03【黒崎初美】紬サポート計画(前編)

——私たちがフナバシティに帰る四時間ほど前。


 オアラから地元に戻る船電車ウィレイアの車内で、


「それじゃあ、つむぎサポート計画のミーティングを始めるわよ」


 ツインテアーチャーがなんか言い出した。


 天然先生以外の六人が、客室後部のコンパートメントに集まっている。

 壁などで間仕切まじきりされているわけじゃないけど、三人掛けのクロスシートが向かい合うように設置されているので、この人数で話すには丁度いい感じ。


「紬くんのサポート……って、何をサポートするの?」


 うららの質問に、あご先で男子メンバーの方を指すツインテ。

 私も釣られて見てみると、車内前方、窓沿いのロングシートに、手前から川ナントカ、ノッポ槍、つむぎくんの三人が並んで座っている。

 そして最奥、壁際には、車窓や車内をキョロキョロと見渡しながら落ち着きなく腰掛けている金髪ロリ——。


 めっちゃうらやまポジション!

 あ、コラ、紬くんに馴れ馴れしく触るなロリっ子!


「紬くんと……メアリーちゃんのこと?」

「そう」と、小さく頷きながらツインテが腕組みをする。

「ぶっちゃけ、相当危険だと思うのよね、あの子」

「あの子って、メアリーちゃん?」

「そう」

「危険って、何が?」


 と聞き返したのはお気楽シーフだ。

 確か、クルクルパーみたいな名前だったと思うけど、よく覚えてない。


「何が? 何がじゃないわよ! 盗賊シーフなのに紅来くくるも危機感足りないわね!」

「シーフ、関係ないっしょ……」

「だって、紬のことパパとか言っちゃって、ベタベタ引っ付いて……あざといのよ、いろいろと」

「メアリーちゃんのこと? まだほんの子供じゃん」

「でも実年齢は二十歳くらいって言ったじゃん」

「精神年齢は見たまんまだよ……。慣れるまで仕方ないんじゃない? 知り合いは紬と可憐かれんくらいなんだし」

「そりゃそうだけど……紬もほら! なんかデレてるし!」


 なんですってぇ——っ⁉

 ほんとだ! ロリっ子に話しかけられてなんかニヤけてるよ紬くん……。


 そもそも、パパって呼ばせてるのもどうなの?

 そういうプレイだとしても、ロリっ子相手じゃ洒落なんないよ。

 世界が世界なら犯罪だよ?

 あ~! とにかく距離感が近すぎるんだよ!

 紅来って言うの? あんたもちゃんと言っておやり!


「そう? 至って普通に見えるけど」


 だ、ダメだ……。

 やっぱこいつはクルクルパーのお気楽シーフだ。


「至って普通じゃないわよ! ねえ、リリスちゃん?」


 そう言えばリリスちゃん、なんでツインテの肩に座ってるんだろ?


「うん、危険! あの子は危険! 生意気!」


 リリスちゃんが食べてるのは……オアラ土産のお煎餅せんべいか。

 確か紬くん、家族へのお土産にって言って買ってなかったけ?

 もう半分以上いっちゃってるけど、大丈夫なの?


「ん? どうしたの初美はつみちゃん、私の顔に何か付いてる?」

「いっ……べっ……(いえ別に)」

「あ! 初美ちゃんもお煎餅食べたいんだ! 私の食べかけだけど、要る?」

「いっ……しっ……たっ……(要らねぇ——よ! しかも食べかけかい!)」

「あ、でも、家族の分も残しとけって言われたから三枚は残さないと……。やっぱこれはあげられないや」

「べっ……かっ……さっ……(別に煎餅は要らないけど、家族分三枚じゃ足りなくない!?)」

「あ~、今日は運が悪いなぁ……食べこぼしも多いよ」

「そっ……うっ……(それ、運は関係ないから!)」


 ツインテがリリスちゃんの方を見て小さな溜息を漏らす。


「リリスちゃん? あなた、オブザーバーなんだから食べてばっかりいないでちゃんと話に参加してね?」

「うんモグモグ……任せて!モグモグ……」

「可憐の話に拠ればあの子、裸で紬のベッドに夜這いしたらしいじゃん?」


 なんですってぇ——っ!

 それ、私がやろうと思ってたことじゃん!

 ちょっとお酒の力さえ借りれば、私だって夜這いくらい……。

 やるっ! ここは異世界! それくらい普通! いける!


「いや、夜這いってわけじゃない。一応、後から聞けば理由もあったし」


 おい女剣士。そこら辺もーちょっとkwskくわしく


「でも、女の子はマセてるから幼くみえても油断はできないわよ。……ねぇリリスちゃん?」

「うん、油断ダメ! モグモグ……油断大敵! あの子は生意気!」


 リリスちゃんのマントラみたいな意見は、ほんとにオブザーブになってるの?

 それにしてもツインテとリリスちゃん、いつの間にこんな結託してたんだろ。

 麗も、薄目で二人を眺めてるところを見ると同じ疑問を持ってるっぽいけど。


 あ!

 でも、将を射んとする者はまず馬とも言うし、先にリリスちゃんと仲良くなっておくのも手か……。

 さてはツインテも紬くん狙いか⁉

 まあでも、敵の敵は味方理論で今は手を組んでおくか。


「なにせあの子、紬くんとキスしちゃってるからね! 生意気!」


 なんですってぇ————っ!!

 り、リリスちゃん? それホント?

 冗談だったらそのお煎餅、全部外に投げ捨てちゃうからね!?

 

 てゆーか、きっきっきっきっ、キッス~!?


「きっきっきっ……きすぅ!?」


 ツインテも分かりやすく狼狽してる。

 おまえは喋る私か。


「確かに、メアリーが体調を崩した時、紬と使役契約を結ぶためにそんな感じのことをしてたような……」


 おい、女剣士!

 そこんとこもうちょっとkwskくわしく

 契約ってことは、惚れた腫れたの理由ではないってこと!?


 そう言えば、亜人との使役契約には〝血の契り〟と〝接吻くちづけの契約〟が必要だって授業で習ったような気が……。

 だから、使役する場合は必然的に異性の亜人になることが普通なんだとか。

 もちろん、腐女うららが喜びそうな例外もあるだろうけれど。


——なんで忘れてたんだろ、私?


「そう言えば、亜人との使役契約って——」


 と、私が思ったことと同じ説明をするお気楽シーフ。

 さらに、


「それは……ほんとう」


 と根暗魔女も追認。

 やっぱり、私の記憶に間違いなかったみたい。


「しかもあれだぞ。普通のライトなやつじゃダメなんだぞ、確か」

「え? それって、どう言う……」

「精神的に強い絆を確認するためのものだから、かなりディープなやつだと思う、って先生は言ってたなぁ。いわゆる、ベロチューってやつ?」

「べっべっべっべっ…………」


 まるで眩暈めまいでも起こしたかのように、天井を仰いだツインテが背凭せもたれにドッカと身を預ける。

 そして誰も気付いていなかったけれど、私もまったく同じ動きをしていた。

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