03.縄梯子
「多分、迷い込んだ
「進化? って、そんな簡単にできるもんなの?」
「魔物は一般鳥獣に比べて適応や進化のスピードが段違いだからね。常識でしょ?」
「へいへい。常識常識――」
その時。
「見えたぞ!」
緊張に、わずかな安堵が入り混じった
ようやく崩落現場の前に到着だ。
改めて
――俺も最初、この上の何処かで気を失っていたのか。
「ここを登ったところに縄梯子が一つ掛けてある。
テキパキと指示を出す可憐。
「はあ? 最初は女子からだろ? 俺たちは最後だ」
「上にザイルを置いてきただろ? あれで
足首が固定された立夏の足では、痛みがなくとも縄梯子を上るのは時間がかかるだろう。もちろん、患部にとっても無理をさせることは好ましくない。
「わ、分かった!」
理由に納得すると、勇哉と歩牟が急いで土砂の山を上っていく。
立夏が、俺の耳元で、
「……降りる」
「いや、その足じゃこの土砂を上るのは厳しいよ。上まではおぶっていく」
「あたしも手伝う」
可憐が足元を照らす中、手を繋いだ紅来と優奈先生、そして最後に、立夏を背負った俺と華瑠亜の順番で慎重に土砂の山を上る。
安定しているようでも、足を乗せてみるとスケートボードのようにぐらりと揺れる落盤も多い。転んで高い場所から転落でもすればそれこそ大惨事だ。
急ぎながらも慎重に歩を進める。
その時。
「近づいて来てる! 多分、あいつ!」
緊張で強張ったリリスの声。
「来たか……。あと、どれくらい?」
「分かんないけど……まだ
五分目? まだ半分くらいまでしか来てないってことか?
「どれくらい余裕がある?」
「なんせ五分目だからね。まだまだガツガツ食べると思うよ」
――はあ?
「誰があいつの胃袋の余裕を聞いてんだよ! 時間だよ時間! あいつがここに来るまでの!」
「そ、そんなの分かんないわよ私だって! 二分か三分か、あるいは五分か……もしかしたら十分以上かかるかもしれないし」
「……つまり、まったく把握できてないってことだな」
はっきりしてるのは、とにかく可能な限り急げ、ってことだ。
一、二分ほどで、岩礫の頂上付近――縄梯子の下に到達した。
見上げると、松明を咥えた勇哉が、縄梯子から上層の地盤に這い移るところだった。勇哉の姿が完全に隠れると、続いてに紅来が上り始める。
ほぼ同時に、赤と緑の
「立夏を固定してくれ!」
上から歩牟の声が響く。
U字に垂らされた部分で二つの輪を作って立夏の両肩を通し、最後にカラビナで固定。優奈先生が魔道杖を立夏に渡し、のんびりとした口調で声をかけた。
「はぁ~い! 上げていいわよぉ~」
ギュルギュルギュル、という
その間にも、紅来に続いて華瑠亜が縄梯子を上り始めていた。
立夏が上に着くと、
「もう一人、いけるぞ!」と、歩牟の声。
可憐が、ザイルを掴みながら俺の方を振り向いて。
「
「お、おう!」
「……え?」と、優奈先生が、胸の前で慌てて両手を振りながら、
「先生は引率なんだから、みんなが登ってから最後に――」
「いいからっ! 先生はすぐにザイルで!」
「うっ……」
可憐の迫力にたじろいで、黙ってザイルに繋がれる優奈先生。
脇が締め上げられた分、対照的に強調されるEカップの存在感に俺もたじろぐ。
しょんぼりと上がっていく先生を眺めながら、なんだか可哀想になり……。
「なあ可憐、もうちょっと、言い方を柔らかくしても良かったんじゃないか?」
「そんな、悠長にしていられる場面じゃない」
「そりゃそうだけど……」
「紬は、縄梯子を下りる時の先生を見てないから分からないんだよ」
ああ――……。
まあ、それを言われると、なんとなく想像はつくが。
「リリス、あいつは今、どの辺りまで来てるんだ?」
「分からない。だいぶ近づいてたとは思うんだけど……突然音が消えたから」
「消えた? どこか別の場所に移動したのか?」
「分からないけど、音が消えた場所はかなり近かったと思うよ」
もしかすると、ケイブドッグの群れを追って行ったとか?
食人鬼とは行っても、この空洞に特化して順応したなら、
華瑠亜が軽やかに縄梯子を上り切ったのと同時に、再びザイルが垂らされた。
下に置いてあった松明を拾い上げ、可憐がザイルに掴まる。
「私はこっちで上げてもらうから、紬は縄梯子を使え」
「ザイル、固定しようか?」
「いや、掴まるだけで大丈夫だ。それより、紬も急げ」
「ああ、分かった」
俺が縄梯子を上り始めるのを見て、可憐も上を仰いで叫ぶ。
「上げてくれ!」
ザイルがピーンと伸びた瞬間、可憐の体が一瞬宙に吊られるが、すぐにザイルを掴んでいた右手がズルリと滑って外れた。
ほら、言わんこっちゃない。
いくら脳みそプロテインの可憐とはいえ、長時間に渡る地底のミッションで見えない疲れも溜まってるんだ。
俺も一旦、登りかけた縄梯子から手を離して飛び降りる。
「やっぱり固定を……」
そう言いながら可憐の方へ向き直った俺のすぐ目の前――鼻先十センチほどの距離に、突然ニョキっと現れたのは……。
――可憐の顔!?
でも……あれ? なんでこんな近い位置に可憐の顔が?
いや、そんなことより……距離よりももっと不自然なことがある。
可憐の顔が、
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