第十三章【地底の幼精①】一人ぼっちの少女

01.何をやっているんですか!

 あぁ――……、いたたたた……。

 なんだこの、ズキズキとした頭の痛みは?


 深い水底から徐々に浮上するように、意識が覚醒していく……。


 ――いや、実際に沈んでいたんだ、水の底にっ!


 ハッと目を覚ますと、見たことのない天井が真っ先に視界に飛び込んでくる。

 木造だが、この世界でよく見てきた木組みの家コロンバージュとはまたおもむきの違う、もう少し原始的な材料が多く使われた独特の内装だ。


 光源は、部屋の中で一個だけともされている小さなランプ。

 目だけを左右に動かすと、窓のない小さな部屋であることが分かった。

 恐らく四畳半くらいだろうが、横にベッドらしき物も置いてあるので、今俺が横たわっている床部分は更にその半分くらいだろう。

 足先の壁に目を遣れば、出入り口らしき小さな木のドアも見えた。


 ゆっくりと上半身を起こしてみる。


いたた……」


 まだ少し頭痛が残っているが、目覚めた直後に比べればだいぶマシだ。

 麻で出来たような、ゴワゴワした薄布が掛けられていたが、子供用のサイズを繋ぎ合わせて大人用にこしらえたような粗末な物だった。


 ――でも……あれ? ちょっと待て! 何で俺、素っ裸なんだ!?


 掛け布を捲ってみると、シャツやハーフパンツはおろか、肌着まで全て脱がされている。身に着けている物と言えば、鈍く光っているライフテールのネックレスのみ。


 ――光っている……。


 光っていると言うことは、みんな無事と言うことか!

 もちろん、可憐も……。


 ――そうだ! 可憐はどこだ!?


 慌てて薄暗い室内を見渡すと、しかし、すぐにそれらしき姿を見止めた。

 すぐ隣で、俺と同じように継ぎはぎの麻布を掛けられて眠る美少女……。

 いや、こちらに背を向けて眠っているので美少女かどうかは分からないが、艶のある黒のロングストレートは……おそらく可憐だ。

 可憐なら美少女だから、間違ってはいない。


「おい、可憐? だいじょ――」


 声を掛けながら少女の肩を揺すると、掛け布がガサリと下にずれて、白い左肩と背中が視界に飛び込んできた。


 まさか、可憐も裸!?

 いったい何なんだ? どこだここは? なぜ裸!?


 一分ほど、気持ちを落ち着けながらこれまでの経緯いきさつを振り返ってみたが、今のこの状況に繋がるヒントは見つけ出せそうになかった。

 再び、思考を現在の状況に引き戻すと同時に、先ほどあらわになった可憐の白い肩が頭の中に蘇ってくる。


 ――白い肩?


 そう言えば、グールに放り投げられて、可憐の左肩や腕に擦り傷が広がっていたはずだが……。まさかこの子、可憐じゃないのか!?

 

 もう一度、隣の少女の掛け布に手をかけて――。


 えっちぃ目的じゃないぞ!

 腕の傷を確かめるだけだ!

 それだけだぞ!


 ゆっくりと捲ってみると、背中にも左上腕にも傷一つ見当たらない。

 少し身を乗り出して覗き込んでみると、やはりその横顔は間違いなく可憐。

 掛け布に隠れた、ちょうど胸の辺りからほんのりと黄色い光が漏れ出ているのも見える。恐らくライフテールだろう。


 ――やっぱり可憐で間違いないけど……どうなってるんだ? 傷はどうした?


 その時。

 突然、部屋のドアがバタンと開いたかと思うと、


「何をやっているんですか!」


 幼い女の子の声が、室内に木霊こだました。

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