さきゅばす☆の～と！【改稿版】

02．おじいちゃんが言ってました

「何をやっているんですか！」

　幼い女の子の声が、室内に木霊（こだま）した。

「どうわぁ！」

　慌てて掴んでいた掛け布から手を離したが、最初の位置よりずれたせいで可憐（かれん）の腰辺りまでしか隠せていない。

　入り口で仁王立ちになっている人影と、隣で横になっている可憐の間で視線を行き来させながら、掛け布をそっと元の位置に戻す。

「今、イヤラシイことをしようとしてましたね!?　さてはあなた、その方を追い掛け回してるストーカーというやつですね!?　否定しても無駄ですよ！　目が血走っていましたし、鼻息も荒かったですし、怪しげな心の声も聞こえました！」

　背丈は百二十センチ前後。元の世界なら小学一年生の平均身長がそんなものだ。

　薄茶色の、まるで雨具（ポンチョ）のような形のローブを着ている。フードをすっぽりと被っているので顔は見えないが、声色は女の子のようだ。

　荷物でも担いでいるのか、背中の部分でコートが膨らんでいる。足元も長靴のようなロングシューズのため、見た目はまるで、雨の日の通学路を歩いている小学生だ。

「だ……誰？」

「あなたのような変態さんに名乗る名などありません！　やっぱり男なんて助けたのが間違いでした！　変態さんは結界から出て行って下さい！」

　そう言いながら、ポンチョ少女が懐から何やら黒い鞭のようなものを取り出すと、ピュンピュンと振り回してこちらへ迫ってくる。

　――何だあれ？

　見た目は乗馬用の短鞭に似ている。

　咄嗟に両手を前に差し出してガードするも、その上からお構いなしにペシペシと鞭を振るう少女。命を取られたりするような武器ではなさそうだが、地味に痛い。

「おい、こら、ちょっと待て。話を聞けって！」

「待ちません！　変態さんの話など聞きません！　変態退散！　変態退散！」

　堪らず布団から飛び出して逃げようとするが、立ち上がって素っ裸であることを思い出し、慌てて大切な部分（・・・・・）を両手で隠す。

　どぅわああ――っ！　やべえぇ――っ！

「別にいまさら隠されても、さっきさんざん見ましたし」

　――何？　こいつが俺の服を脱がしたのか？

「とは言え、女の子の前でそんな格好をしてヘラヘラ笑ってるなんて、やっぱり変態さんですっ！　その胸の歯型だって、とても堅気の人間には見えません！」

「ちょっと待てって！　起きたら裸だったんだから仕方ないだろ！」

「この期に及んで言い訳ですか！　おじいちゃんがいつも言ってました！　変態さんの言うことには耳を貸すなと！」

「そんなピンポイントな教訓あるか！」

　――とりあえず、その鞭マジでやめろ！

　左手で大事な部分を隠したまま斜（はす）に構え、右手を鞭の動きに合わせて防御を試みる。……が、俺の右手を巧みに避けて太腿やお尻にペシペシと続く連打。

「いたっ！　いてっ！　マジで……あ痛！　地味に……痛いんだって！」

「おじいちゃんが言ってました！　変態さんに情けは禁物だと！」

「どんだけ変態を警戒してるんだよ、おまえのじいちゃんは！」

　さっきの言葉から、俺たちを助けてくれたのはどうやらこの少女らしいが……とりあえずなんとか落ち着かせないと！

「どぅおらぁ――っ！ 」

　両手で強引に鞭を払い退けて少女の両腕を押さえつけると、くるりと回して背中から抱きかかえるように持ち上げる。

「離しなさい！　こらぁ！　変態さん！　すぐに離すのです！」と、体を左右に振って暴れる少女。反動で、ローブのフードが後ろへずれる。

「離すよ！　離すけど、まずは一旦落ち着こう？　な？」

　フードの下から出てきたのは、前下がりショートボブの間から覗く、幼気（おさなげ）なうなじ。その白い肌は陶磁器のような透明感で、まるで人形のようだ。

　鮮やかな金髪（ブロンド）のストレートヘアが暴れる度に左右に揺れ広がる。

「落ち着いてますよ！　これ以上ないくらい冷静な観察眼と読心術であなたの邪（よこしま）な心を看破したのですっ！」

　――あれが看破？　あの一方的な妄想の羅列が読心術だと？

　その時。

「う――ん……うるさいなぁ……」

　ベッドの上から聞き覚えのある声。むくりと上半身を起こし、目を擦りながら辺りをキョロキョロ見回しているのは……リリスか！

　しかも、掛け布を撥ね退けて現れた後ろ姿は……やっぱり裸!?

「……ここ、どこ？」

　ほぼ同時に、頭を押さえながら可憐もゆっくり上半身を起こし、

「なんだか……騒がしいな……」

　やはり布団の下は全裸のようだ。

「二人とも！　体を見ろ！　裸！　裸！」

　俺の声に振り向きながら、二人が視線を落とすと――。

　自分の格好に気づいてキャッ！と悲鳴を上げるリリスと、黙って胸を隠す可憐。

　二人が掛け布で胸元を隠しながら再びこちへ向き直ると、当然視線の先では、裸の俺が金髪幼女を羽交い絞めにしているわけで……。

　しかもこうなると、少女の体は俺の大事な部分を隠す役割も担っているので、俺も放すに放せない。

「何やってんのよ紬（つむぎ）くん？」

「何やってるんだ、紬？」

　ほぼ同時にリリスと可憐が口を開く。

　……が、端的に今の状況を説明できる言葉が見つからない。

「と、とりあえず、この金髪をどうにかしてくれ！」

「どういう状況なんだ、いったい？」と、掛け布を体に巻きながら可憐が尋ねる。

「え――っと、なんて言うか……」

「変態全裸男が美女を誘拐しようとしている以外に、どんな状況に見えるって言うんですか！　お二人とも、早く私を助けて下さいっ！」

　少女が両足をばたつかせながら状況をまくし立てるが、俺が変態だなんてこと、これまで苦楽を共にしてきた二人が信じるはずがない。

　――って、あれ？

　そのはずなんだが、リリスの視線が急速に冷いものに変わっていく。

「どうりで私に興味を示さないと思ってたら、紬くん、ロリコンだったんだ？」

「んなわけあるか！　もしそうなら、むしろおまえに興味津々だっつの！」