10.ちょっと見せて下さい
「まったくもう……。完全にパパのせいですからね! メアリーはなんにも、全く、全然悪くないですからねっ!」
「はいはいそうですね。俺が悪かったですねごめんなさい」
棒読みで答える俺を、メアリーがキッと睨み返す。
「そもそもメアリーの蹴りが当たったくらいで流血とか、
「いや、お前の蹴りもまあまあ強烈だったけど、グールにやられたところがあったからな……そこがまた開いちまったんだよ」
「そんなの見れば分かりますよ。それを
――こっちにもスペ〇ンカーみたいなゲームがあるんだろうか?
そうこうしているうちに、俺の額に
「とりあえず傷は塞いでおきましたけど、まだ開き易い状態ですから気をつけてくださいね」
「俺は気をつけてたんだよ。蹴ったのはメ――」
「そんなことより顔が赤くないですか?」
「マイペースかよ……別に、体調とかは特に何も変化ないけど」
「そうですか? 柔なパパのことですから、ちょっと川に流された程度でも風邪とかひきかねないですからね。熱でもあるんじゃないんですか?」
メアリーが、俺の両頬を包み込むように抱え、額を近づけてくる。
少し照れくさくなり、
「ブタさんのこと思い出して赤面しちゃってるのかもな」
と、軽口を叩いた次の瞬間、ゴチン! と鈍い音がして額に激痛が走った。
「いったっ! な、何すんだよっ!」
「娘に向かって下品な下ネタはやめて下さい」
「パパに向かって頭突きもやめろ!」
「熱を計っただけですよ。大丈夫、正常です」
「どう考えても、今のは熱を計る強さじゃねぇよ……と言うか、血! また血が出てきたぞ、メアリー!」
その時、岩陰から
「相変わらず騒がしいな、おまえたちは」
「相変わらずって……昔からお馴染みみたいな言い方すんな」
可憐が松明に布を被せて火を消す。使ってたのは予備の松明だが、この後も何があるか分からないし、無駄に道具を消耗させることは避けたい。
「で、何か変わった様子は?」
俺の問いかけに、可憐は首を振りながら、
「特に、何も。階層は最初の地下空洞と同じくらいだと思うが、魔物の痕跡も見当たらない」
「まあ、出たとしても犬だよな。さすがにもうグールはないだろ?」
「二体倒したし、恐らくはな。……でも、油断はできない」
ポーチから、のそのそとリリスが這い出してくる。瞼が重そうだ。
「寝てたのか?」
「寝てはいないけど、眠くなってきたから出てきた。目的地まで、念のため起きてなきゃマズいでしょ。……って言うか、まだ治療してるの?」
「うん、本日三回目」
「パパがいけないんですよ。メアリーのパンツをオカズにしたりするからです」
「オカズじゃなくて、ネタだろ! 全然別の意味だぞそれ!」
「まあでも……」
リリスが、思い出すように視線を宙に向けながら、
「ぶっちゃけあんなブタさん、見せパンよ、見せパン」
「見せパン? ですか?」
「そ。 見られてもいいパンツ、ってこと。私もいろいろ勉強したのよ。人間界の文化とかファッションについてね」
――前から思ってたけど、こいつ、どんな資料でリサーチしてたんだ?
「そう言えば、リリッペのパンツはやけに布の部分が少なかったですね」
「え? あんた、見たの?」
「川から助けた時に、洗濯して干しましたから。なんか、脱がせようとしたら紐が解けてただの布になってましたけど、あれ、どうやって履いてたんですか?」
「は……はぁ――ぁ? そ、そんなの言えるわけないじゃん! ブタさんと違って、あれは見せちゃダメなパンツなの!」
「ちょっと見せて下さい」
メアリーがステッキを地面に置くと、空いた手でヒョイっとリリスを持ち上げる。
「お、おいこらっ! マイペースかよ! 見せちゃダメ、って、今言ったばかりじゃんっ! ちょ、ちょっと待っ……」
そんな制止にお構いなく、メアリーはリリスを後ろ向きに持つと、お尻の方からエプロンドレスを無造作に
スカートの前裾はリリスが慌てて抑えたので俺の方から中身は見えなかったが、リリスの顔がみるみる真っ赤になるのは分かった。
「ごるぁ――っ! 何やってるっ! このクソガキッ! 離せぇ――っ!」
「女同士なんだからいいじゃないですか」
さらに、ああなるほど、と感心したように
「ふむふむ。布を下から巻いて、あの紐を両側で結んで止めてるんですね。でも、すぐ取れそうで、ちょっと心配ですね」
「なに冷静に解説してんのよ! 心配なのはあんたの頭よっ!」
――リリスが紐パンだったのは、俺も今日初めて知ったわ。
「離せって言ってんでしょ! いい加減にしろ、この悪魔っ!」
「悪魔はそっちでは?」
「意味が違うの! この、この、え~っと……ノームのくせに、このスーパー美少女がっ!」
――悪口になってないぞ……。
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