05.はっきりさせておかないと!
「入れましたよ、舌」
メアリーの言葉を聞いてよろける可憐。
俺も思わず天を仰ぐ。……とは言っても、見えるのは黒い岩肌だけだが。
――みんな、今頃どうしてるんだろうか……心配してるだろうな……。
「し、し、し……舌っ、入れたの!?」
「入れるわけないだろ! なに言っちゃってんだよ、メアリーは!?」
問い詰めるリリスも答える俺も、声が裏返っている。
「今、メアリーが『入れた』って言ったように聞こえたんだけど!?」
「そ、そう? 入れてないって言ってなかった? 多分……あ、あれだ! 聞き間違いってやつだ!」
眼下を進む金髪の上に右手を乗せながら、俺はもう一度確認する。
「なあメアリー? もう一度よぉ~く思い出すんだぞ?」
「はい」
「使役契約の時、舌なんて……入・れ・て・な・い・よ・な?」
振り返ったメアリーに、再度ウインクサインを送りながら祈るように質問する。
頼むぞメアリー!
舌が入ったのかどうか、お前が考えてるよりもずっと大問題みたいだ!
「それは、そんなに重要なことなんですか?」
「重要だ! 俺が幼女とディープなアレをしたなんて噂が広まれば、クラスやD班の連中に総スカンを食らって孤立しかねない!」
「でぃーはん? お友だちのことですか? 正式な使役契約に対してそんな不調法な態度をとる人がいるんですか?」
「いるよ! もうすでに、俺の頭の中でそうなりそうなやつ、二、三人は浮かんでるもん!」
少しの間、不満気に唇を尖らせていたメアリーだったが――。
「ええ、そうでした。舌は入れてませんでした」
「おぉ――っ……」と、身を乗り出すリリス。
「ほんとに!?」
「はい。絆を確かめるためにそれもやむなしと思いましたが、その前にマナの流入が感じられたので、もう必要ないと考えてやめました」
「そ、そうなんだ……ホッ」
リリスが、文字通り手で胸を撫で下ろしながら安堵の溜息を漏らす。
取って付けたような言い訳だが、相手が天然リリスで助かった。
可憐も、心中はどうあれわざわざ波風を立てるようなことはしないはずだ。
よくやった!
と言うつもりで金髪をポンポン撫でると、メアリーが振り向いてボソリと呟く。
「貸しですよ」
メアリー……末恐ろしい娘だ……いや、今でも十分恐ろしいか……。
まあ、ともあれ、これで一件落着か!
……と思いきや、まだリリスの表情は晴れていない。
「でさぁ、紬くん」
「ん?」
「一応確認しておくけど……」
「な、なに?」
「序列は私が上、ってことでいいんだよね?」
「じょれつ?」
「私と、この新米の序列だよ!」
そう言えば魔界では、強力な悪魔ほど深階層に棲み、それを頂点として逆ピラミッドの
やはり悪魔は、そういうことにこだわる
「そんなの改めて考えたことないけど……俺の使い魔ってポジは一緒だし、同列でいいんじゃないの?」
「ダメ! そこはちゃんと、はっきりさせておかないと!」
「そんなこと、はっきりさせない方がおまえのためだと思うけど……」
「なんでよっ!?」
「なんでって言われても、それは俺の勘だけど……」
「不明瞭な線引きはかえって不公平感を煽るんだよ! こっちは遊びじゃないんだよ! 重要な決定を、紬くんのくだらない勘なんに頼らないでいただきたい!」
「わ、わかったわかった!」
――なんだよ、さっきからカリカリしやがって……。
「じゃ、じゃあ、使い魔歴で言えばおまえのが上だし、リリスが一番、メアリーが二番ってことで――」
「それはダメです!」
俺が言い終わるのを待たずに、今度はメアリーが振り返って柳眉を逆立てる。
「そんな、ねんこうじょれつみたいなやり方では新戦力がやる気を失います」
「む、難しい言葉を知ってるんだな……。じゃ、じゃあ……実年齢順にする?」
「それで行きましょう」
「ダメだよそんなの! いくら二十歳っつったって、メアリーの中身は三歳児じゃない!」
と、再びリリスの
俺にとっては心底どうでもいいことなのだが、こう言う場面での最も公平な決め方と言えば……。
「じゃあ、ジャンケンでもする?」
半分冗談のつもりだったのだが、それを聞いたリリスがビシッとメアリーを指差して――。
「勝負よ新米! ラッキーリリスの実力、見せてやる!」
リリスの宣戦布告を受けて、メアリーも口の端を上げてフフッと笑う。
「言っておきますが、守護家の血筋としてメアリーが開眼させた異能は三種類あります。
最後の一つが、
って言うか、本当にジャンケンで決めていいのかよ?
「な、何がマスターよ! そんなハッタリで私がビビるとでも!?」
「ハッタリじゃありませんよ。地母神の思し召しに裏打ちされた、れっきとした異能の力です。リリッペの思い込み
「わ、私の幸運だって、日頃の行いの良さに裏打ちされてんのよ!」
――それ、悪魔としてはどうなんだ?
かくして使い魔同士の、嫌な予感しかしないジャンケン勝負が始まった。
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