04【黒崎初美】紬サポート計画(後編)

「でも紬くん、ベロは入れてない、って言ってたよ」


 おお! リリスちゃん!

 そういうことはもっと早く言ってくれないかなぁ?


「ほっ……ほんと!?」


 ツインテの表情もパッと輝く。

 よくよく考えるとベロチューじゃなくたって大問題なんだけど、初撃が凄まじすぎてライトなやつなら許せる雰囲気になってるわ。

 ドアインザフェイス、てやつねこれ。


「うん。入れるつもりだったけど、その前にマナの流入が始まったから必要なかった、って」

「だ、だよね! 普通に考えて!」


 うんうん! 普通に考えればそう!

 普通がよく分かんないけど、今はツインテの意見に賛成!


 ……でも、言っちゃ悪いけどリリスちゃんって相当チョロそうだからなぁ。

 嘘はついてなくても言いくるめられてる可能性はありそうだな、チョリス。


 周りを見てみると、ツインテ以外のみんなもなんとなくそう言いたそうな表情になってる。


「どうなの、可憐? 見てたんでしょ? べべべ、ベロチューだったか否か、そこ大事だから!」

「いや、少し離れていたし、私もよくは見えなかったから……まあ、本人達の言葉を信じるしかないのでは」


 女剣士も珍しく歯切れが悪けど、確かにこれ以上疑っても仕方ないよね。


 たとえ……たとえよ?

 万が一ベロチューだったとしても、そこは私が上書きすればいい話。

 私が毎日お風呂で、自分の指相手に練習してるベロテクを使えば、あんなロリっ子に負けるわけないもん。

 初美ふぁいっふぁいっとぉ——!


 ツインテも、なんとか切り替えた様子で話を続ける。


「ま、まあとにかく! あの子が人間社会の常識を身につけるまでD班全体で少しサポートしていく必要があると思うのよ」

「「「…………」」」

「……お、思わない?」


 女剣士とお気楽シーフと麗の三人が「はあ?」という表情で首を傾げている。


「D班とは関係ないだろ」と、女剣士。

「そんなの、あいつらの問題でしょ」と、シーフは相変わらずお気楽。

「私も……ちょっと……」麗は、基本的にメンドくさがり。

「何よあんたたち……ヤル気ないなぁ。みんな仲間でしょ? これからもD班でいろいろ課題をこなしていくために、絆は大切にって言ってるの!」


 そんなくだりあった?

 ま、どっちにしろこの三人を説得するのは無理だよツインテ。

 顔見りゃ分かる。


「じゃあ決を採るわ。サポートが必要だと思う人! 挙手!」


 手を挙げたのはツインテと私と……お! 根暗魔女も!

 見かけに拠らずやる気あるじゃん!


「三対三ね」と、麗。

「いえ……四対三よっ!」


 よく見ると、ツインテの肩の上でリリスちゃんも手を挙げている。

 オブザーバーって議決権はないんじゃなかったっけ?

 ……ま、定義的なことはどうでもいっか。

 自分に都合のよいことはとことん利用させてもらう。それが初美スタイル。


「そもそも初美とリリスちゃん、D班じゃないじゃん」


 ちっ!

 お気楽シーフめ。お気楽なくせに細かいな。


「細かいこと言わない。オアラ組はみんなD班みたいなもんよ!」


 やれやれ、と女剣士が首を振る。


「そもそも、D班全体の問題にしなくても、サポートしたい人だけでボランティアでやればいいんじゃないのか?」

「冷たいわね可憐? 仮にも地底ではあの子のママ役だったんでしょ?」

「メアリーのことは考えてるよ。もし紬の家で預かれなければ、私の家で預かってもいいとは話してある」

「え? それ、何気にグッドアイデアじゃん!? そうなれば紬とあの子は離ればなれになるわけだし」

「ただ、それだとマナが供給できない。数日に一度会えばなんとかなる話だが、不測の事態に備えて使役者と使い魔サーヴァントはなるべく近くで過ごすのが理想的だ」


 そっか……。

 それに、そんなことになったらロリっ子を口実に紬くんと女剣士も頻繁に会って、仕舞にはニャンニャン……なんてことにもなりかねない。

 そう考えると、うちで預かりたいくらいだよ!

