07.優奈先生とお泊まり

「わかりましたよ……。付き合いますよ、一泊」


 優奈ゆうな先生の顔が、パッと明るさを取り戻す。


「ほ、ほんと!? なんか、引き止めちゃったみたいで、ごめんなさい……」

「どうせ今日帰っても、今からじゃ立夏にも会えないでしょうし」


 時間はまだ午後四時前だが、急いで下山しても家に着くのは夜の七時頃だろう。

 約束でもしているならともかく、治安もいいとは言えないこちらの世界では、呼び出して会うには少々気兼ねする時間だ。


「じゃあカプセルルーム二つ頼んでおいてください。俺、家に連絡してきますから」

「うんうん、おっけー!」


 フロントで通話器を借りて連絡すると、通話口に出たのはいもうとだった。


しずくか? 俺、今日こっちに泊まっていくから、母さんたちに伝えておいてくれ」

『泊まる? こっちって、トゥクヴァルスに?』

「うん。休憩所に簡易宿泊施設があるんだよ」

『それは知ってるけど……一人で?』

「いや、学校の鷺宮さぎみや先生が同伴してくれてるから、心配するなって言っておいて」

『は~い』


 あえて優奈先生とは言うまい。

 別の意味で心配されても面倒だからな。


 通話を切って振り向くと、鍵の紐を指に引っかけて、ブンブン回転させながら歩いてくる優奈先生が目に入る。


 ……鍵?

 カプセルルームに鍵なんてあるんだ?


「部屋取ったよ~!」

「そうですか……。鍵、一つですか?」

「うんうん。ツインが空いてるって言うから、そっちにした」


 はあ?


「そっちにした、って……ひ、一部屋ですよね!?」

「それはそうだよ、ツインだもん。……あれ? ダブルの方が良かった?」

「問題はそこじゃなくて! カプセルルームは空いてなかったんですか?」

「ううん、空いてたけど……実は私、狭いところ苦手なのよ。閉所恐怖症、っていうやつかな」

「マズいでしょ、それ!?」

「え? 意外と多いみたいだよ、閉所恐怖症の人……」

「いや、だから、そこじゃなくて! 一応俺だって男ですよ? でもって先生と生徒ですよ? ここまで言わなきゃ分からないんですか!?」

「…………」


 なんでこの人は、心の底から不思議そうな顔で首を傾げてるんだろう……。

 あれえ? 俺の考えの方がおかしいのか?


 確か、一人部屋はカプセルルームだけでシングルはなかったよな。

 今からふもとの学園都市まで降りるか?

 いや、先生の足では何時間かかるか計算できないし、きちんとした宿で二部屋取るとなれば、二人のお金を合わせても足りるかどうか分からない。


 それ以前に、先生と二人で土地鑑のない街をでウロウロする苦労も考えると……。

 やはり、ここに留まるのが無難だろう。


「分かりました、いいでしょう。その代わり、このことは他言無用ですよ! もしバレたら、俺も先生も、もう学校にも行けなくなりますからね!?」

「は……はい」


 こっちの世界は、こういうことに関してはガバガバなのか?

 いや、目の前にいるのは天然&ドジっ子クイーン。優奈先生一人がガバガバって可能性も十分にある。

 いずれにせよ今夜は、俺の煩悩と全力勝負になりそうだ。

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