオリヴィアに対して、わざわざ恥をかかせるような演出をして婚約破棄を告げたこと。しかも、国で決めた大事な婚約関係を王子が勝手に自己判断で破棄を告げた。それだけでも、判断能力が欠如している事は明白だった。
そして何よりも、今回の出来事と同じような事件が過去の歴史でも起こっていた、ということ。そして事を起こした過去の者達は、皆が精神病を患っていたという記録が残っている。過去にも事例がある出来事だった。
「申し上げにくい事なのですが、王族の関係者には精神を病む者も多いという記録が残っています。残念なことにディートリヒ様も、今回の出来事で明確になってしまいました。彼を病室に連れて行こう」
医者はいつの間にか近くにやって来ていた彼の助手に指示を出して、王子を病室に連れて行き治療を始めようとする。
「違う、離せ無礼者! 私は病気なんかじゃない!」
「そうよ、ディートリヒ様を離してあげて!」
医者と助手が力を合わせて王子をパーティー会場から連れ出そうと捕まえる、だが彼は病気なんかじゃないと暴れて反抗する。そして、暴れる王子を離すように言って縋り付いてお願いをするアリスが居た。
「彼女も何か問題がありそうだな。一緒に病室に連れて検査しないと。誰か、女性の手伝いを呼んできてくれ。先に、錯乱している王子の捕獲を優先しろ」
「離して、何で私も!」
ディートリヒ王子と一緒にアリスも連れて行かれる事になった場所。女性の手伝いがやって来てアリスを捕まえる。
実は過去の事例であるように、婚約破棄という言葉を婚約者に放った時に王子の側に寄り添う女性が精神病を発症する事になってしまった大きな原因である、
可能性について、いくつかの考察記録が残っていた。それらの女性も王族と同じように可笑しな精神病を患っていたという記録。調べるために、アリスも病室に連れて行かれる。
「貴方は病気なのよ、でも落ち着いて必ず良くなるわ」
「な、何を言っているオリヴィア? 病気? そんな筈はない!」
暴れていたディートリヒを優しく気遣うオリヴィアにそう指摘されて、強く否定したものの不安に感じて焦っていた。
王子は病気である筈が無いと口では否定しているものの、一つ一つ指摘された事を思い返して考えてみれば確かにオカシイ。いや、そんな筈はない。自分は正しいはずで、オリヴィアがアリスをイジメていたのが悪い。しかし、その証拠は。
ディートリヒは自分の心の中で行った否定と肯定の繰り返しに、本当に頭がおかしくなりそうだった。そして、逃げ出す気力も徐々に無くなっていくと、医者に連れられてパーティー会場から連れ出されていった。
連れて行かれるディートリヒの背中を見送りながら、オリヴィアは王子が起こした精神の変異や精神病発症に気付けなかった自分を責めて、涙を流した。そして彼女は心の底から、王子の快復を願うのだった。
【短編】婚約破棄に至る病
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