08.ラッキーリリス

 確かに、あのムーンストーンが魔力変換アイテムだとすれば、咽から手が出るほど欲しい一品だ。

 しかしなぜ、わざわざ俺たちにとって有益な情報を?


「あの宝具について、何か知ってるか?」


 そっとメアリーに尋ねてみたが、


「いいえ……。もう一つの宝具についてはいろいろと噂は聞いているのですが、この指輪については今日初めて聞きました」


 ん~、バッカスたちも、実は意外と気のいい連中だとか?

 ……なぁ~んてわけはないよな。あいつらのあの表情、いかにも何か裏がありそうだが、かと言って、指輪の効果に関して嘘を言っているという感じもしない。


――一応、聞くだけ聞いてみるか。


「俺たちが勝ったらその宝具をもらえるとして、そっちが勝ったらどうするんだ?」

「こっちが勝ったら……そうだなぁ、そのカリンって女を、一晩自由にさせてもらおうか」


――んなっ! そんなバカな条件受けられるかっ!


 可憐も、短く息を吐いて背中のクレイモアに手を伸ばす。


「おおっと! 待て待て! 冗談だよ冗談!」


 慌てて、両手を胸の前で振るバッカス。


「こんな時にくだらねぇ冗談言ってんじゃねえ! メアリーへの態度を見た後じゃ、全然笑えねぇんだよ!」

「わ、わりぃ悪ぃ……。真に受けんなよ、少年」


――こいつ……半分本気だっただろ?


「冗談はさておき、俺たちが勝ったら、おまえがさっきセレップと交わした使役契約な? あれを白紙に戻すってのは、どうだ?」

「はぁ?」


 そこまでしてメアリーを手放したくないのか?

 確かに、黙ってりゃかなりの美少女だ。ノームの好みは分からないが、ペド野郎なら垂涎すいぜんの女の子だろう。


 しかし、そうは言っても、引き取ったところで妾婦扱い。

 恐らく数十年か……もしかすると何百年に一度出るか出ないかの宝具を天秤にかけてまで欲しがるようなものなんだろうか?

 まあ、いずれにせよ、そんな勝負受けられるわけが……


「わかりました。その条件、呑みますよ」

「え!? お、おい! ちょっと待てメアリー!」

「なんですかパパ?」

「なんですかじゃねぇよ! おまえ、分かってんの? 使役契約が白紙に戻るってことは、おまえも俺たちと一緒に行く理由が……」

「あの宝具、欲しくないんですか?」

「え? いや、まあ、欲しいっちゃ欲しいけど……」

「このままパパと一緒にいっても、マナのやりくりが大変なんですよね? どっちにしろあれがなきゃダメじゃないですか」

「まあ、そうだけど……」

「それに、腕っ節勝負と言うならアレですけど、どうやらやるのはカード勝負のようですし、勝機はあります。パパたちは運が良いですから」

「い、いや、俺の運はEランク――」

「だって、こんな地底でメアリーに会えたんですよ? 凄い強運です」


 強運かどうかはともかく、マナの問題をなんとかしなければ使役契約自体が意味を成さないのは事実だ。


 もう一度、メアリーの瞳を見つめ返す。

 さきほどまで泣いていたせいか、まだキラキラと潤んではいるが、その奥に確固たる覚悟の光が宿っているのが見て取れた。


「メアリーなら、大丈夫です。もしパパたちが勝負に負けても、元に戻るだけです」


 大丈夫なわけがない。

 しかし、あの宝具が必須であることも事実。

 負けたら負けたでその時は……力ずくで突破するしかない!


 俺も、覚悟を決めるとバッカスの方へ向き直り、


「ゲームは、何にするんだ?」


 俺の答えを承諾の意と捉えたのか、バッカスの口元に笑みが浮かぶ。やはり、何か裏がありそうだ。

 相手のペースに引き摺られている感じは気になるが、虎穴に入らずんば虎子を得ず、か。


「使うのはこのプレイングカードだ。ゲームは……そうだな、ポーカーでどうだ?」


 この世界にもポーカーってあるのか。

 なら、プレイングカードとは日本で言うトランプみたいなものだろう。

 基本が分かっているゲームなら、少なくとも同じ土俵で勝負ができる。

 しかし、一言でポーカーと言ってもゲーム形式は様々……。


「ルールは?」

「ファイブスタッドだ。最初の五枚でお互いにカード交換コールするかどうかを決める。交換は一回のみ。しない場合はダウン。一方がダウンするか、或いは勝負になってもブタ同士であればゲームは流れだ」

「と言う事は……代表戦でやるのか?」

「ああ。こんな勝負、大人数でやっても仕方ねぇからな」


 先に宣言する方は順番で交替し、六回ゲームが流れた場合は強制的に七ゲーム目で勝負ということになるらしい。

 念のためハンドの確認もしてみるが、やはり元の世界のポーカーと同じだ。

 因みに、JOKERワイルドカードは使用しない。

 バッカスが、カードをシャッフルしながら、


「こっちの代表は俺だ。そっちも代表を決めろ」


 可憐が、俺と目が合うとすぐに首を左右に振る。ポーカーは知らないらしい。

 となると、やはり俺しか……


「私がやる!」


 肩の上で名乗りを上げたのはリリスだ。


「はぁ? おまえ、ポーカー知ってるの?」

「役くらいは知ってるわよ。日本についてはかなり勉強したし!」


――だから、その勉強に使った資料は何なんだ?  って言う……。


「それにさあ、運のステータス、やたら低くなかった?」

「俺か? そういうおまえはどうなんだよ?」

「ふっふっふ~ん♪ こう見えても、魔界ハイスクールではラッキーリリスって呼ばれてたし!」


 ほんとかよ!?

 そもそも俺たちがこんな世界に飛ばされたのは、そのラッキーリリスとやらのせいなんだが?

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