08【綾瀬雫】はいはぁ~い

 通話器を戻すと、またすぐに呼び出しのベルが鳴る。


――またお兄ちゃんかな?


「はいはぁ~い、まだ何か?」

『綾瀬くんのクラスメイトで、雪平と申します』


――やばっ! 違った!


つむぎくんは、ご在宅でしょうか?』


「あ、すみません……え~っと、兄なら今日は帰らないと、さっき連絡がありまして……」

『泊まる? トゥクヴァルスに?』

「え? ああ、はい。そうみたいですよ」


――この人、お兄ちゃんがトゥクヴァルスに行ったの知ってるのか。


『……一人で? ……ですか?』

「いえ、学校の先生が同行してくれてる、って言ってましたね……確か、みやざき……いえ、さぎみや先生?……とか何とか」


 直後、通話機の向こうから、ガタ、ガタン! ガシャン!と、何かを落としたような大きな音が響く。


――な、なにごと!?


『ごめんなさい。通話器を、落とした……』

「あ、いいえ……。何か言伝ことづてがあれば伺いますけど?」

『いえ、結構です。何度もすみませんでした。失礼致します』

「あ、はい、失礼しまぁす」


――何度も? もしかして、お兄ちゃんの彼女さん?

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