02.脅迫電話
母さんが全員のワインを
「それじゃあみんな、ありがとう!」
なぜか謝辞を述べる父さんと、それに拍手で応える母さん、そして
さらに。
「「お父さんお誕生日おめでとう!」」
え? お誕生日? 父さんの? 今日だっけ?
とりあえず俺も二人に合わせて拍手をしながら、
「この食事、俺の帰還祝いだったんじゃないの?」
「なんで
母さんが眉を
通話で『晩餐の用意をして待ってる』なんて言うから、俺はてっきり……。
しかし、父さんと雫もすでに食べ始め、リリスもナイフを持って丸焼きのローストターキーに突撃。
誰も俺のことなど気に止める様子はない。
「帰ってくるだけ、って言われりゃその通りだけど、それなら父さんの誕生日だってそんな盛大にやるもんでも——」
「何言ってんのよ。家長の誕生日はしっかり祝うのが当たり前でしょ」
「そうなの?」
世界改変で昔の戸主制度みたいな文化でも復活したんだろうか。
父さんの誕生日なんて誰も知らなかった元の世界とは大違いだけど、こっちでだって、普段は父さんが特に敬われているような雰囲気はなかったけどなぁ?
もしかして、システムや事象だけを取り入れて〝根拠〟は
ノートの精による〝チート〟の扱い方を見るとそれもあり得そうだ。
「……パ? パパ! 聞こえてますかっ⁉」
「え? あ、ごめんごめん……何?」
「メアリーに料理を取ってくださいって言ってるんです」
メアリーが、ナイフを持った手でテーブルをドンと叩きながらこっちを睨む。
肩から上は卓上に出ているものの、料理に手を伸ばすには不自由そうだ。
「ごめんごめん、何が食べたい?」
「リリッペが突撃してるやつです」
と、ナイフでターキーを指すメアリー。
「お、いきなりメインか」
「早く食べないとなくなりそうです」
「確かに」
ターキーを切り分けてメアリーの前の木皿に乗せる。
そんな俺達がよほど気になるのか、ワイングラスを口に運びながら雫が探るように観察している。
因みにこの世界で飲酒しても良いとされているのは十四歳からだが、あくまで目安のようなもので、それ以下の子供が飲んだからと言って違法と言うわけでもない。
つまり、そこまで
元の世界で二十歳未満の飲酒が禁じられていた法意は、健康障害や各種トラブルから未成年を守るためだ。
しかし、この世界ではすべて自己責任。
治安レベルは元の世界とは比べ物にならないほど悪いし、マナ濃度によっては魔物も出るようなこの世界では
それを覚悟ではっちゃけるならどうぞご自由に、ってことらしい。
命の重みが元の世界とは全然違うのだ。
「お兄ちゃん、パパって呼ばれてるの?」
「うん、まあ、あだ名みたいなもんだけど……」
やっぱ、亜人との勝手な婚姻や養子縁組は禁止されているし、対外的にその呼び方は何かと誤解を招く恐れがあるよな。
「やっぱ、俺の呼び方、本名にするか?」と、メアリーに提案してみる。
「ツムリですか?」
「それも本名と違うけど」
「長く慣れ親しんだ呼び方を変えるのは大変です」
「ゆーてまだ三日じゃん」
「ツムリなんて、長くて言いづらいです」
「たった一字違いじゃん! 少なくとも、ジュールなんちゃらだのレアンなんちゃらよりはずいぶん短いが!?」
「パパでいいです」
そう言ってメアリーがターキーを頬張る。
「お兄ちゃんがパパってことは、もしかしてママもいたりして?」
「ん? ああ、えっと、
「
九年生——元の世界で言えば中学三年生までは別校舎に通学する。
当然俺にはその場所の記憶はないけど、二学年下の雫にとっては二つ上の先輩として同じ校舎に通った思い出があるのだろう。
特にあの凛とした可憐のことだ。下級生から見ても相当目立っていただろうし、雫の瞳に
「地底に落ちたあと、可憐と二人でさらに最深部まで落ちちゃってさ」
「それを助けたのがメアリーです!」と、ドヤ顔に変わる金髪幼女。
「ふ~ん……。石動先輩みたいな美人さんと、こんな可愛いメアリーちゃんと、三人で過ごしてたんだ」
「ま、まあな」
「地底って言っても、メアリーちゃんが住んでたような集落があったわけでしょ? だいぶ満喫できたみたいじゃん、バカンス」
「バカンスとか言うな! 一言では説明できないけど、いろいろあってほんと大変だったんだから! ……なあメアリー?」
横を見ると、ターキーを食べ終えてビーフシチューに手を付け始めたメアリーが、チラリと俺の方を見上げる。
——あれ? そのシチュー、俺のじゃね?
「どうでしょう。メアリーはわりと楽しかったですよ? 少なくとも、一人で過ごしてた四十九日に比べたら夢のようでした」
「一人だったのは二週間だって聞いたけど?」
まあ、メアリーは比較対象も苛酷すぎるから分からないでもない。
「そうだ! リリスはどうだ? おまえは相当大変だっただろ」
「え? 私もなんだかんだ楽しかったけどなぁ……。最終的にはこうして美味しい料理も食べれたし」
ダメだこいつ。美味しい料理を食べたことで記憶が上書きされてやがる。
なんて単純な構造なんだ……。
脳みそトコロテンか?
「と、とにかく! ほんと大変だったんだって! 変なおっさんとポーカーさせられたり、女ノームと弓術勝負させられたり……」
「ほんとだー、大変そうだー、私に涙腺があったらきっと泣いてたと思う」
——くっ……。なんという棒読みの
その時だった。
玄関からコンコンというノッカーの音が聞こえてきた。
時計を見ればすでに夜の八時を回ったところ。
元の世界ならともかく、こちらでは
「あらあら! どうしたの、こんな時間に?」
出迎えた母さんの声のあと、すぐに訪問者の声も続く。
「つむぎんに忘れ物を届けに来たにゃん」
——にゃん? にゃんつった?
俺も立ち上がり、玄関へ向かおうとしたその時だった。
すぐ横の柱に取り付けられていた通話機がタイミングよく鳴り始めたので、仕方なく受話器を取る。
「はいもしもし?」
『あれ、
「ん? 誰?」
『はあ? あたしよあたし!』
「その喋り方は……華瑠亜か⁉」
『あんた、あたしのこと喋り方で区別してんの!?』
「いや、通話機だとちょっと声の感じが違って……で、なんなの、こんな時間に」
『明日なんだけど、バイト来られる?』
「ハウスキーパーの? オアラに行く二、三日前に行ったばっかじゃん」
『もう汚れちゃったのよ』
——もう? どんな使い方してんだよあいつ。
「バイト代は出るんだろうな? 昼間は用事があるから夕方でいいなら」
『それでいい。それと——』
「ん?」
『
「……は?」
『そんだけ! じゃあね! おやすみ!』と言い置いて、一方的に華瑠亜は通話を切った。
な、なんなんだ今の脅迫電話は?
初美に? 手を出す? なんのこっちゃ?
さっき聞こえたのはクロエの声みたいだったし、訪ねて来たのは初美だろう。
そのことと何か関係があるんだろうか?
だとしても、なんで華瑠亜がうちの訪問客のことを知ってるんだ?
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