第3話「 Snow (Hey Oh)」


「あゆちゃん、実はお布団無いんだ。親の部屋使って寝ていいよ。今は空き部屋だし」



「いやいや、一緒に寝ようよ」



「せ、狭くなっちゃうけど……」



「大丈夫☆彡」



私はウインクを零し、ミオちゃんに積極的に攻めた。ミオちゃんは少し逡巡したものの、頷いた。心の中でガッツポーズを取る私。




「積極的だよね、あゆちゃん。でもちょっと嬉しい」



「喜んで頂けて何より」



「パジャマ私のでよかったら使っていいよ」



「OK」



私はさっそくパジャマに着替えた。他人のパジャマを使うのは少し抵抗があるものの、この場合は致し方ない。制服で寝る訳にもいかないし。一応、ブラは外しておく。



「あ、付けない派なんだね」



「ノーブラの方が一番寝やすいからね」



「それはわかるよ」



うんうんと頷くミオちゃん。



「んじゃ電気消すよ」




リモコンで電気を消す。

スイッチで消すうちとは大違いだ。 




「今日、ありがとね。わざわざ来てくれて……」


「別にいいって」


「わがまま言ってごめんね。ほんと、寂しくて」


「それもいいから」



予定は全部狂ってしまったが、新しい友達ができたのだ。それならマイナスが減ってプラスなので問題ない。その点、日村には感謝だ。さて、何か言おうかなと考えを巡らせていた所、ミオちゃんはすやすやと寝息を立てていた。だいぶ疲れていたらしい。ま、体調悪そうにしてたから、ゆっくり眠れているのはいいことだ。



「おやすみ」



王子様よろしく、お姫様にキスをして私も眠ることにした。

お姫様の呪いは解け、明日はきっと良い目覚めを迎えることだろう。







次の日。

目を覚ますと、隣にはミオちゃんが寝ている。私の方が先に目を覚ましたらしい。見られるのが恥ずかしいので、そそくさと着替えを済ませ、洗面所で顔を洗う。髪を整え、ついでに用も足しておく。そのタイミングでピンポンが鳴り、玄関を開ける。



「よう、悪かったな。やっと用事が全部終わったよ」



「髪ボロボロよ、ガチで速攻来たのね」



持ってたブラシで整えてあげる。

うん、これでよし。



「あんがとよ。ミオはどうしてる?」



「まだ寝てる。私はそろそろ帰るよ」



「早くないか? まだ8時だし、居てもいいと思うが」



「相手は体調悪いのよ? 人間がたくさんいる必要ないって。気心知れたアンタの方がいいっしょ。じゃあね」



「おう、気をつけてな」



そう言って私はミオちゃんの家を後にしたのだった。




新しい人間はどこか異物な物を感じる。だから、身体が慣れるまで抵抗があるんだとあの子は言っていた。私は距離感とか、パーソナルスペースとか気にしないタチだけど、ミオちゃんは気にするタイプだろう。なら、さっさと消えたらいい。部外者は透明人間のように消えればそれでいい。そして、学校で会ったら、普通に話せばいいだけだ。






その頃。

山本美緒と日村和美は二人で朝食を摂っていた。パンをトーストで焼き、ジャムを塗った簡単なものだ。トーストは以前、懸賞で当てた国民的ハムスターアニメのものである。



「あゆちゃん帰っちゃったのね。朝食一緒に食べたかったんだけどな」



「多分、気を遣ったんだろう。今度は体調いい時に遊びとか泊まりに誘えばいいさ」



「そうだね。あとでお礼のLIME送っておくよ」



「珍しいな、あいつがLIME交換とか……よっぽど、ミオを気に入ったんだな」



「そなの? あゆちゃん、友達多そうなイメージだけど」



「私以外とは、ほとんど口利いてないな。といっても、無視してるわけじゃないぞ。受け答えはしてるが、誰かとつるんでたりしてるのは見たことないな。遊びに行ったとかいう話も聞かん。一人が好きなのかもな」



コーヒーをずずずと飲みながら、パンをかじる日村。ブラックで熱いコーヒーが好きな彼女は年中ホットだけを飲む。対するミオは砂糖3つ入れたアイスコーヒーであり、好みは正反対だった。なのに気が合うのだから不思議なものだ。



「そういえば、クラブでの話聞いたよ。そんな所行ってたんだね」


「あいつ、余計なこと喋りやがって……」


「その頃から、あゆちゃんってああいう感じ?」


「昔はもっとクールだったぞ。私もやんちゃだったからな、男遊びってのもしてみたかったんだ。とはいえ、さすがにもう男はこりごりだがな」


「カズちゃんに浮いた話を聞かないのはそれが原因?」


「まあな。だが、跡取り娘だ。いずれ縁談が組まれてもおかしくない。近い将来、どこかに嫁ぐだろうが、そうなる前に家を出てもいいんだが、どうするかねぇ」



金持ちの家は縁談で結婚することが多い。とはいえ、今は自由恋愛の時代だから、高貴な身分を捨て、家を出て一般人と結婚することも多々ある。しかし、日村はクラブ騒動から男嫌いになっており、結婚なんかできるかどうか、自分自身でもわからないでいた。



「あゆちゃんともっとお話ししたいな。今、何してるのかな」



「土日済んだらまた学校で会えばいい。それまでに体調よくしろよ」


「うん」




それからも二人はのんびりと会話を楽しんだ。

だが、ミオはほとんど、あゆみの話ばかりしていたのだった。

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