 とりあえず女剣士と紬くんの親密度は一旦きっちりリセットしておかないと。


 それにツインテもロリっ子から『女剣士ママがいるから紬くんとの愛人関係を清算しろ』とか言われてたよね。

 女剣士とメアリーのパイプを強固にするのは、のちのちなんとなく面倒なことになる気がするよ。


 ツインテもそう判断したのか、


「わ、分かったわ。じゃあ、挙手したメンバーだけでサポート委員会を結成しましょう」


 改めて〝紬くんサポート委員会〟のメンバー——私、ツインテ、根暗魔女の三人とリリスちゃんでコンパートメントの奥へ集まり直す。


 って言うか待って! それだと麗いなくなっちゃうじゃん!

 麗なしでこいつらと話すのなんて初めてだよ!

 どーすんのよこれ!?


「とりあえず今日、帰ってから紬の家の環境を確認しに行ける人、いる? 立夏も一人暮らしよね?」


 やっぱ仕切るのはツインテか。

 まあ、リリスちゃんは能天気だし、根暗魔女は私とキャラ被ってるし、この面子なら仕方ない感じはあるけど……。

 このツインテも、アーチャーって言うよりはアチャ~って感じだからなぁ。

 大丈夫か、この委員会?


「私は……無理。今日は実家。明日はアルバイト」

「私も今日は、あんなことのあった後だから実家に顔出せって言われてるのよね……。初美は?」


 え~っと、私は、私は……。


 あ~もうっ!

 クロエを出したいとこだけど、あいつ、余計なことまで喋るからなぁ……。


「いっ……よっ……だっ……(一旦家に帰るけど、様子を見にいくくらいなら大丈夫)」

「いいのね? 行けるのね?」


 私がコクコク頷くと、


「じゃあ、今日のところは初美に見てきてもらいましょ」


 様子を見るのはいいけど、何を見てくればいいんだろ?


「初美ちゃん、何を見に来るの?」


 リリスちゃん、ナイスアシスト!


「生活環境と、可能ならあの子と紬の寝床を分けるよう家族の意見を操作してほしいのよ」


 そんな高度な交渉力を私に求めるとか、アホかこいつ。


「紬の家って間取りはどうだっけ?」

「え~っと……4DKっていうのかな、あれ」

「そう言えば初美も行ったことあるのよね? 4DKで間違いない?」


 行ったことはあるけど、間取りまでチェックしてないからなぁ。

 家のサイズは元の世界と同規模だからそのくらいだとは思うけど……。


 私が固まっていると、リリスちゃんが詳しく解説を始める。


「二階の二部屋は紬くんと楓ちゃんの部屋。一階はママさん達の寝室とリビングと食堂ダイニング、あとは物置が何箇所かって感じ」


 ふむふむ……と、握り拳を口に当てながらツインテが黙考。


「ザ・庶民って感じの間取りね。部屋に余裕もなさそうだし、あの子は紬の部屋で一緒に寝る可能性もなきにしもあらず……。危険ね」

「うん、危険! メアリーは危険! 生意気!」

「部屋のことは……私にちょっと考えがあるから待ってて。ただ、すぐにどうこうはできないから、問題はそれまでどうするかね」

「……どうする……か?」とオウム返しで尋ねたのは根暗魔女。

「当面の目的は、とにかく紬とメアリーを二人きりにしないこと!」

「私がいるから、二人きりにはならないけどね!」


 と言うリリスちゃんを、ちょっと冷めた目で見返すツインテ。


「リリスちゃんはあんまりアテになら……」と言いかけて言葉を呑み込み、

「……一人では大変だろうから、私たち三人でサポートするのよ」


 やっぱツインテも、リリスちゃんが微妙にポンコツだってことには気づいてるんだ。

 ツインテの言葉に、私と根暗魔女とリリスちゃんも大きく頷く。


「それじゃあ、紬監視委員会発足ということで、頑張りましょ!」


 あれ? 委員会の名前、変わってない?

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